孤独な独り言
私は人の死を幾つも見てきた。
モンゴル人が攻めて来た海辺で昼寝、本能寺が燃える夜にキャンプファイヤー、広島がキノコ雲に包まれた朝になめこ汁を啜った。
不死者である私達は、人間のようには死ねない。それこそ槍が降ろうが、原爆が降ろうがだ。
ただ、最近800万を超えていた一族が、どんどん減っていく事を考えると感慨深いものがある。
少し悲しい気もするが、深く考えなきゃどうということはない。今日も今日とて朝飯として置かれた何億杯目のなめこ汁を啜る。
飯を食べ終わると、テレビを見ている婆さんに挨拶して散歩に出た。
相変わらず反応は無い。旦那に先立たれてからずっとこんな感じだった。ボケも始まりかけているので、そのうち飯も貰えなくなるだろうか?
外に出ると、長期間換気していない室内のような熱気と下水のような匂いに包まれた。
東京は不思議な街になったと思う。焼け野原だった頃は、人が助け合って生きていたのだが、今は困っている人が居ても手を差し伸べようともしない。一人一人が大切にされず、ポイ捨てされる世界。そう私には思えた。
しばらく歩くと、路地に蹲っている同種を見つけた。
行き交う人々は気にもとめてなさそうだった。私は少し迷ったが声をかけることにした。
「こんなところで蹲ってどうしたんだ? 」
私が声を掛けると、そいつは顔を上げた。黒い長髪でキツネ顔の美青年。それが私の第一印象だった。
「ああ。同種ですか。貴方も家が無くなったんですか?」
「いや、私は散歩だ。すまんね」
その言葉を聞いて彼は泣き笑いの表情を浮かべた。
「そうですか......。貴方は幸せな人ですね」
「そんなことないさ。最近は同居人と向き合う機会も減ってね。そのうち、君の後を追うことになると思うよ」
「ははは」
しばらく彼との話に花を咲かせると、気付いた時には辺りが暗くなりかけていた。
「そろそろ帰るよ。付いてくるかい?」
「嬉しい申し出ですけど、お断りします。ただ、出来れば私を覚えていてください」
同種は最後にいつもそう言う。私は約束をして家に帰った。
周囲が真っ暗になる頃、家に帰ってくると、玄関に散らかった多数の靴を見つけた。同時に婆さんや子供達の楽しそうな声が聞こえる。私は慌てて定位置へ戻った。
私が定位置でしばらく待っていると、婆さんと子供達が、私の前に飯を持ってきた。いつもの白米と味噌汁だったが、私には何倍も輝いて見えた。
「今日も見守って下さりありがとうございます」
婆さんはそう言って手を合わせる。ワンパクそうな坊主が一人指を咥えながら、婆さんを笑った。
「何で誰も居ない場所にご飯を置くの? 勿体無いよ」
婆さんは子供の頭を撫でた。
「神さまにお供えしてるのよ。先祖代々引き継いで来たのよ。私が倒れたら、貴方が引き継ぐのよ」
「よくわかんないー」
坊主はそう言って笑った。婆さんも昔はこんなだった。私は懐かしさに笑った。
いつか私も彼のように捨てられるかも知れない。捨てられた神は消えるしかない。願わくば婆さんや子供達の子々孫々まで共にありたいと思う。彼女らの血が尽きる最後の瞬間までは。
さいごに。最近読んでブクマを入れて下さった皆様へ。ありがとうございます。現在shall we game? の続きは鋭意作成中です。
また、会社の皆様へ一応書いて置きます。
私の処理が甘く、身バレしているようですが、同僚の趣味や嗜好の類を見て楽しいですか?
私自身として、バラした人を許せないですが、拡散しようとする人が居るのは、もっと許せないです。私自身争うつもりは無いので、静かに手を引いてください。