かいふく系モンスターと女の対決
トアル町にある宿屋“憩いの止まり木”。その居間で、宿の夫婦が何やら話し合いをしていた。難しい顔をして父親が言う。
「いくらなんでも、戻って来るのが遅くないか? アーニャが出て行ってから、もう一か月以上になるぞ?」
母親はおっとりとそれに返す。
「そうですねぇ…… でも、冒険者の方達がダンジョンで商売をしているアーニャを見たと言っていましたから、それほど心配する必要もないのじゃありませんかね?」
「それだってもう三週間は前の話だろうが!」
「飽きて別の場所に行ったのじゃないですかね? あの娘、飽きっぽいですから」
淡白な母親の反応に、「お前は、アーニャが心配じゃないのか?!」と父親は怒鳴る。この二人は、今、家出をしている娘のアーニャの捜索願を出すかどうかで話し合っていたのだった。定期的に家出をする娘だが、今回はなかなか戻って来ないのである。
「何処かで男でもつくっているかもしれないのだぞ? どうするんだ? 男と一緒に帰って来たりしたら! “友達を連れて来ちゃった”とか言って」
「あの娘が男を~? もし、連れて帰って来たら、私はもう大爆笑するしかありませんが」
「なんで、笑うんだ!」
そう父親がツッコミを入れた時だった。玄関から声が聞こえる。
「ただいま~」
二人は目を大きくする。
アーニャの声だ。続けて、こんな声が聞こえて来た。
「ちょっと友達を連れて来ちゃったのだけど~」
二人は顔を見合わせた。
「――で、なんなんだ? その変なモンスターは?」
父親がそう言う。相変わらず難しい顔をしている。母親が続ける。
「そうよー。ビックリしたわ。お母さん、後少しで大爆笑するところだったわよ」
娘のアーニャの隣には、クラゲのラクガキのような奇妙なモンスターが座っていたのだった。名前はカイくんというらしい。子供の半分くらいのサイズ。
アーニャは大雑把で細かいことをあまり気にしない性格をしているが、まさかモンスターを連れて帰って来るとは二人は思っていなかった。
「旅先で友達になったのよ」
澄ました顔でアーニャは返す。
「友達だぁ?」と、それに父親。
「許さんぞ! そんな何処の馬の骨とも分からん男と!」
母親が冷静に言う。
「あなた、落ち着いて、相手は腔腸動物よ」
アーニャが返した。
「馬の骨ってなによ?! カイくんとは旅の間、ずっと助け合って来たのよ?」
※注 ほとんど、アーニャがばかりが助けられていた。
「父さん、許さんぞ! こんなモンスターとなんて!」
アーニャは怒る。
「なによ! カイくんは、とっても便利なのよ! あっという間に怪我を治してくれたり、喧嘩している相手がいたら睡眠魔法で眠らせてくれたり」
「それは確かに便利ねぇ」と母親。「お前は黙っていなさい!」と父親は言うと、カイくんを指差しながら、
「こんな正体不明の謎の生物と一緒に暮らせるはずがないだろうが!」
アーニャはカイくんも一緒にこの宿屋に住むと主張しているのだった。
「別に良いじゃない! 宿屋なんだし!」
「どんな理屈だぁぁ!」
ギャーギャーと、アーニャと父親は互いを罵り合っていた。実は毎回、こんな感じで親子喧嘩をしてはアーニャは家出をするのだが。そんな二人をカイくんはつぶらな瞳でしばらくじっと見つめていた。が、突然口を開いたかと思うと、「ラー!」と叫ぶ。効果音を付けるのなら、ミョンミョンといった感じの波紋が放たれた。次の瞬間、二人は眠りに落ちていた。ぐっすりと。
それを見て母親が訊く。
「今のがアーニャが言っていた睡眠魔法?」
カイくんは頷く。
「ウ」
それを受け、母親は「確かに便利ね、採用」と言った。手と言うか、触手を握っている。
「でも、寝床はどうしようかしら?」
「ウ」とそれにカイくん。アーニャに触手を向けている。
「アーニャと同じ部屋が良いの? あら、本当に懐いてはいたのね」
そうしてカイくんは宿屋“憩いの止まり木”に住むことになったのだった。そして、その噂は瞬く間に町中に広まった。
「――アーニャさんが男を連れて帰って来たですって? メイドのカラさん」
トアル町には宿屋がもう一つあった。アーニャの宿屋よりも少し高級な“金の滴の溜まる場所”という宿。その娘のイル・セーラーは美人であることで有名だった。
「男ではなく、モンスターです。お嬢様。それと、私はメイドではなく宿の女中です」
彼女の部屋に女中のカラは呼び出されていたのだ。自分はイルの召使いではないと、実は彼女はちょっとばかり不満を覚えているのだが。
不遜で偉そうな態度で、イルはそんな女中の訴えをスルーする。
彼女、イル・セーラーは確かに美人ではあるのだけれど、町内『“結婚は絶対にしたくないけれど、遠くから見ている分には美人”ランキング1位』に輝くような、そんな美人だった。
……因みに、本人は近寄りがたい程の美人と良いように解釈をしている。
「名前は確か、カイくんとかいう……。中々、評判らしいわね」
「回復魔法が凄くって、睡眠魔法も優秀みたいですね。疲れが取れて、朝までぐっすりって客から人気があるみたいですよ。喧嘩をしている人がいると、その睡眠魔法で眠らせるらしくって、それも高評価だとか」
それを聞くと、イルは目を光らせる。
「ふーん。いいわね。是非とも、うちの店に欲しいわ。雇いましょう」
「はあ、しかし、どうやって?」
「そんなの簡単よ! 私が本気を出して誘えば拒む男はいないわ!」
ホホホ!
