第十二話 取り引き
私は最初、少し離れたところからリズと奥様と隕石を覗いていた。人だかりの割に、皆少し離れたところからそれを注視している。何故近づいて見ようとしないのか?疑問に思いながらも、リズと二人、恐る恐る近づいてみる。
するとだんだん、隕石の放つ光に吸い寄せられるように歩みが止まらなくなった。隣を見るとリズも同じ様だった。
その時だった。
「リズ!ルーテ!そこから離れなさい!早く!」
初めて聞く旦那様の大声に驚いたのも束の間、追ってきた奥様が何かに弾かれドサリと倒れた。
「お母様!」
「奥様!」
みんなで慌てて駆け寄る。旦那様が奥様を抱き起こすも、奥様はすぐに気を失ってしまった。
真っ青な顔をして泣きじゃくるリズをマリクがなだめる。
すると、旦那様と怪しげな青年の会話が聞こえた。
おそらくリズはあの状態だし、内容は聞いていないだろう。仮に聞いていたとしても大人二人の会話は理解出来ようもない。
しかし私は違う。リズより年上というのもあるが、物心ついた頃から、大人達の悪意に晒されて来たのだ。旦那様がこの男に敵意を向けているのはすぐにわかった。
会話に耳を傾けていると、どうやらこの隕石は触れる者が今の所子どもしかいないらしい。そして私とリズがまだ触れてこそいないものの、隕石に近づけることが明らかになったので、研究のために連れて行くという話らしい。
旦那様は反対した。当然だろう。あれだけ可愛がっている娘を差し出すわけがない。
すると今度は青年が私を差し出せと言ってきた。どうせ本当の娘じゃないのだろう、陛下に打ち首にされたいのか、と。
怒りで目の前が真っ赤になった。これでは、周りの悪意に耐えながらも、精一杯私を育ててくれた母の時と同じではないか。母は結局、私の存在が原因で死んでしまったのだ。
この男は、私を娘として育てるなら打ち首だと………、旦那様にそう言ったのだ!
「バカな!二人とも私達の娘だ!」
旦那様がそう言ってくれて本当に嬉しかった。だからこそ、絶対に打ち首になどさせるわけにはいかない!
拾われた私を娘と呼んでくれた旦那様………いえ、お父様に危害を加える輩など、絶対に許さない!
「お父様から離れなさい!」
気付くと私は叫んでいて、それと同時に背後の隕石の光が筋となって男に向かっていた。
ドウッ
衝撃音に驚き瞬間目を瞑るも、再び目を開けたときには男が地面に縫い付けられるように倒れていた。
「ルーテ……!今のは、君が……?」
お父様が目を丸くして私に問う。
「………わかりません。でも………お父様が打ち首なんて、絶対イヤだったから………そう思ったら、あんなふうに………」
まさかこれが、長老が予言した、私の持つ【恐ろしい力】なのか。私は怖ろしくなって身震いした。
無様に倒れた男がノロノロと立ち上がり、マントのような外套の汚れをはたき落とす。
「………やはり思ったとおり、君はこの隕石に秘められた力を扱えるらしいな」
吹き飛ばされたというに、怒るでもなくむしろ面白い、と言わんばかりの顔で言う。
「だからといって、無理矢理連れて行こうとすれば問題ですよ」
スルーフも牽制する。しかし男は首を横に振りやれやれ、と肩をすくめた。
「今ので確信したよ。この子は連れて行くべきじゃないってね。私への反発心が強すぎる。彼女と一緒に研究を成功させられる未来がこれっぽっちも見えない。どうやら娘二人は、何があっても敬愛するお父様の味方と言うわけだ。羨ましいことだね。対して、一体いつになったら僕の味方は現れるんだろう」
それを聞いたお父様がフン、と鼻を鳴らす。
「自業自得とは思わないのか。貴殿のその独善的な性格では、誰もついては来れないだろう」
「そういう人間も、世の中には必要ですよ。綺麗事だけで生きてはいけない、これは真理だと思いますが。……とにかく、あなたの娘二人は諦めます。代わりにと言ってはなんですが、双子の少年に関しては陛下の決定に従うと約束していただけますか?そうでないとさすがに、ねぇ?」
男は今までの態度からは想像もつかないほどの、憎悪に満ちた目で私とお父様を睨め付ける。おそらく平気なふりをしていても、プライドがズタズタなのだろう。
「………元より、それは最終的には陛下が決めることだ。だが覚えておくように。私は反対もしないが賛成もしない。あたかも私が賛成したかのように触れ回るのはやめてもらおうか」
「そんなことはしないよ。私としては君が口出しさえしなければそれでいいんだ。そうすればあの双子は私の元へ来る。他に行くところなど、ないんだからね」
私は、この男をもう一度ぶちのめしたい衝動をすんでのところで抑え込んだ。




