童貞卒業を目指した俺が気付いた相互理解。
「あー童貞卒業してぇーー!!」
俺は2学期の始業式の終わった教室でいきなり叫んだ。
俺、中田ハルキは高校3年、似非チャラ男・童貞だ。
まぁ、クラスの男子の3分の2が童貞なんだから俺が童貞でも浮いたりはしないんだが、目の前の親友にして俺と同じ似非チャラ男の杉谷タイシがこの夏休みにちゃっかり彼女を作り、更に初体験したと報告してきやがったのだ。
そんなの叫ばずにはいられないッ!
とはいえ、俺はただ単におバカを爆発させたわけじゃない。
俺の叫びへの反応を見ていたのだ。
「ぷぷっ、また中田がバカやってる」
「ホントに。まぁがんばれー」
茶髪にメイクもバッチリ、カースト上位の川崎と本多だ。
まぁ、普段ちょいおバカキャラで通ってる俺への反応としてはあるあるだな。
触れやすいおバカキャラってこういう時事故になりにくいからいいんだよな。
それにこの二人とはこの距離感がいい。
ほうほう、大人し目の佐藤、こっちを見ないようにしつつ聞き耳立ててるな。
わかる、わかるぞ。
俺の相手は嫌だけど、そういうことに興味はあるんだな。
すまん、今日はそれに絡むつもりはないんだ。
興味深いことを言うこともない。
無視してくれていいぞ。
お。いた!そうか、森!そういう反応をする子を探してたんだ!
クラスでもあまり目立たないショートカットの森恵は顔を少し赤くしながら眼鏡の向こうの目が俺をチラチラ見てきている。
「私でよければ・・・」的なアピール。
よかった、このクラスに俺の希望はある!
いや、多分本多あたりは本気で頼めば筆下ろしくらいはしてくれそうなんだが、俺が求めるのはヤルだけの相手じゃない。
親友と同じく、彼女とイチャイチャして脱童貞したいんだ。
狙いは森恵。
そうと決まれば、やることは一つ。
というか、大前提で大事なこと。
俺は現時点で森を好きになっているわけじゃない。
それどころか同じクラスだというのに森のことをほとんど知らない。
ならば、俺は森を知り、本気で好きになって告白するのだ。
目標は冬休み前までに付き合ってクリスマスに初体験だ。
勿論受験勉強を疎かにせずにそれを達成する。
元々成績は悪くないし、やってやる!
そういえば森は進路はどうするんだろうか。
ウチからの推薦枠は学年トップの和田が受けるんだろうから、進学なら普通に受験だよな。
よし、まずはそこから聞いてみよう。
とはいえ、今言ったらがっついてるようにしか見えないな。
明日にしよう。
「おい、バカなこと叫んでないで帰るぞ」
いいタイミングでタイシが帰る催促をしてきた。
こいつの彼女が違う学校でよかったぜ。
家が近所だから同じ学校の子だったら毎日イチャイチャを見せつけられてた。
そんな登下校とか耐えられる気がしねぇ。
その日は寝る前にずっと森のことを考えていた。
どう話そう、何をきっかけにしよう、本命の話題をどう隠そう。
あれ?俺もう結構好きになってないか?
いや、この程度で好きとか失礼だろ。
翌日、結局いいきっかけもなく、昼休み。
タイシと廊下で話していると、
「わりぃ、ちょっとしょんべん」
タイシが便所に行ってしまった。
俺にも出る気配が少しでもあったら連れションに行くところなんだが、微塵も出る気がしねぇ。
まぁ、すぐ戻るだろうとそのまま待っていると、教室から森が出てきた。
「あ、中田君。杉谷君は?」
「ああ、タイシはしょんべん」
あー!俺はバカか!?いつものノリで返事しちまった!
っていうか、ほとんど話したことないのに森から話しかけてきてくれてる!
これはチャンスなんじゃねーの?!
「「あ」」
被った!
どどど、どうする?!
「さ、先にどうぞ」
うおお!いい子じゃん!
って、なに話すんだっけ?えーと、えーと
「森は進路はどうするん?」
やべー!テンパってド真ん中ストレート投げちまった!
