【Pro:桃源郷のような世紀末】
大通りを往く。
花屋、呉服屋、宝石ショップ。
コスメの専門店にエステサロン。
往来に店を構えているのはそういう趣向のものばかり。
「あ、そこのきれーなお姉さんー! もしよかったらウチの新商品見ていかなーい?」
香水売りの少女が俺に声をかけてくる。
俺はつかつかと詰め寄り、ギロリと睨みつけて言う。
「俺はお姉さんじゃない」
違う。俺が求めているのはそういう店じゃない。道具屋、防具屋、武器ショップだ。1年前まではそうだったじゃないか。
「最近のトレンドはエルフチックなニーソックスですかね〜」
「あらそう? じゃ、これ買おうかしら」
呉服屋の店頭で、何やら店員と話している女がいる。
いや、“元男”がいる。
流麗にたなびく金色のポニーテールに、サファイアのように光る大きな目。美しい唇、豊満な胸、下品なケツ。
世に言う絶世の美女だが、あいつは1年前まで確かに“男”だったんだ。
今や地上に男は存在しない。いるのは女と元男。来るべき終末のことなど忘れ、ただ週末に予約したビューティーサロンの施術を楽しみに皆が生きる世界。
……違う、俺がいる。この勇者クロニクルはヤツに魂まで売るつもりはない。俺は男だ……こいつらとは違う!
そしてこの狂った桃源郷の目を覚まさせてやる。1年前のあの日、ヤツへの復讐を誓ったあの日に、そう胸に刻んだんだ。