映画の中から手を振る友達。
昔、私には仲の良い友達がいた。
小学生の時に観た洋画の虜になった女の子。
映画の内容は田舎から大都会に出てきた少女が働きながら夢を叶えて行く物語、駅のホームや勤め先に向かう道などで、夢や好きになった人の事を歌い踊りながら語るミュージカル映画。
友達は主人公の少女では無く、主人公の後ろで歌い踊るバックダンサーが憧れの対象。
「主人公に成りたいと思わないの?」って言う私の問いかけに、彼女は「タヌキ顔の私が主人公になれる訳が無いじゃん」と笑って答えた。
だからバックダンサーに成りたいが為に、中学生になると隣街の劇団に入団して歌や踊りを習い始める。
でも高校生になって最初の秋、脳に腫瘍が見つかり入院した。
お見舞いに行く都度痩せ衰えて行く彼女。
それでも彼女はめげず、ボーダブルDVDで憧れのミュージカル映画を繰り返し観て、主人公から脇役のセリフや歌詞を全て覚え、彼女の家族や私に掠れた声で語り歌って聞かせる。
翌年の夏、彼女はミュージカル映画のDVDを胸に抱きしめながら逝ってしまった。
彼女が逝ってしまってから30年。
クリスマス商戦で賑わう繁華街に夫や子供達と来た私は、大通りに面した映画館で友達が憧れていたミュージカル映画がリバイバル上映されているのに気がつく。
彼女との思い出が色褪せるのが怖くてあれから一度も観る事の無かった映画だったけど、映画を宣伝する看板の絵を見ていたら懐かしさがこみ上げて来て、家族を誘い映画館に足を踏み入れていた。
クリスマスだけど観客は疎ら、映画館の他のフロアで上映している恋愛映画やアクション映画の方が人気があるのだろう。
映画が始まり主人公が最初に歌い踊る駅のホームが映り主人公が踊り始めた時、私は上映中だというのに立ち上がり叫んでしまった。
「貴女! なんでそこにいるの?」
主人公の直ぐ後ろ、以前観たときは空いていた所に高校に入学した時のままの若々しい友達がいて、主人公や他のバックダンサー達と共に歌い踊っていたから。
私の叫び声に主人公が気がつき後ろを向いて友達の手を取ると前に引っ張り出す。
主人公の立ち位置に立った友達は私に手を振り語る。
「久しぶり。
私、夢が叶ったの!
見て見て、憧れの映画の中に入れてバックダンサーになれたのよ」
彼女は私にそう言うと主人公に会釈して元の位置に戻り、満面の笑顔で歌い踊り始めた。