折角考えてた配球全部すっ飛ばした!
「◯◯大学の△△学部が第一志望かなぁ。中田君は?」
「マジ?大学は一緒!学部は違うけど」
これは本当だ。
そうか、志望校は一緒なのか。
ちょっと想定と違うけど、これなら受験勉強とか誘えるんじゃないか?
浮かれていた俺は森の次の言葉で完全に有頂天になる。
「ごめんね、実は知ってた。同じ大学行けたらなぁって思って調べたら、私が進みたい学部があったの」
俺と同じ大学行きたいって、もしかしてそういうこと!?
「じゃ、じゃあさ、一緒に勉強しない?過去問とかも持ってるしさ」
あぶねっ。ちょっと噛んだ。
「いいの!?私ギリギリより下目だからこっちからお願いしたいくらいだよ!」
オッケーキタァァァアアア!!
なんか、思ってたより積極的な子かも。
それに話しやすいとまでは言わないけど、全然話してくれない子より断然いい。
テンション上がりすぎてヤバかったが、タイシが戻ってきそうなことを思い出して、とりあえず連絡先だけ交換してその場は別れた。
それから俺は森と受験勉強をしつつ、森のことを知っていった。
家族のこと、趣味のこと、好きな音楽、俳優、TV、本、食べ物、などなど。
その半分くらい聞いたあたりで俺はもう完全に森に惚れてしまっていた。
当然といえば当然だけど、タイシには早々にバレてしまったが、なんだかんだ応援してくれるいい奴だ。
いや、彼女持ちの余裕かもな。
そんなタイシに揶揄われていたとある放課後。
ピロン♪
ん?
《いつものところで待ってます》
いつの間に。
一緒に行くと目立つから別々に行くんだけど、今日はやけに早いな。
さっき帰りのHR終わったばかりだぞ?
そんなことを考えながらタイシと別れいつもの場所――図書室――に向かう。
うちの図書室は特殊で部屋のあちこちに机と椅子が分散していて、その間に本棚がある。
生徒同士が協力して勉強することを良しとして、話し声が他にあまり聞こえないようにする為の配置なんだそうだ。
勿論、大声を出そうものなら即退室させられるけど。
そして、俺たちがよく使ってるのはその席の中でも周りに姿が見られにくい奥の机。
目立たなすぎて使う人がほとんどいないようで、いつも空いていた。
「お待たせ。今日は早かったな」
そこに待つ森に声を掛ける。
「えへへ。この席確保したくて」
惚れてるのを自覚しているせいか余計に可愛く見える。
「ああ、こないだの模試の結果か」
急いだ理由に気付いた。
表情や態度を見るに結果が良かったんだろう。
ちょっと違う期待をしてしまった自分が恥ずかしい。
「そうそう!見て!」
じゃーん!と自分で効果音を言いつつ結果を広げて見せる森。
やはり良い成績だ。
だが、俺はその中の志望校合否判定予想を見て愕然とする。
「えっ・・・××大学・・・?」
森の第一志望は◯◯大学だったはず・・・俺と同じの・・・。
「そう!中田君と勉強してたら成績よくなって、ランク上げてみたの!それでA判定だよ!これも中田君のおかげだよー!」
嬉々として話す彼女はふざけているわけでも冗談を言っているわけでもないようだ。
そうだ、確かに森は"俺と一緒に"とは言っていない。
同じランクを目指したいだけだったのか。
そうは思っても聞かないわけにはいかない。
「なんだ、俺と同じ大学に行きたいんじゃなかったのか」
少しガッカリしたような、それでいて軽い口調で言う。
「んーん、中田君って、ふざけたりするけど頭いいなぁって思ってたから、せめて同じランクの大学に入れるくらい頑張ろうって」
有無を言わせぬ否定に内心では自分の心が砕けるのを感じていた。
「そ、そっか。俺は森と同じ大学に通うの楽しみだったんだけどな」
思わず本音が漏れる。
だが、もうどうでもいい。俺は一人で舞い上がっていただけだったんだ。
「えっ・・・ごめん・・・私・・・」
森は動揺して荷物を纏めて帰ってしまった。
そして俺は何も言わずにそれを見送ってしまった。
