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渡るものたち(仮)

観光には向かないけど、中二病を発動すれば割引してくれる世界

作者: 襾犲 邑

精霊通信録とは関係ないちょっとしたお話です。



異世界を渡る途中、どうやら目的地とは違う世界にきたらしい。

畑がある開けた土地に、欧米を彷彿とさせるレンガ造りの家がいつくかと、外に出ている何人かの人間。

割と小さな村だ。


間違えたとはいえ、何か新しい情報があるかもしれないから、とりあえず会った村人に話でも聞いてみないとな。


畑仕事をしている40~50代くらいの男がこちらに気が付いた。

「こんにちは」

前に怖いって云われたことがあるから、努めて爽やかそうに見える顔で挨拶をする。


「やあ,こんにちは。見ない貌だね。」

「まあな,少し聞きたいんだが,時間いいか?」

作業を止めてこちらに来てくれた。


「アンタも、どっかから来た魔王とか勇者とか、転生者なのかい?」

「違う」

なにを言い出すんだこいつ。


「そうかい、ここの所、村に来る若ぇやつぁ、みーんなそーゆう人が多くて、飽きちまってたんだよ」

転生者や魔王がよく来るトコロなのか?いや、俺は『魔王』または『その素質ある者』を探しているから、そういった方向での都合はよさそうだ。


「初めての相手には、毎回律儀に物価やこの辺での常識ってのを説明しないと、話が進まなくてねー。世間知らずもたまにいるし」

世間話や愚痴なんかも、何処で尾ヒレが付くかわからないから、気にしているんだとか。


「残念ながら、俺は旅の者でね。何でも屋をやりながら、あっちこっち行っているんだが、この辺りは縁がなくて。その口ぶりだと、魔王か勇者か転生者とやらを知ってんのか?」



「知ってるも何も、隣の村に魔王。山向こうの町には勇者と転生者がいるって噂だよ。

前に、魔王を自称する身なりの変わった奴が、ここに来た事があるけど、ここには何の特産もないし、困ってる事もない平和な村って分かってから、少し立ち寄ることはあっても、永住する奴は殆ど居ないねぇ。スローロリ…農耕には向いてるぜ。」



魔物も出ないし、平和なんだとか。




「そんなに色々な奴が来るのに、よく平和でいられるな。」


「ははは!

そのうち『そーゆー人向けの関税』でも取ったら、小遣い稼ぎでも出来るんじゃないかって冗談出るくらい、平和だねぇ。」


はははと苦笑いする村人。


「それで、その魔王って奴に会いたいんだが、どっちに向かえば良い?」


「をや、アンタもそのクチかい?」

まぁ、仕事探しみたいなもんだとごまかしておく。



「『村おこしの魔王』なら、ここから西に行って数時間くらいの隣の村だけど、そいつ普段は山向こうの街の外に作った砦で、魔物の観光スポット作ってるぜ。

あと、『肩もみ大魔王』なら、東に半日くらいの隣の村だぞ。」


……もっとマシな二つ名は無かったのだろうか。


「砦で魔物の観光スポット?」


「名前の通り、魔王にお目通りしたい魔物や、勇者と一戦交えたい奴や、働き口の斡旋してて、街の美人さんとお近づきになりたいってゆー下心持った奴が集まってるって場所みたいだぜ。前に通り過ぎてった元兵士さんが言ってたっけ」


「人に危害があったりはしないのか?」


「観光業や流通に明るい魔王らしいから、多少の文化の違いはあるけど、隣国に攻められる危険がないし、流通方面でなにかお国から表彰されたらしい。魔物の国を造って独立したって話は聞いていないから、そのまま、共生してるんじゃないか?」


