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第1話 道化師は嘘を語る

 "人は必ず嘘をつく、ならば嘘を愛せばいい"

 これはある詐欺師の名言である。彼はなぜ嘘を愛するのか、それはきっと......。

「ようこそ、マジックショーへ」


派手なハット帽、派手なコート、ピエロのメイクをした男が陽気に手品を始める。


街の人気者"道化師キーン・ウィンチェスター"は、今日も愉快なショーを開催していた。


「さてさてさて、こちらをご覧あれ」


道化師キーンは、被っていたハット帽を手にとり、観客に見せる。

誰が見ても何の変哲もないハット帽、タネも仕掛けも分からなからない。


「では、私がここからハトを出して見せましょう」


普通は黒いハット帽で影を利用し、板でハトを隠すのが仕掛けだ。

しかし、彼の帽子は誰が見てもハッキリと底が見えていた。

後からハトを帽子の中に入れるのら確実にバレる。


誰もが手品の失敗を頭に思い浮かべた。

しかし、道化師キーンは自信満々に魔法を唱えた。


「嘘はやがて、真実になる」


道化師キーンがハット帽を被り直し、再び帽子をとる。

すると、帽子の中から10羽のハトが飛び立った。

美しい白いハトに、多くの人々は目を奪われた。

歓声を一身に浴び、道化師キーンは深々と礼をする。


「どうもありがとう」


歓声が止まない中、道化師キーンは続いて手品を始める。


「さあ、ここからは夢のような商品紹介の時間だ」


道化師キーンの手元に、観衆の視線が集まる。

彼が取り出したのは、何の変哲もないペッドボトルに入った水と、空のワイン瓶であった。


「さてさてさて、こちらをご覧あれ」


道化師キーンはワイン瓶を逆さまにし、空であることを証明する。

すると、ペッドボトルの水をワイン瓶の中へと注いでいく。

道化師キーンは指を()()()()と鳴らす。


「今、この瓶の中で革命が起きた。あの水は、美味しいワインになった」


絶他に有り得ない出来事に、観衆に動揺が拡がる。

道化師キーンは、いつものように魔法を唱える。


「嘘はやがて、真実になる」


グラスを取り出し、道化師キーンはワイン瓶の中の水をグラスに注ぐ。

すると、中から真っ赤な"ワイン"が出てきたのだ。

観衆から割れんばかりの歓声があがる。

道化師キーンは歓声を浴び、再び深くお辞儀をする。


「どうも、ありがとう」

「さて、こちらの魔法のワイン瓶。1つ、1000ジェリーからですよ。普通のワインは安くて2000ジェリー、お買い得ですよぉ」


道化師キーンは、魔法のワイン瓶を観衆に販売する。

すると、見ていた大人たちが一斉に、道化師キーンの持つワイン瓶に群がってきた。


「皆さん、落ち着いて。ワイン瓶は200本もありますから、順番に並んでお買い求めください」


道化師キーンは大量の行列を目の前に笑みを抑えることができなかった。


200本全てが売り終えた時だった。

1人の少年が不思議そうに何度も瓶を覗いていた。


「ねえ、おかしいよ。さっき瓶に水を入れたけど、そのまま水が出てきたよ」


大人たちは手にした魔法のワイン瓶にすぐに水を注いで試した。

しかし、出てきたのはやっぱりただの水であった。


「騙しやがったな!」


観衆の笑顔は、一瞬にして怒りの形相へと変わる。


「なんちゃって!」


怒りの形相に怯えた道化師キーンは慌てて札束を手にして、急いでその場から逃げ去った。


逃げる道化師キーンを後ろに、観衆たちは思わず笑いで溢れかえった。


「ふっはははは、騙された。あっははは」


これは嘘を愛し、嘘に愛された1人の道化師の物語である。

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