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Last Smith 〜喋る魔剣と千年の約束〜  作者: 天音 ヒロト
序章 鍛治師クロムの前日譚
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プロローグ

 ずっと昔のお話。

 “魔術”と呼ばれる奇跡が世に浸透し始め、文明が劇的な進歩を遂げた時代。


 どこからともなくその邪神は現れました。

 神の名はノクス。悪い神様です。


 多くの種族が仲良く暮らしていることをよく思わなかったのでしょう。

 ノクスは指の一振りで天災に等しい魔術を扱い、世界を少しずつ、でも着実に壊していきました。


 火の魔術は木々を蹂躙し、水の魔術は大海を狂わせ、風の魔術は天空を荒らし、土の魔術は大地を粉々にする。


 普通の人間はもちろん、妖精も、例え竜であろうとも、ノクスには敵いません。

 次第に彼らは心が折れ、誰もが世界が終わるその日を待つばかりでした。


 しかしある日、途方に暮れる人々の前に一人の女神が現れました。

 女神の名はティアーネ。邪神であるノクスを止めるために神様の国から降りてきた善の神様でした。

 ティアーネはそれぞれの国を統べる王達にこう言います。


「ノクスは邪悪な神です。鉄の武器では傷一つつけることもできないでしょう」


「ではどうすればいいのだ?」


 王達は女神に問いかけます。

 そうするとティアーネは光り輝く一振りの剣を王達の前に差し出しました。


「この剣は神々が作り上げた至高の剣です。これならばあの邪神を倒すことができましょう」


 その助言を聞いた王達は、当時最も高潔で最も強いと呼ばれた騎士であるマルスにその聖剣を授けました。

 勇敢なマルスは神に与えられた剣を手に、仲間と共に邪神の元へと向かいます。


 戦いは三日三晩に及びました。雷は雨のように降り注ぎ、吹き荒れる嵐は多くの仲間を吹き飛ばしてしまいました。

 けれど、マルスは諦めません。次々と襲い来る敵を退け、遂には邪神の喉元に刃を突き立てたのです。


 最後に勝利を手にしたのは女神の加護を受けたマルスでした。

 こうして世界は平和を取り戻したのです。






***






「めでたし、めでたし」


 パタン、と絵本を閉じる母。その膝の上に座り、大人しく話を聴いていた少年は目を輝かせながら母の顔を見上げる。


「もういっかい!」


「ふふ……クロムは本当にこのお話が好きね」


 母は苦笑しながらクロムという名の我が子の頭を撫でる。

 何故なら今夜だけでも既に3回も読み終えたのだ。それは苦笑いもしたくなるだろう。


「どこら辺が気に入ったのかしら……マルス様? それとも女神様?」


「ううん、マルスさまもかっこいいけど、ぼくはこっちがいい!」


 少年は絵本の表紙に描かれたマルス、ではなく彼の持つ棒状のものを指した。

 それは光り輝く一本の剣。女神ティアーネから授けられたという世界に二つと無い秘宝。悪者をやっつけて、人々を救った最強の剣。

 その設定は幼い少年の心を惹きつけるには充分過ぎた。


「なるほど、剣が良かったのね。じゃあクロムは将来、鍛治師を目指すのはどうかしら?」


「かじし?」


 聞き慣れない単語に少年は首を傾げる。それに気づいた母は慌てて「ごめんなさいね」と付け足し、話し続けた。


「武器を作る職人さんのことよ。マルス様の剣は神さまが作った物だけれど、クロムも頑張ればこの剣みたいにすごい……ううん、もしかしたらもっとすごい剣が作れちゃうかも」


 幼い子供は想像力が豊かだ。おとぎ話のあの剣が自分の手で作れたらどれだけ楽しいだろう。本物はどれくらい輝いて見えるのだろう。


 そう考えただけで胸の高鳴りはどんどん強まっていき、気がつけば少年は武器のことしか考えられなくなっていた。


「うん、ぼくかじしになるよ!マルスさまのよりもっと、もーっとすごいけんをつくる!」


「うん。じゃあお母さんも楽しみにしてる」


 そう言って母は我が子の将来を楽しむかのように、優しく微笑んだ。




 当時二歳の少年、クロム=ファルクは、こうして武器の世界に魅入られていったのだと思う。

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