第3話 楽しい晩餐
「美味しい」
たまたま入ったレストランであったが、盛りつけまでオシャレなお店であった。
魔女カーリーは、道化師キーンの奢りとあって、いつもは食べれない値段の高い品を3つも頬張っていた。
「ところで、カーリーさんの職業は?」
道化師キーンは食事を早々に済ませると、魔女カーリーのことを探り始めた。
「ねえ、当ててみて。道化のキーンさん」
魔女カーリーは食べるのを止め、じっと道化師キーンの目を見つめる。
「良いでしょう。さてさてさて......」
道化師キーンはじっと魔女カーリーの目を見つめる。
「そうだな、保育士ではない、介護士でもない。もっとアブノーマルな職業だ。君は......」
道化師キーンは魔女カーリーの職業を見破った。
魔女カーリーは、道化師キーンを試すような目でずっと見つめ続ける。
道化師キーンは答えを言った。
「君は、占い師だ」
「凄い、流石ね」
魔女カーリーは一息つくように、自分の正体がバレたことに笑みを浮かべる。
「ふふふっ、道化師キーンを少しは見直したかな?」
道化師キーンは得意になって喜んだ。
「ええ、見直したわ。ねえ、噂で聞いたんだけど、あなたは嘘をつくのが好きなんだってね。どうして嘘をつくの?」
魔女カーリーも、道化師キーンのことを1つ見破っていた。
道化師キーンはこの問いにこう答えた。
「リトルクラウン、憧れの人だ。たった一夜にしてスターになり、僅か20歳の時にこの世を去った。彼は殺されたんだ」
魔女カーリーは殺された理由が分からなかった。
「どうしてリトルクラウンは殺されたの?」
「嘘をついていたからだ。白人主義の時代に、彼は黒人であることをメイクで隠して、ピエロとして世界に名を轟かせたんだ。彼は証明した、肌の色で人は決まらないこと。そして彼は嘘をついて夢を叶えた。かっこいいと思わないか?」
道化師キーンが嘘を愛し始めたのは、リトルクラウンを知ってからだ。
多くの子供に夢と希望を与えたリトルクラウンは、未だに人気の絶えない英雄である。
「嘘で夢を叶える。ちょっとかっこいいかも。ねえ、リトルクラウンみたいな、リトル何とか、でかっこいい言葉を言い合おうよ」
魔女カーリーは突然、言葉のゲームを始める。
「まず、私からね。リトルキング」
これを読んでいる人はお分かりだろう、彼女は少し変わっているのだ。
しかし、道化師キーンはこのゲームを気に入ってしまう。
「うーん、そうだな。リトルモンスター」
もうお分かりだろう。彼らは似た者同士であった。
道化師キーンと、魔女カーリーは、あっという間に打ち解けあった。
きっと互いに惹かれ合ったのだろう、2人はこのレベルの会話を、なんと、"3時間以上"も続けたのだ。
店屋の店主の後日談だが2人は、"紙にマルとバツをつけるゲーム" をしたり、"音を立てずに立ち上がるゲーム" をしたり、"耳元で囁くゲーム" をしていたという。
店の閉店時間も近づいてきた頃、魔女カーリーは道化師キーンに話した。
「とっても楽しかったわ。ねえ、今度家に遊びに行ってもいい?」
道化師キーンは、場の勢いに任せて嘘をついた。
「ああ、いいよ。大きな豪邸に住んでるから遊びに来るといいよ」
「ふふふ、楽しみにしてるわ。ハトで教えてね」
予想外の反応だった。
魔女カーリーは、道化師キーンが嘘つきであることを忘れて、本気で楽しみにしてしまったのだ。
「ああ、もちろん......。ハトで教えるよ」
道化師キーンにとって、楽しい晩餐は、一瞬にして人生最大のピンチになってしまったのだった......。
なんちゃって。
この街の地主アイザック・スミスは、街の全てを決める王様的存在であった。
彼の言ったことは全て、例えそれが死刑判決であったとしても......。