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Last Smith 〜喋る魔剣と千年の約束〜  作者: 天音 ヒロト
第1章 魔剣の契約
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19.迷宮の守護者戦・2

 やるべきことは決まった。

 まずは作戦の内容をマリナに伝える時間を作らなくてはならない。


 俺は水銀で編んだ銀の矢を巨人の瞳目掛けて撃ち放つ。

 真っ直ぐに飛翔した矢は狙い通り赤い目に命中し、ゴーレムが僅かに動きを止めた。

 これで残りの瓶はあと3つ。


 気休め程度にしかならないだろうが、距離の離れたマリナと合流する時間くらいは稼げた。


 俺は目で合図し、2人揃って瓦礫の裏へと隠れる。


「何か良い作戦でも思いついたの?」


「あぁ。マリナ、あいつの膝裏の隙間斬れそう?」


「うん、多分やれると思うけど……」


「よし、時間が無いから手短に話すぞ」


 幸い、目眩しがまだ効いているようだ。

 荒ぶるゴーレムを無視して、現状を打開する策をなるべく簡潔に説明する。


 具体的な手順を聞き届けたマリナは不安そうにこちらを見た。


「私はいいけど、それだとクロムが危ないんじゃ……?」


「そこはまぁ……気合いで何とかするよ」


 正直言えば成功するかもわからない頭のおかしな賭けだ。

 だがこのまま持久戦をしていても先に倒れるのは俺達2人。

 ならばどれだけ危険な賭けだとしても、挑む以外に選択肢は無い。


 尚も戸惑っていたマリナだったが、やがて意を決したのか悪戯っぽく微笑む。


「──わかった。じゃあクロムのこと、信じるね!」


「あぁ、俺もマリナを信じてる!」






 視界を取り戻したゴーレムが魔力で岩石を生成し始めた。

 おそらく投擲攻撃を再開して、隠れた俺達を炙り出すつもりなのだろう。


「準備はいいか?」


「うん、いつでもいいよ」


「よし、じゃあ合図で同時に飛び出すぞ」


 空気が痺れる。

 標準を向けられているのがわかる。


 瓦礫の裏とはいえ、あの岩石の砲弾には耐えられないだろう。

 だが頭は冷静に。着弾するタイミングを見計らってカウントを始める。


「3……2……1……行くぞ!」


 二人同時に瓦礫の陰から飛び出した。

 俺は左側から飛び出してゴーレムへと一直線に、対するマリナは右側から大きく迂回して巨体の裏側に回り込む。


 ゴーレムの赤い瞳は真正面にいる俺一人に向けられていた。


銀よ、剣となれ(ソード・シェイプ)──」


 残り三つの瓶を全て使い、水銀を一つの塊へと変化させる。

 生成された一本の剣を掴み、俺は目の前の巨人に向かってただ走る。


 巨人の堅牢な腕が、羽虫を叩き潰そうとするかのように振り上げられた。


 だが足は止めない。

 避けることもしない。

 彼女を信じて、恐怖を振り払う。




 突如、ガクンと巨体が揺れた。


 回り込んだマリナがゴーレムの両足の膝裏を斬り裂いたのだ。

 切断とまではいかなかったが、それは巨人のバランスを崩すには充分な傷跡だった。


 大袈裟な動作で膝をつくゴーレム。


 それこそが俺達の狙った最大の好機。


 足腰に力を入れて思い切り跳躍した。


 狙うは巨人の胴体、その中心。


 表面に走った僅かなヒビ目掛けて剣先を突き立てる。


「ッ!」


 ギャリギャリと耳障りな音を立てて剣が軋んだ。


 岩石の鎧は刃を拒むが、それすら無視して 全力で剣を押し込む。


「くっ……うおおおおおッ!!」


 隙間に捩じ込まれた剣は確かな手応えと共に少しずつゴーレムの身体へと沈み込んでいった。

 

