表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/43

【1話:人類滅亡計画(1)】


ー1年と1ヶ月前ー




 俺の名はクロニクル・ザ・レジェンド。剣闘と魔法の才覚に恵まれ、それに驕ることなく日々研鑽を積んできた。娯楽に興じることもなく、幼い頃から魔物を狩り続けること十数年、


 俺はいつの間にか、“勇者”と呼ばれるようになっていた。俺は自分の強さを人助けのために使った。村を救い、街を救い、その度に頼れる仲間が増えていった。


 そして今日、勇者一行としては最後の大仕事になるであろう“魔王の討伐”が決行される。俺たちは敵の本拠地、魔王城の目の前に立っていた。


「大預言によれば、魔王の目的は人類の滅亡だ」チームの参謀的な役割を担う魔術師、ノエルがそう言った。「まあ、私の魔法でその野望は未然に阻止されるのだがな」


 ノエルは大賢者の末裔らしく、ほとんど全ての属性の魔法を使える優秀な男だ。中でも水属性の魔法に関しては大賢者をも超える実力を誇り、それを利用した冷酷な計略を編むことから“薄氷のノエル”と恐れられてきた。……少々自信家が過ぎるのが玉に瑕だが。


「あんだとヒョロメガネが」パーティ1の怪力を誇る粗雑な大男、重戦士のドルガンが対抗する。「魔王のやつをブッ殺すのはこの俺様だ! てめぇは引っ込んでろ!」


 ドルガンは頭が悪い。それは純粋に短絡的という意味もあるが、常軌を逸した馬鹿力の持ち主なのだ。こいつの一撃は火花が散るほどで、ついた渾名は“鬼火のドルガン“。この怪力に、俺たちは何度も助けられてきた。しかしそれ以上に迷惑もかけられてきた……。


「ちょ、こんな時まで喧嘩しないでくださいッス〜!」この中では最年少で、小柄なゼファーが仲裁に入る。「ほらほら先輩たちも止めてあげてくださいよ〜!」


 ゼファーは元々ある街の有名なお尋ね者で、“業風のゼファー”という通り名で知られた盗賊だった。そこに俺たちが現れ事件を解決し、実力を買ってパーティに入れることにした。普段はお調子者の彼だがシーフとしての才能は凄まじいものがある。


「ほんと、醜いやつらだよねえ……」金の長髪をたなびかせ、槍使いのローレイが侮蔑の表情を向けている。「どうせ争うなら美しく争いなよ」


 ローレイは敬虔な宗教家で、常に経典を持ち歩いている……のだが女癖の悪いナルシストで、とてもじゃないが神に仕える立場の人間とは思えない。しかし戦闘となれば無類の強さを誇るのは他のメンバーと変わりなく、その流麗な槍捌きは“聖槍のローレイ”の名が伊達ではないことを示してくれる。


「はーい、そこまで」快活で可愛らしい声が響く。声の主は回復術師のアリスだ。「駄目だよー、クーちゃんのこと困らせちゃ」


 ピンク色の髪と、それに合わせたゴスロリ系の服。本名アルトリウス、通称アリス。見た目も声も女にしか見えないが、何の冗談か男なのだ……見たことあるしな。ヒーラーとしての腕は確かなもので、“女神のアリス”と呼ばれ崇拝されていたらしい。女でも神でもないのだが……。


