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深雨森の総鎮守 ─異世界現人神転生─ ver.0.8  作者: 輝耶 誉 & 夏舎
第一幕 現人神継承
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『ここはどこだ?』

 快晴を告げる鳥の鳴き声が窓の方から聞こえる。

 ……朝だ。


 自分が一昨日まで眠っていたベッドと遜色ない寝具を使わせてもらったおかげで不快感は一切ない。

 身を起こして軽く上体を伸ばす。まだまだ眠り足りないが、これからどうするかも考えなければならない。


 とはいえ、もう少し休んでも構わないだろうか。


 考えを巡らせる意味で周囲を何気なしに見る。そうしたらまず一点に注意が行った。窓のガラスが奇妙な感じだ。

 そういえば昔のガラスは今よりも品質が悪かったため屈折率や厚さにムラがあったというが、そんな感じだろうか。

 ん? いや、そんな微妙な事よりも窓枠に取り付けられた施錠がクレセント錠じゃなくて横方向の閂になっている!


 ……。


「古めかしい家だとは思った。」

 そう呟きながら歩き回り、その他のものに視線を移していく。


 最近の家には部屋の天井に必ず電灯が設置されている。それが無い。灯りは机の上のガラスランプだ。ランプシェードとかモザイクランプとか言うやつ。見様見真似で点灯して手を近づけるとほのかに暖かい。


 ここが自分の知る現実の範疇なのか、まずそこから考えるべきだ。ここまで来て実は全部夢でしたってことも最悪有り得なくはない。



 とりあえず、分かったことは忘れないように全て呟いて自分の頭に再インプットするようにする。


「アルミやステンレスが部屋に使われていないのはわかった。」


 色からの単純な判断だが多分外していないだろうと思う。

 錆に強く見た目も綺麗なこれらは日用品に用いる際、わざわざメッキ加工したりする必要などそれほどないからだ。


 ゆえに見慣れた鈍い銀色ではなく半端に酸化した黄銅や銅の色のみが散見されるこの部屋の金属は、アルミやステンレスといった最近使用されるようになったものではない。はずだ。


「部屋内の木材と金属の割合はおおよそ9:1。大きな変化が見られないことから、この地域でも森林資源に対する金属資源の貴重さが私の生活圏と変わらないことが分かる。」


 このおかげで昨夜はこの部屋で違和感なく過ごすことができたのだ。典型的な日本人としては木の部屋が一番落ち着く。


「また、壁も土壁といったものではなく、よく見るような壁紙が敷き詰められている。」


 壁紙の種類を変化させることで一面に大きな渦巻模様などを幾つか描いている。

 模様部分は細かい繊維を布のように編んだもので覆われ、模様以外の部分は白く(漆喰だろうか?)塗り固める形で形成されていた。


「だけど装飾が普通ではない。」


 考えるときの腕組み&首傾げ姿勢の癖もこの姿になったらサマになる物だな、と奥にある姿見を遠目で覗きつつ思うのだった。

 その鏡の枠にもあしらわれた動物や昆虫の装飾、それらは見たこともない姿をしていた。







「おはようございます、現人神様。」

 そう言いながら部屋に入ってくる南屋さん。その手には二人分の朝食。

 マジ?


「久しぶりに朝食をご一緒させていただこうかと思うのです。いかがでしょう。」

「あっ、あー……大歓迎です。はい。」

 異論を挟むどころか厚遇を有難がるべき立場に追いやられた。いかんいかん。せっかく台詞を準備したのだから情報を聞き出さねば。


「景色が綺麗ですね。あの窓は何年くらい前からあるんでしょう?」

「窓ですか。」

 部屋の中央に移動させられた赤銅の大机の上に朝食を配膳するのを手伝って。一息ついたところで聞いてみる。だいぶ懐かしい顔で南屋さんは朝日が差す様子を見た。


「もう八十年くらい前になるでしょう。祖母が家を建てた時からずっと同じ窓ですから。」


 なるほど? ということは相応の古さということになる。別に不自然は無いわけだ。


「随分昔からここに住んでいるのですね。」

「ええ。それが私たちの使命……」


 と、またしても雰囲気の硬化。


「……のようなところがありますからね!」


 私の表情に流れを好ましくないと思う感情が出ていたのか、途中で堅苦しい雰囲気を和らげるかのように語調を変えていた。しかも最後には可愛い子ぶるようなエクスクラメーションマークまで。

 にこっと笑った顔の裏で微妙に無理をしているのか、語尾が小さかった。


「土着の民みたいな感じでしょうか。」

「そう、それです!」

 なんとかフォローしたが危うい危うい。

 この人が突然激昂するタイプの人だったら命取りだ。なにしろ……


「警察にはもう連絡の方は……?」

「警察……?」


 こんな感じでどうも、どうにもおかしな空気だからだ。警察と言って意味が通じない人間がいるだろうか。


「だって、その。行方不明になってると思うんです。二日程度だとまだ捜索願とか出されてないと思いますけど心配させたくなくて。」

「……?」

 箸を止め、何を言っているのかよくわからない、といった表情を向けられる。かなり自然な疑問だと思うのだが彼女にとってはそうでもないらしい。


 だが、どの程度本気なのかが気になった。


 そこで考えておいた通りの流れで本題へと詰めていくために軽い冗談を挟んでみた。


「まさかとは思いますけど、日本国憲法が通用しない地域というわけではないですよね?」


 部屋の違和感の解釈は幾つも考えられる。その中から現実に起こっているものを選択するためには追加の判断材料が必要だ。

 そのためには目の前の人物から情報を引き出す必要がある。もしものことを考えると私がまだ何も状況を飲み込めていないと思わせ続ける必要もある。


 だが。



「日本国憲法って何です?」


 ……え?


 …………え???


 ……??????????


 恐ろしいことを聞いてしまった。


 家屋が古いから錯覚してしまうが昭和初期じゃないんだから山間部だろうと義務教育は行き届いているはず。ということは先ほどの返事は確信犯的にはぐらかしていることになる。




 一体自分はどこに来てしまったのだろうか。

 そして何に巻き込まれたというのだろう。




 その時。


 窓の向こうに轟音と咆哮を伴った巨大な影が現れた。


 私が全身を確認した直後、その影は全身を新緑色の大鱗に染めて驚くべき速度で視界の端へと消えていく。






 あれは──まるで龍、それも西洋のドラゴンさながらだった。

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