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第七話 「悪魔の子」という呪いの解除

 私は読み書きが出来なかった。

 それもこれも、元はと言えば【悪魔の子】である私が余計な知識を得ないように、という村人達の考えからだった。

 そんな私に夫妻はリズと同じ家庭教師をつけてくれた。最初は当然恐縮したが、これは全ての子どもの義務であり権利だからと、そう仰ってくださった。そして使用人達もその事に対して、分不相応だとか、そういう雰囲気ではなかった。

 そのことが余計に、今まで自分がどれだけ不遇であったかを思い知らされたような、優しくしてもらっているにも関わらず、少なからずショックを受けた。

 そして不安もあった。私が読み書きを覚えたら、何か変わってしまうのではないか。だからこそ、村人達は反対したのだろう。このまま文字を覚え進めていって、本当に大丈夫だろうか?

 そう思うと、文字をすべて覚えるのが怖く、段々学ぶスピードが落ちていった。そしてそれに気付いた夫妻からお茶に誘われた。

 

「最近気持ちが不安定なのかな?僕達が思うに君は賢い子だから、勉強に身が入らないのは〈わからない〉というよりも、何か他に思うところがあるんじゃないかと思ったんだけど」

「責めているわけじゃないのよ?だけど、元気もないようだし、何かあるなら話してほしいなって」

 その場にリズが居なくてよかった。姉のように慕ってくれるあの子に、こんな情けないところを見せられない。

「………私、怖いんです。文字を覚える事が………」

 それきり黙ってしまった私に、旦那様が優しく声をかけてきた。

「………それは、君が今まで文字を習ってこなかったことと、関係があるのかな?」

 コクリと頷き、恐る恐る言葉を紡ぐ。

「………私が産まれる前に、予言者が、産まれてくる私に強い能力があるって。だけどその能力がどう転ぶか分からないから、悪い方向に転がらないように、余計な知識を与えないほうがいいって……。私が文字を覚えたら、何か世界が変わってしまうのかと、怖くて」

 話を聞いている奥様の顔が怒りで歪む。彼女のこんな顔は初めてみた。驚いて固まっていると、彼女は吐き出す様に言った。

「ーー意味が分かりませんわ」

「ご、ごめんなさい、私の説明が下手で………」

 ビクリとしつつ頭を下げると、

「いやいや。よくわかったよ。私達が怒っているのはその予言者に対してだから、君は何も悪くない」

 普段冷静な旦那様の顔を盗み見すると、優しげな声とは裏腹に、目の奥が底光りして明らかに怒りに満ちていた。

「あの、旦那様も……ですか?」

「当然だ。何の罪もない子どもに、悪魔のような所業じゃないか」

 ーー私は何も悪くない?悪魔のようなのはあの人達………?

 知らず私は涙を零していた。

 そうだ、私は何もしていない。それなのに悪魔の子って厭われて………

 ハラハラと零れ落ちる涙を、ハンカチで優しく拭ってくれる奥様。そして、娘にするように傍に来て頭を撫でてくれる旦那様。

「もう、これは絶対、神の思し召しに違いないわ。貴女を救って私達の家の娘にしなさいっていう」

「全くだ。よくこの家の近くに来てくれた。いいか、君はこの家の娘だ。何も心配することはない。私達が守るからね。だから、字の勉強だって怖がることはないんだ」

「そう………でしょうか」

 まだ信じられない。読み書きを覚えていいこと、このうちの娘だと言ってくれたこと、守ると言ってくれたこと。まさに青天の霹靂だった。

「君は賢い子だから、理論で言ったほうが納得するだろう」

 そう言い、奥様や私にも勧めながら彼は卓上にある紅茶を口にする。

「この世界に魔法があることは知っているかな?」

「…………知ってます、予言者様が使うと聞きました。実際には見たことはないのですが」

 確か、洪水のときに予言者様が氾濫を止める為に川を凍らせようとして使った、とか。といっても予言者様でさえ川全体を凍らせることはできず、焼け石に水状態だったらしいが。

「見たことが無い………それもきっとあえてなんだろうね。その様子じゃ、どういう仕組みなのかも聞いてないだろう」

 私は困惑しながら頷いた。すると旦那様がううん、と唸って目を瞑った。


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