 ちなみにクーちゃんというのは俺のことだ。不本意だが。


 アリスの一声で、火花を散らしていたノエルとドルガンが落ち着きを取り戻す。


 ゼファーはほっとした様子で、ローレイは相変わらず興味なさげだ。


 アリスはというと、俺の方を見てニコニコ笑っている。


 こいつらが俺の率いるパーティ。これから一緒に魔王を倒しに行く5人だ。決戦前とは思えないような緊張感のなさだが、だからこそ背中を預けられる。


 覚悟しろ魔王。俺は、俺たちは絶対に負けない。厚い扉を開き、決戦の舞台へと入っていった。



◆◇◆



「で、次はどうするつもりじゃ?」


 椅子の上に跨り、背もたれに顎を付けて、彼女は俺を見下してくる。愉悦と嘲笑が入り混じったその表情に、俺は唇を噛む。


「く、くそ……!」


 実力差は歴然だった。


 ノエルの魔法もドルガンの怪力も通用しない。


 そして俺の剣も、ヤツに届くことはなかった。


「な、なぜだ……こんな女一人に……!?」


 倒れ込んだノエルが、心底不可解だと言うようにそう呟く。


 俺だってそう思う。まさか魔王が少女の姿をしているだなんて。そして何故負けたんだ……? 俺たちは名実ともに最強の勇者パーティのはずなのに……。


「ふふふ……愚かな男たちじゃのう……」魔王は相変わらずニヤつきながら言う。「いや、男たちは愚かだと言った方が正しいか」


 まあよい、と魔王は椅子からぴょんと飛び降りた。白い髪の毛が無邪気に揺れ動く様は、人間の少女にしか見えない。


「これ以上むさ苦しい男どもを見ていても面白いことは何も起きん。さっさと計画を実行してしまおうかの」


 計画?


「け、計画とはなんだ……?」


 俺は痺れて動かなくなった体を無理やり起こしてそう問いかける。


 魔王はきょとんとした顔で、さも当然のことであるように言い放った。


「人類滅亡計画じゃが」


 人類、滅亡……計画。突きつけられた現実にどっと冷や汗が出る。そうだ……可愛らしい外見に騙されてはいたが、こいつは魔王なんだった……。


「安心しろ、痛むのは最初だけじゃ……じきに良くなってくる」


 魔王は何やら術式を発動したようで、魔王城が揺れ始める。


 いや違う……地上自体が揺れているんだ……つまりそれは、この星全体を包み込む魔術だということ。


 人類滅亡計画の始まりなのだ。


 ここまでか……。


「ではまた来世、じゃ!」


 俺たちの絶望感とは正反対に、心底楽しそうに笑う魔王の声が聞こえてくるのと同時に、視界が眩い光に包まれる。


「ぐああああああああああ!」


 目を開けていられないほどの発光の中、俺の身体の奥底から尋常ではない発熱が襲いかかってくる。身体がとろけそうだ。胸が苦しい。


 この症状は俺だけのものではないらしく、四方八方から仲間たちの絶叫が聞こえてくる。


 ……すまない皆、俺は勇者失格だ。


 結局、世界もパーティでさえも守ることができなかった。恨んでくれて構わない。


 贖罪の言葉を伝えることはできなかった。


 俺の意識は途絶えることを選択したのだ。



◆◇◆



 …………。


「あれ」


 生き、てる? 


 だが目を開けても何も見えない。酸素も全然足りていない。


 つまり……ここは瓦礫の中だな。無理やり体を起こすと容易に脱出できた。この辺は俺も伊達に勇者をやっているわけではないのだ。


 どうやら魔王城は先の“人類滅亡計画”の影響で崩れ去ったらしい。だというのに、肝心の人類が滅亡していないぞ。俺が生きている。まさか勇者クロニクルは人間ではなかったとかそういうオチか?


 その時、グラりと足元の瓦礫が揺れ動く。「誰か助けて〜」と見知った声が聞こえてくる。


「アリス!」


 俺は瓦礫を掻き分け、アリスの腕を探し出し、気合一発ど根性で引き抜く。気持ちいいほどすぽんと抜けたアリスは、勢い余って俺を押し倒す形となった。


「いてて……だ、大丈夫かアリス?」


「う、うん……ありがと……クー……ちゃん……?」


 助かったはずのアリスは何故か困惑顔だった。というより、何か不思議なものでも見るかのような目で俺を見つめている。


「ど、どうかしたか……? 何か身体に異常でもあるのか?」


 俺に跨ったままのアリスを俺はよく観察する。顔、体、足、特に何の変化も見られない。とりあえず怪我があるわけではないようだが……。


 すると、アリスは俺の胸に手をあてて、やけに神妙な面持ちで言った。


「クーちゃん……おかしいのはクーちゃんの方だよ?」


 そして思い切り俺の胸を鷲掴みにした、というか揉んでる揉んでる!


「い、いきなり何してる!?」


 はっ、と俺は自分の胸に目をやる。


 なんだ、この、異物は。


 脂肪の化け物。およそ自分とは縁がないと思っていた女性のシンボル的部位。


 それが何故、俺についている。


 恐る恐る自分で触ってみる。


「うわぁ!」


 や、やわい……やわすぎる。こんなにもやわいものがこの世にあっていいのだろうか? 今まで一度も女性のそれに触ったことのない自分でも、本能的に理解できる。


 これは、おっぱいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