 再起したゴーレムは赤い瞳を輝かせて俺を睨むが、もう遅い。


──これで、準備は整った。


 不敵な笑みを浮かべ、俺は刺さったままの剣から手を離した。

 ゴーレムの胴体を蹴って距離を取る。


 そして突き出した掌を強く握り、命令を紡いだ。


「──受け取れ、破裂(ラプチャー)!!」


 直後、銀色に煌めく小爆発が視界を満たす。

 深々と刺さった剣が炸裂したのだ。


 まるで儚く砕ける硝子のように、“剣であったもの”がゴーレムの内部を起点に拡散する。


 耳をつんざくような破砕音。

 ゴーレムの機械的な叫び声が迷宮全体に響き渡る。


「Oooooooooo!!!」


 先刻の爆破で胸部分の装甲は酷く歪み、その大部分が弾け飛んでいる。


 その奥には未だ稼働し続ける核が、薄い緑の光を放ちながら脈打っている。


 あれこそが巨人を動かし続ける動力源、心臓だ。


 役目は果たした。あとは──


「あとは任せた、マリナ!」




 真横を通り過ぎていく一陣の風。


 煌めく金髪を揺らし、その剣士はただ一点を目指して駆け抜け、高く跳躍する。


「Ooooooo!!」


 最大の弱点を暴かれた巨人が咆哮した。


 遅い来る敵を握り潰さんと、その太い腕を伸ばす。




 しかし巨人の手が少女を捉える事は無かった。

 頑丈な指先からバラバラと切断される。


 それは指と指の接合部を狙ったマリナの絶技によるものだった。


 もはや彼女を阻むものは無い。

 目の前には無防備に晒された巨人の“核”。


 少女の眼光と白銀の切っ先がピタリと核へと合わせられる。


「せああああッ!!」


 勢いよく突き出された剣先が巨人の心臓部分に深く沈み込む。

 やがて小さなヒビが幾重にも走り、パリンと硝子細工のように砕け散った。


 直後、一際強い閃光が空間を包み込んだ。


「うっ……!」


 あまりの眩しさに一瞬目を覆ったが、状況を把握するためにも恐る恐る瞼を持ち上げる。


 視界に入ったのはだらりと項垂れるゴーレムの巨体。

 そしてその上に立つマリナ。

 彼女は誇らしげに微笑み、人差し指と中指を立て勝利を示していた。


「やったよクロム!」


「あぁ、本当すごいよマリナは。……痛ッて」


 各部に走る鈍い痛み。

 どうやら剣を爆破した際に破片がいくつか跳ね返ってきていたらしい。

 傷は深く無いが、腕や腹部から軽く出血している。


「ってクロム怪我してない!? だから危ないって言ったのに〜!」


「大丈夫だよこれぐらい。現役の頃に比べたら大したことないって。……それに、多少の無理でもしなきゃ勝てなかっただろうし」


 ゴーレムの残骸はもう動く様子は無い。

 マリナによって心臓に等しい生命線を絶たれたため、赤く輝いていたその瞳は既に光を失っていた。


 剣士2人という編成で勝てたのは、ほとんど奇跡に近い。

 改めて勝利を再確認し、ホッと安堵する。


「ごめんね。私がもっと強かったら、あんなに苦戦せずに済んだのに……」


「そんなことないよ。マリナがいてくれたから倒せたんだ。まぁ無事に倒せたんだし、お互い反省は無しにしよう」


 むしろ足手纏いになっていたのは俺の方だ。

 彼女がいなければ策を講じる時間すら得られずに叩き潰されていただろう。


 今回は偶然俺が錬金術を使えて、偶然それが役に立っただけの話。


 俺は勝利の喜びを分かち合うべく、拳を突き出す。


「どうしたの?」


「ほら、マリナも拳を出して」


「こ、こう?」


 首を傾げながらも小さな拳を突き出すマリナ。

 そしてコツンと互いの拳が触れる。


「互いを讃え合うちょっとした挨拶みたいなもんだよ。最高の剣技だったぜ、マリナ!」


「! うん、クロムも格好良かったよ!」


 マリナは満面の笑みを浮かべた。

 面と向かってそう言われると、少し照れ臭い。

 俺は誤魔化すように奥の小部屋を指さす。


 あの部屋はさっきまで塞がっていた。

 おそらくゴーレムを倒したことで開いたのだろう。

 試練を乗り越えた先に待ち受けるものと言えば、もうあれ(・・)しかない。

 

「さて、こんだけ頑張ったんだ。早速お宝とご対面と行こうぜ!」


「うん、何があるんだろう? 楽しみだね!」


 こうして俺達2人は迷宮の初見攻略を成し遂げたのだった。

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