魔王はいるだけで国防にも、観光にも一役買っている。

『村おこしの魔王』というより、『観光“大”魔王』に格上げしても良さそうである。


「あ、忘れてたけど、そこの道をまっすぐ行った廃坑近くの山には、転生者がいるらしいぞ。」


といって、手に持っていたクワで指した先には、割と近く、丘になっているところがあった。

むしろ近所である。


「10分歩けば着く」


「近!?」

思わず突っ込みしてしまった。


「すまん、取り乱して。何故そこまで知っているんだ?」


「気にすんな、皆同じようなリアクションだ。

前に来た時に、自分で名乗って『何かあれば、呼びにくるが良い』って、上から目線で告げて山に引きこもったんだ。

『特に何かあるわけでもないし、誰かと会ってるってこともなければ、何もないから忘れてた』って村出てこっちに引っ越してきた友人が言いふらしてたっけ」


遠い目をして、「忘れてた」と小さく呟いた村人の顔が一瞬だけ、気疲れしたおっさんに見えたのは、きっと気のせいだろう。


「あと…少し離れたタタン国の王室にも、2周目の転生者が生まれたって、国を挙げてお祭りしてたなぁ。

未来から来た御仁なら、これからの先見の目があるってことで、国を良き方向へ導いてくれるだろうって」


「その者がもし異界からの来邦者なら?」

なんとなくの質問だった。


「その場合は、新しい風が入る――新しい文化が広まってより豊かになるだろうって噂だ」


「ふむ、生まれたっていったら、まだ子どもなんだろ?そこまで分かるもんなのか?」



「なんでも、お告げがあったのは、3年前。当時3歳だった第3王子だったが、昨年、侍女にご自身から宣言したとか。」


戸口に何とやらで簡単に身バレする王室転生者。


「何つーか、どこにでもいるもんなんだな。そーゆーの。」


「そりゃー、アンタ、転移者・転生者・魔王・勇者の類いなら、この世界はどの国でも割引が使えるからな」


ちょっと楽しくおしゃべりしてくれるおじさん。

流石のエリー(仮)も引き気味で。


「…割引サービスがあるだと……??」


数ある異世界を渡る仕事をしているエリー(仮)でも、それを逆手にとる姿を見たのは来れがはじめてだった。


「かくいうオレも、異世界から来た『村人A』だが、『異世界証明パス』を持ってりゃ、どこの国でも永住できるんだよ。便利なモン作ってくれたよーな、ホント」


どうやら目の前にいる村人Aも転生者の類いらしい。


宇宙の果てなき旅路の果てに見つけたとある第三惑星で、未開拓地の開拓作業員として、昼も夜も無く働き続けた末の過労死により、この世界へ転移することが出来たのだとか。

この地には、いくら吸っても美味しい綺麗な空気があり、土地を耕せば、すぐメキメキと野菜が育つ土壌には感動したのだとか。

全てに色があり、匂いも、温度も本物で心地が良い『楽園』なのだとか。





「むしろ、異世界から来たなら、『証明書パス』を持ってないと、よそ者は生きにくいと思うぜー、旅人さん」


「えぇ……それは困るな。俺の仕事は、異世界を渡るのが仕事なんだ。この世界での行動に制限がかかるのは、仕事に支障になるな」


「……ふむん…。そういう事なら、村の中にある泉で、何か『証明』できるものを提示すれば、簡単に発行出来るぜ。アンタにもあるんだろ?『ステータス表示』」

最近はある人が多いらしいな。


「ゲームみたいな機能の事を言っているなら、俺には無いぞ。数値化する必要も無いからな」


「あら?そーなの?そいつは参ったな。『パス』はステータスに付与されるツールだから」


どうやら、追加機能の一種らしい。



「ふむ…まぁ、それはそれで足がつきそうだな。無くても、別に構わなさそうだな。特段、長居するつもりも無いし。」


「あはは!そーか!!それはそれで、アリだよな!!!

あのテスト、最後の難題に皆、悩まされていたから…」


「難題?そんなに難しい問題でもあるのか?」


「そうそう難しい事でもないんだが、『自己が中二病である自覚があるか?』って質問に、『イエス』か別のオリジナリティ溢れる答えにしないといけなくてね。」


ぶっ!!!


「それは、キツいな。人前で答える……のか…」


「もちろん。…恥ずかしいし、そのまま答えるもの癪だから、皆、色々と変わった解答をするってのが、ここ最近の流行なんだが、たまに『ノー』って言っても付与される運の良い奴もいるんだ。」


「…へぇ…」

結局のところ、ステータス表示できないと詰むワールドだな。生きてくうえでは、平和だから良さそうだけど。






色々と教えてくれた自称『村人A』に感謝の言葉を告げると、魔王の村へと向かう事にした。













去り際に村人Aの「テケリ・リ!」という鳴き声(?)が聞こえたが、きっと気のせいだろう。



SFちっくなブラック企業ネタぶち込もうとしたら、冷静に考えたらふつーにテケリ・リ!になった件。

読んでくれてありがとうございます。

次回以降は精霊のお話を少しずつ進めていきたいと思います。


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