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深雨森の総鎮守 ─異世界現人神転生─ ver.0.8  作者: 輝耶 誉 & 夏舎
第一幕 現人神継承
2/28

『初めての夜』

 この「異世界」に来た最初の日は、実に4週間ほど前まで遡る。その日は目を覚ましてもまだ夜のような暗さだった。



 普段の就寝後の時間感覚なら朝を迎えているはずだ、という違和感を覚える。だが自分が寝ていた場所の変化は最初に感じた違和感の比ではなかった。


 寝ぼけ眼で辺りを見回してみれば、そこに人工的なものなど一切なかったのだ。


「!?」

 唐突な事態に、自分でも何を言っているのか判別できない声をあげた。布団や毛布がなくなっているどころの騒ぎではない。本当に何も無いのだ。


 姿勢すら仰向けから何かに軽くもたれかかるものに変わっている。背に当たる感触に湿り気を覚えて触ってみればじんわりと水の気配。

 前へ体を起こし、振り返ってみれば自分のいたところは地中まで続く木の虚。中にはふんわりとした苔が敷き詰められる形で自生していた。苔のおかげで多少不潔感は和らぐものの、冗談ではない。


 今時ドッキリなんて流行らないだろう。

 

 そう考えて──再度周囲をよく見て判断しようと考えたが──しかし、どうにもわけがわからない。

 こう見えても田舎生まれの田舎育ち。自分が今まで寝ていた森の深さが故郷にあるそれの比ではないことくらい分かる。


 こんな場所は知らない。

 深すぎる。


 というか


「……なんで森にいるんだ、俺。」

 意味がわからなかった。


 どこをどう見てもここは森林。木々の間から街が見えるということもなく、ただただ枝葉に枝葉が重なっているのみ。近くに山道や林道があるにしても探すのは困難に思えた。



 そして立ち込める雨の匂いも危険な兆候を示していた。


 これが夢ならば、覚めれば何も懸念することなく安全な寝床に戻れる。ところがこれはどうにも夢ではないようなのだ。

 ならばこのような深い森の中で雨に濡れたまま出口を探すこと、もうそれ自体が危険と隣り合わせの行為である。どこか早急に耐え抜くための場所を見つける必要があった。







 幸運にも、その場所はすぐに見つけることができた。


 さっきの地点から数分歩いた場所。根元の幹の幅が大人20人分はあるだろう大樹、その真下にちょうど人が数人風雨を凌げる半地下空間があったのだ。発見した時は見たことがない大きさに思わず感動して思考が飛んでしまった。


 なんて場所だろう。


 これが身内の仕掛けたサプライズだとして、身近にこれほどの自然が眠っていたことに気づかせてくれた、それだけでお釣りが来そうなものだ。


 そう楽観的に思う自分がいる一方で、どうもこれは異常な現象に巻き込まれたのではないかと気が気でない自分もいた。


 何かがおかしい。




 更なる現状確認を行う前に自分が何者であるかの確認をまず行った。


 独り言を交えながら着実に……何故かこの時はそうせねば拠り所を失ってしまうかのような感覚があったのだ。



 私の名前は秋宮柊一郎。義務教育修了からそれほど経ってない一般男子だ。


 通っている高校では少しイレギュラー的な生徒を年相応のクオリティで演じている。最近はお遊びで資格試験の勉強に力を入れる活動を同級生としていた覚えがあるというか現在進行形でしている。

 クールだねえ!とか言い合ってお互いの成果で意識高い高いをするのだ。謎の充実感があるのでなんだかんだ一ヶ月続いてしまっている。


 あと、趣味で適当に鍛えていたため文化系の連中よりは体力に自信がある。運動部に敵わないあたりが私らしい。

 山野を歩き回るのには慣れたものだが校庭のトラックには苦手意識を植え付けられたままだ。







 ぽつりぽつりと雨は降り続く。色々と考えが浮かんでは消える。それは時に現実的な問題解決の作戦会議であり、時に夢想的な現実逃避、ここが本で何度か目にした異世界的空間ではないかなどといったものであった。

 幸いなのは周囲一帯の腐葉土のおかげなのか、それほど気温が下がらなかったことである。むしろじんわりとした暖かさを感じるほどだ。


「は……。」

 身体を樹壁に預け、目を瞑って感慨深く声を発する。本来ならくたびれた男の声が聞こえるところで可愛らしいため息が耳に届く。堪らず疲労感と軽い目眩に襲われた。

 喉か耳か。どちらかをやられてしまっていると、このときは思った。


 自然と瞼が閉じて行く中、もう一度寝て英気を蓄えよう、目が覚めたらこの異常事態が夢で終わってくれはしないか……などと思って意識を手放しかけた正に直後、その声は掛かった。


「現人神様!」




「わたしです、南屋スオです!」

 今日も欠かさず参拝を続けておりました、と語られた。少し離れた彼女の家に招かれる道中のことである。人違いでは無いかと何度も聞いたが、その御姿でこの森に御座します由来無き方こそ現人神様であらせると言って聞かない。


 どういうことなのか詳しく聞こうにも彼女の動揺は激しく、それ以上はどうにも言葉にならない様子。

 結局その頑なな信仰心と現実的に行き場がないことの指摘の清濁織り交ぜたアプローチに折れることとなり、この晩からお世話になることと相成ったのであった。

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