それからお互い気まずくなり、連絡は途絶え、顔を合わせても森がそそくさと立ち去ってしまう。
そんな森を見るたびに俺はショックを受けた。
森は頬を赤く染めていたというのに、それにも気付かずに――。
そして、2学期も終わろうかというある日――。
俺はこのくらいで告白することを目標にしていたんだけど、もうどうでもよくなっていた。
森も俺を利用しようとかそういうんじゃなかったのはわかってる。
だから責める気もないし、そうする意味もない。
俺が勘違いしていただけ――あっ。
「こ、こんちには、中田君」
「あ、ああ」
物凄く余所余所しくなってしまったのが寂しい。
最近の中では声を掛けてくれただけでもマシな方だけど。
俺も釣られて辿々しい返事をしてしまう。
ああ、せめて俺は森が好きだって、ちゃんと言えたらよかったな。
「あ、あの、ね。今日、いつもの場所、いい?」
どういうことだろう。
今更勉強も俺が教える必要もないくらいなのに。
でも、わざわざこう言うってことは何か用があるんだろう。
「わかった。行くよ」
「ありがとう」
俺の返事にそう返した彼女は以前のような顔に戻っていた気がする。
そう思うと放課後が待ち遠しくて仕方なかった。
「お待たせ」
あの時のように遅れて奥の席に行くと、森は立ったままこっちを向いて待っていた。
「ごめんね。ほんとはもっと早くに話したかったんだけど、なかなか勇気が湧かなくて。何度もメッセージ送ろうと思ったんだけど、無視されたらどうしようって思っちゃって・・・」
そんなことするわけないじゃないか、と言いたくても言葉が出てこない。
「いや、俺も急にあんなこと言っちゃったから・・・」
俺の言葉で当時を思い出してしまったのか、沈黙が続く。
「あのことなんだけどね。私、全然中田君にそういう風に意識してなくてビックリしちゃって・・・ごめん」
やっぱり最初に見た森の視線は俺の勘違いだったんだな。
森が謝ることじゃない。
「いや、俺のせいなんだ。俺の方こそごめん。でも、ちゃんと言っておきたい。俺は森が好きだ。こんな気まずくなっちゃった今も」
森の目をしっかりと見つめて告白した。
たぶんフラれるんだろうけど、それでもいい。
「ありがとう。あの、ね。あれからずっと中田君のこと考えてたの。そうしたら、胸がドキドキして・・・たぶん私も中田君のこと好きなんだと思う」
え!?
「じゃ、じゃあ」
焦ってしまう俺。
でも、自分じゃ勇み足だってことにも気付かない。
「ごめん。こんなあやふやな気持ちじゃダメだと思うの」
上げて落とされた俺は逃げ出しそうになっていた。
「待って!時間がほしいの」
そんな俺を呼び止める森。
「時間?」
俺は投げやりに聞いてしまう。
「ちゃんと中田君を好きになって、今中田君が言ってくれたみたいに私も自信を持って好きって言えるようになりたい」
俺はそこで気付いた。
今の森はあの叫んだ頃の俺だ。
あの俺は森と一緒の時間を過ごして森のことを知るうちに本気で好きになれた。
なら、今度は森の番だ。
俺を知ってもらって、その上で好きになってもらおう。
俺は自分が知りたいばっかりでそれが足りなかったんだ。
「じゃあ、またここで一緒に勉強しよう。今度は俺が上のランクを目指す番だ」
俺は敢えてそう言った。
「ふふっ、ありがとう」
森はあの時と同じように可愛らしく微笑んで礼を言った。
ここからだ。
今度こそ、俺たちはお互いを知っていくんだ。
お読みいただきありがとうございます。
今回も初挑戦ジャンルです。
男性の方は童貞時代を思い出して「あーあったあった」とか思って頂ければ、きっと恥ずかしいことでしょう。
女性の方は童貞にはこんな簡単に勘違いするやつもいるんだとあくまで一例として参考にしていただければ。(もっとピュアな魔法使いもいます)
※タイトルを少し変更しました。
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