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Last Smith 〜喋る魔剣と千年の約束〜  作者: 天音 ヒロト
序章 鍛治師クロムの前日譚
15/23

14.時は過ぎて

歓迎されぬ者(アウトサイダー)

 皮肉めいたチーム名を掲げ、俺達三人は日々を駆け抜けた。


 主な仕事は魔物討伐が中心だった。

 突出するイブキ、その背を守る俺、剣士二人を支えるラミィ。


 バランスが良いのか悪いのか。欠陥だらけのチームではあったが、なんとか逆境を乗り越えてきた。


 勿論、時には依頼に失敗して逃げ帰ってきたこともあった。

 その度に馬鹿みたいに笑い合った。


 俺は鍛治師としての腕も磨くために週に何度か鍛冶屋で働かせて貰っていたが、それに文句ひとつ言わなかった二人には感謝してもしきれない。




 あっという間に1年が過ぎた。

 季節は移ろい、俺達の関係性も変わり、自分達に向けられた目も少しずつ変わっていった。


 そんな様々な出会いをして、共に成長をして──

 

 こうして俺は今、“自分の店”の前に立っている。


「長かったな……」


 木材と石材で組み立てられた一軒の建物。

 骨組みにはシャクドウスギと呼ばれる上質な木材が使われており、建物全体の耐久性を高めている。


 壁には味のある白い石材、屋根にはほんのり赤い石材が用いられていて、それが道ゆく人々の目を引く。


 外からは視認できないが、その奥には鉄を打つための鍛冶場もある。


 煙突はその際の通気性を良くするためのもので、同時に発生する煙を外へと放出する役割も担っている。


 そして入り口付近の看板には【クロム武具店】と書かれている。

 我ながら単純過ぎる店名だと思わなくもなかったが、これぐらいしか思いつかなかった。


 とにかく武具店としては文句のつけようのない完成度だ。

 大工達の技術と努力が肌で感じ取れる。


「クロムくん、本当にベスティア辞めちゃうんですね」


 ラミィはどことなく寂しさを感じさせる声音でそう呟いた。

 彼女の言う通り、俺は今日この日をもってギルドである【千獣の覇者(ベスティア)】を脱退する。


「うん、最初から店を建てるための資金を稼ぐのが目的だったから。二人には迷惑をかけるけど……」


「迷惑だなんて、そんなこと思ってないですよ〜!」


 無理して笑う癖はまだ治っていないようだ。


 しかし自らを襲う不幸体質、そのせいで人生を悲観的に捉えていた少女はもういない。

 少し天然なところはあるが、今では皆に慕われる立派な治癒術師だ。


 彼女には沢山助けられた。無茶して傷を負った時も、その心優しい在り方にも。

 俺が恐れずに戦場を駆けることができたのは、彼女が後ろにいてくれたからだ。


「謝んなよ、らしくねぇ。それがオメーのやりたかったことなんだろ?」


 イブキはそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべて俺の背中を力強く叩く。


 少し前まで人との関わりを拒んでいた少年は、今となっては皆に頼られる立派な剣士になっていた。


 彼にも沢山助けられた。振り回されることも多かったが、その豪快さ、心強さに救われたことは一度や二度ではない。


 俺が背中を預けて戦えていたのはイブキがいてくれたからだ。


「イブキくんは最初の頃と比べてだいぶ丸くなりましたねぇ……」


 母親のような目線でイブキを見つめるラミィ。

 本当にその通りだと思う。

 まさかここまで心を開いてくれるようになるとは。当時は思ってもいなかった。


「オレそんなに太ったか?」


「そういう意味じゃないんですけど」


 そんなやり取りを見て安心する。

 アホなところは相変わらずだ。


 俺はギルドを抜ける。厄介者が集められたこのチームは解散するが、きっとこの関係性はいつまでも変わらないだろう。


「ま、心配しなくてもオレが常連客になってやるからよ! そん時は安くしろよ〜?」


「任せとけ、お前からは3倍の金額をむしり取ってやる」


「そりゃねーだろ!?」


 真新しい武具店の前、3人でまた馬鹿みたいなやり取りをした。




 最後に軽く深呼吸をしてから、俺は後ろにいる二人に向き直った。

 これまでの感謝の意を込めて深々と頭を下げる。


「──ありがとう。2人がいてくれたから俺はここまでこれた。こうして自分の店を持つことができた。俺はもう前線で戦うことは無いと思うけど、ここから2人のこと、ずっと応援してる」


 思い残すことが全く無いとは言い切れない。

 ベスティアで過ごした1年間は自分にとってもかけがえのない時間だった。


 様々な出会いがあって、沢山のものを見た。


 こんな自分を快く受け入れてくれたジェラルド、ギルドの皆には感謝してもしきれない。


 そして何より、この二人にも。


 冒険者として生きるという選択肢もあったが、やっぱり夢は諦められなかった。


 俺は鍛治師として、最高の武器を作るという夢を追いかけ続けたい。


「うぅ……やっぱり寂しいですよぉ……」


「おい泣くなよラミィ、今生の別って訳でもねぇだろ?」


「いつでも遊びにきてくれ。お茶ぐらい出すからさ」




 随分と遠回りをしてしまった。

 しかし決して無駄足などではない。どれも大切な思い出、必要な過程だった。


 とにかく、鍛治師クロムの物語はようやく始まる。


 今日、ここから。

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