第十五話 新しい人生
「もう一つ、不満があるわ。あなたが娘をあの男に預けたことよ。私か両親に預ければ良かったでしょう」
ルーテの不満顔に、更に居た堪れない気持ちになる。
「あー………。いやほら、私が先に死んだら娘はラファエルが育てることになるでしょ?父親だし。で、ルーテや両親とラファエルはお互い面識ないし、ラファエルが戦いが落ち着いてから娘の引取りをって思ったら、ノエルに預けておいたほうがーとか………。でもまさかあんなことになっちゃうなんてさー」
「…………まぁ、それにしたってあの男に娘のおむつを替えさせるのはどうかと思うけど………」
「いやいや、そういうんじゃなくて、天使とか人型の召喚獣とかさー、色々ツテあるでしょ。彼だって一応地上守ってたわけだし、そんな赤ん坊の世話なんてしてる余裕ないでしょ。いや、え?結局ラファエルじゃなくてノエルが父親として育てたわけだから………、え?あのやろー娘のオムツ替えとかしたっていうんか!?うわーそう考えるとめっちゃ腹立つなアイツ!そりゃ預けたのこっちだけど!娘だよ!?息子ならともかく!ありえないでしょ!はっ、そうだ月のものとかさ!………いや、いくらなんでもそれは……、ない、よね?そういうところの常識はあるよね?さすがに………」
リズが青い顔でまくしたてる。あまり考えたくはないが、フィリアのノエルに対する態度を見て、ノエルが好かれていないことは感じ取れたから、もしかしてそういうデリカシーに欠けるような事があったのかもしれない。
「………まぁ、わからないけどね」
「ううう。今始めてあのときの自分を殴ってやりたいと思ったよ………。あ、でもノエルに預けてなきゃフィリアは封印されてなかったし、生まれ変わりの友美とは会えてなかったってことだよね。それ考えると複雑………」
リズは今度は頭を抱えだした。確かにそれはそうだ。ラファエルが心身ともに病んで亡くなった後、生まれ変わりの友美も心に傷を負っていた。それがフィリアの存在で前を向けるキッカケになったのなら、そしてフィリア自身も生まれ変わりとはいえ父親に会えたのなら、悪手だったとも言い難い。もちろん、フィリアにも違う人生があったかもしれないし、一概に良かったとも言えないが。
「……………貴女が亡くなって、なんのために生きてるのか、今度こそ見失ったわ。両親が変わらず私を可愛がってくれたから、それは支えだったけど……。だけどラファエルが光玉を破壊したという話を聞いて。ラファエル自身も亡くなったけど、どうやら光玉は完全に壊れたわけじゃなくて、欠片となって各地に散らばったって分かったから………」
どうせなら完璧に破壊してやろうと思った。私達の人生を狂わせたこの悪魔の石を。たとえそれで自分がラファエル同様死ぬことになっても、全然構わなかった。どうせ元々要らない子だったのだ。そしてそれ以外に、生きる意味も理由も見出だせなかった。むしろ、自分はこの石を消滅するために生まれてきたのかもと思うぐらいだった。
そしてネフェニーに声を掛け、味方に引き込んで。過去と未来を行き来し、転生したリズを捜して接触して。
転生したリズーー義信は意外にも、光玉を消滅させることに賛成だった。そこでお互いに協力することになった。まさか義信の妻が転生した自分だと知って驚いたが。彼女は私と会って初めて前世の記憶を思い出したらしい。それからは私がネフェニーの力で時空を行き来し、3人で計画を推し進めてきた。
「ネフェニー………。あの子には悪いことをしたわ。私に後悔があるとしたらそれだけね」
「…………ルーテ………」
リズはなにか言いたげにしていたが、言葉にすることはなかった。わかっている。そんなことないよ、なんて軽々しく言えないし、かと言って私だけを責めるのも違う、そういうことだと。
「今は、現世のことだけ考えて、夫婦として幸せに生きていきたいわ。ね、あなた」
リズーーーいや、現世では義信という名の考古学者の夫を見つめ、微笑む。
「そうだね。博と真由美とフィリアと……子供たち3人、僕たちの輪廻に巻き込んでしまったけど、それももう終わりだ。もう彼らの人生を歩んでもらおうじゃないか。博も結婚するらしいし。僕も、今度こそ長生きするよ。決して君を置いていったりしない」
「約束、ですよ」
ルーテの記憶を持った義信の妻である私は、そっと彼を抱きしめた。
〜終〜