と笑う。
「だから男ではなく、モンスターです」と、女中のカラは冷静に返す。彼女は“どこから、この自信は沸いて来るのだろう?”とちょっと不思議に思っていた。
「カイくん。あなた、うちに来ないかしら? 悪いようにはしなくてよ」
イル・セーラーの部屋にアーニャの宿屋の回復系モンスターのカイくんがいた。ふわふわと空中を浮遊しながら「ウ?」と言う。どうも彼女が何を言っているのかよく分かっていないようだ。
因みに、カイくんはイルが声をかけると簡単に呆気なく付いて来た。
「あんなアーニャみたいな少しも色気がない女より、私の方が百倍魅力的でしょう? あなただってここで働きたいはずよ」
カイくんを撫でながら、イルはそう言う。「ウ?」とカイくんはやっぱり不思議そう。
“モンスターを誘惑している…… この人、マジだもんなぁ”と、そんな光景を見ながらカラは思う。
「さぁ! 大人しくこの宿屋と契約するのよ!」
イルがカイくんに迫る。ところがそこで声が響いたのだった。
「ちょっと待ちなさい!」
窓が開く。
見ると、件のアーニャ・セイレンがイルの部屋の窓から入って来ていた。
「アーニャ! 人の部屋に勝手に、しかも窓から入ってくるだなんて、なんて常識がないのかしら!」
「他人の家の従業員(?)を、勝手に連れて行ったあなたに言われたくないわよ! おまけに引き抜こうだなんて!」
“どっちもどっちなのよねぇ、こいつら……”と、心の中でカラはツッコミを入れる。
アーニャは町内『“遠くから眺めている分には面白くて可愛い娘”ランキング1位』なのである。どうしてこの町の男達が、こんなよく分からない変なランキングばかり作っているのかはよく分からない。
因みに、一部にコアな人気があるとかないとかいう噂も一応彼女にはある。
「あ~ら、選択権はカイくん自身にあるのではなくて? あなたにとやかく言われる筋合いはないわ!」
豪快にそう言うと、イルはカイくんに誘いかけるように腕を伸ばした。
「そんな事ないわよね? わたしと一緒の方が良いもんね?」
アーニャがそう言う。
カイくんは「ウ」と言って首を傾げた。多分、何の事だか分かっていない。だからなのか、十呼吸くらいの間、カイくんはフワフワとただただ浮いていた。
何の反応もないのを誤魔化すようにイルが言う。
「分かったわ!(何が分かったのやら) こうなったら、どっちが魅力的か外に出て勝負よ!」
「何をするのよ?」
「決まっているじゃない!(何も決まっていない) 通りに立って、より多くの男に声をかけられた方が勝ちって勝負をするのよ!」
それに何故かノリ気でアーニャは返す。
「分かったわ! 受けてたってやろうじゃないの!」
それから、小一時間ほど経った。
二人はそれぞれ魅力的だと思い込んでいるポージングを決めて通りに立っていたが、誰一人声をかける者はいなかった。それどころか、男達に避けられている感じ。
“そりゃー……、『“結婚は絶対にしたくないけれど、遠くから見ている分には美人”ランキング1位』と『“遠くから眺めている分には面白くて可愛い娘”ランキング1位』が珍妙なポーズでずっと立ってりゃ、男達も避けて通るわよね。関りになりたくないと思って”
と、そんな二人を見てカラは思う。
「ふっ……」と不意にイルが言った。
「どうやら私の魅力に慄いて、気の弱いこの町の男達は近付いて来れないようね!」
「どうやらそのようね」とアーニャも頷く。
それから、拳をつくるとにやりと笑う。
そんな二人をカイくんはフワフワと漂いながら眺めていた。
「こーなったら、拳で決着をつけるしかないのじゃない?」
アーニャはボクシングの構えを取る。
「望むところですわ」
と、イルは柔術のような構え。
そんな二人を見ながらカラは思っていた。
“……そう言えば、喧嘩をしようとしている人達を見たら、眠らせるのじゃなかったかしら? この回復系モンスター……”
「行くわよ!」と二人。駆け出す。
その瞬間、カイくんは「アー」と睡眠魔法を放っていた。
「カー……」
「グー……」
アーニャとイルの二人の寝息が聞こえる。往来の真ん中で眠っている。ただ、“この娘達ならば……”と思われているのか、行き交う人達は無視して歩いている。やっぱり、関わりたくないのかもしれない。
“なんだかなー”と、そんな二人の間でカラはただ一人、呆れていた。
AIのべりすとの性能を試す為に、このシリーズの第一話目を使ってみた(自分で書いたのの続きを書かせてみた)のですが、それで読んでいたらまた書きたくなっちゃいまして。
因みに、AIのべりすとは一行目でカイくんを殺しました。
一瞬で嫌いになりました。