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第十三話 終わりの始まり。

 夫人ーお母様は大事には至らず、あのあとすぐに回復された。

 お父様は私達二人を守ってくださったが、代わりに研究を手伝わされている双子の少年のことが気掛かりのようで、時折陰鬱な顔を見せていた。

 ーーそしてそれから四年の月日が経った。

 私は、本当の年齢は知る由もないのだが一応公的には14才と言うことになり、リズは12歳になった。

 リズや両親の傍にずっと居られたらと思い、家族の一員として恥ずかしくないよう、一通りの教養を覚えていた。

 しかし万が一のことも考えて、令嬢教育のようなものだけでは心許ないからと、台所仕事にも精を出していた。

 夫妻は、娘として育てている私が、使用人の真似事をするのに当然良い顔をしなかったが、なんとか説得して料理だけはお許しが出たのだ。

 

 あれから、リズは体調を崩すことも増えた。

 お父様があの事件の日に、リズは二十歳まで生きられないと言っていたことを思い出す。

 せめて医療の進歩を期待していたが、それも今の所叶わず。

 だがだからこそ、彼女は今この家にいられるのだ。でなければ、私共々無理矢理天界とやらに連れられていたかもしれない。当時5歳だったという少年達のように。皮肉なことではあるが。

 今日もリズはベッドに伏せている。

 起き上がることはままならないが、瞳は開けて何か考え込んでいるようだった。

 そうして傍にいた私に問いかける。

「………ねぇ、ルーテ。覚えてる?隕石を見に行ったときのこと」

「…………ええ、覚えていますよ。私がここに来て初めてのお出かけでした。ですからとても嬉しかったです」

 私はあえて、事件のことには触れずに答えた。しかしリズは他に言いたいことがあったようで、私の返事を聞き流して続けた。 

「あのとき、お父様は私が二十歳まで生きられないと言っていたの、聞いていたでしょう?でも、このままじゃ、私、二十歳どころか明日死んでもおかしくないんじゃないかって、そんな気がするの」

 私は言葉に詰まった。

「…………リズ…………」

 しかし彼女はすぐにふふふと笑って

「ごめんね、悲観してるわけじゃないのよ。だからこそ、残された時間をどう過ごしたらいいかって、考えてたの。それで、双子の男の子が研究の手伝いをしているって話も、新聞で知っていたから、私、会いに行ってみたいなって。ほら、あの時私達も光玉に触れたでしょう?私より小さい子達ががんばってるのに、私にも何か、手伝えることがあるかもしれないのにって」

 私は絶句した。あの時のことを、こんなふうに蒸し返されるとは思っていなかった。

「リズ!それは絶対にダメよ!ただでさえ体調が良くないのに会いに行けるわけないわ!無理をしたらそれこそ倒れてしまうかもしれないのよ?そんなことになったらお父様もお母様も悲しむわ!」

 ーーそれに、あんな利益しか考えないような男の所になんて絶対に行かせられない。純粋なリズを利用して何をさせるかわかったもんじゃない。

「………わかってる。でも、ルーテにはわかってほしかったの。このまま、ただ死んでいくのを待つだけなら、少しでも何か、人の為になるようなことをしたいって、そういう気持ちを」

「………リズ………」

 彼女の気持ちは痛いほどわかる。自分の存在意義を見失って、求めてしまう気持ちは。

 悪魔の子と言われた私も、そうだったから。

 自分にも何か出来ないか、人から求められるような何かが出来ないか。

 そういう所は本当に私達はよく似ていた。ただ一つ、絶対的な違いはあるのだけれど。

「………私も、他の皆さんも、貴女が生きていてくれればそれでいいと思っていますよ。あのとき私を見つけてくれた貴女は、まるで天使のようでした。貴女のおかげで、私は人として生きられた」

 これは、大袈裟でもなんでもなく、私の本心だった。

「……貴女は、それでは不十分だと思うのですか?リズお嬢様は存外、欲張りでいらっしゃいますね」

 からかうように、呆れたように、おどけて言ってみせる。

「…………そうね。私って結構欲張りなのかもしれないわ」

 困ったように微笑むリズを見て、私の気持ちが伝わったとホッとした。

 だからまさか、彼女があんなことを仕出かすとは、露ほども思っていなかったのだ。

 あんなーー屋敷を抜け出して天界へ向かうだなどと。

 

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