第二話 出会い
「ひどいケガだよ?リズが手当てしてあげる!だから、おうちにおいでよ」
心配そうに、少女がしゃがみこんで私を窺った。どうやらリズという名前らしい。彼女の藤色の髪が神秘的で麗しく、対照に自分の毒々しい紫色の髪が恨めしくなった。知らない子どもに声を掛けるような娘だ。天使のように純粋で愛くるしい性格なのだろう。悪魔と蔑まれるような自分とは対極の存とも言えた。こんな村から遥か遠いところまで来て、自分の卑しさを思い知るとは思わなかった。結局外の世界に出たって同じ。私の存在など変わらないのだ。
絶望に顔を歪める私の心中など知る由もなく、彼女は私の手を引いた。母以外にそんなことをされたことがなく、驚きのけ反ったが、彼女は全く意に介さない。
「私の家ね、あそこなの。ちょっと坂道を登らなきゃいけないけど……歩ける?誰か呼んでくる?」
無邪気に丘の上の豪邸を指差し、そんなことを言う。私は慌てて首を、もげるかと思うほどの勢いで振った。ーー大人は怖い。これ以上人目に付きたくなかった。かといって、このままここにいては確実に飢え死にする。
背に腹は代えられない。私は彼女を信じてついていくことにした。なけなしの体力を振り絞って。
家に着く手前で、使用人らしき中年女性が走り寄ってきた。
「お嬢様!お散歩は中庭だけのお約束です!なぜ家の外まで……!!何かあったらどうするのです!?」
なるほど、彼女は箱入り育ちのお嬢様らしい。それを羨ましいとは思わなかった。むしろ許可がないと外出出来ない環境は、自分と似ていた。だから、少しだけ親近感を覚えた。勿論、私と彼女の外出制限では意味合いが大きく異なることも、わかってはいたけれど。
そう、まるで対極なのだ。ひどいことをしないように外出制限されていた自分と、ひどいことに遭わないように外出制限のされている彼女では。
ただ、外出制限があるという事実だけでも、共通点があるのは私にとっては安心材料だった。
空腹で体もボロボロだというのに、頭の中だけは研ぎ澄まされてそんなことを思う。
「ごめんなさい、アン。窓の外からこの子がうずくまってるのが見えたから………。放っておけなくて」
使用人と思しき女性が『お嬢様』の手に繋がれた私を胡乱な顔でじろじろ見る。今までは周囲に避けられていたので、慣れない視線に戸惑う。だが、好意的ではないのは変わらないだろう。私は無言を貫いた。それが一番いいと思ったのだ。何も発しなければ……プラスにはならないがマイナスにもならないだろう。
「お嬢様。このような得体のしれない娘を、ご当主様の許可なく連れてくるなど……。そりゃあ、お嬢様が如何にお優しいかは、私も存じ上げていますけれどね。ですけど、」
「そうでしょう?私もお父様がなんて仰るか、それは少し心配なの。でも、きっと分かってくださるわ。お父様もアンと一緒で、私の気持ちをとてもよく分かって下さっているもの」
使用人が睥睨するように私を見る中、『お嬢様』は目をキラキラさせて、食い気味に彼女に言った。
「だから、お父様への連絡をお願いね。私はまずこの子を入浴させてあげなくちゃ。あ、ご飯のほうが先かしら?」
相変わらずのキラキラした目で私に問う『お嬢様』。
使用人は嫌そうな顔をしつつ、
「仕方ないですね。ここで倒れられても寝覚めが悪いですし。得体の知れぬ娘とはいえ、私もそこまで人でなしではないつもりですから。簡単なサンドイッチでも用意させますから、中庭の四阿でお待ち下さい」
「ありがとう、アン。貴女がうちのメイドで良かったわ!」
使用人のアンが忙しそうに屋敷に入っていくのを見送って、リズというお嬢様はその場の草むらに座り込んだ。
「四阿までいけって言われたけど……、ちょっと疲れちゃったわ。あなたもでしょ?」
はぁ、はぁと荒い息をしながら彼女は苦しげに眉を寄せた。
「そう……ですね」
自分は空腹で体力の限界のせいだが、彼女は箱入りで元々体力がないのかもしれない。そう思っていると、彼女がおもむろに打ち明けた。
「私ね……心臓が悪いんですって。だから、あんまりお外に出られなくって……」




