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月落とし  作者: 矮鶏ぽろ
古代編
6/51

謁見の間


 一夜が明け、王の宮殿へと赴いた。メテオの遺体を担いで歩く俺の姿は……不審者極まりない。


「王様に……会わせて欲しい。重大な話がある」

「重大だと? 奴隷の分際で一体なんの話をするというのだ」

「……呪いの話だ……」

「なんだと! 呪いだと?」

 衛兵同士がヒソヒソと話合う。呪いや妖のことを熟知するような衛兵は王都には少ないのだろう。事態を説明して脅かすと、王都の中へと案内された。


「それは我々が預かる。もう不要であろう」

「……」

 衛兵が女の遺体を受け取ると、丁重に扱うことすらなく、動けなくなった奴隷を引きずるのと同じように、冷たく硬くなった女の足首を掴んで引っ張って歩いていく。


 装飾品が石畳の上をカシャカシャ音を立てて引きずられていく……。

 ――あんまりだ。王族にとっては、王都で暮らす女も奴隷と同じ扱いなのか――。彼女は元居た部族であれば、高貴な女性だったに違いない……。それなのに、ここでは奴隷と同じ扱いだったのか――。


 王族とはそれほどまでに偉い人間達なのか――! もしも人間よりも王族が優れた生き物だというのであれば、今すぐに大雨を降らしてみせよと言いたい――!

 大きな石を奴隷の力を使わずに運べるような……最新重機を開発してみせよと言いたい!

 こんなことなら……俺の手で弔ってやればよかった……。



 大宮殿の一室――謁見の間へと連れていかれた。

 天井が怖ろしいほど高く、色彩豊かな絵や模様が描かれている。そして中央の巨大な玉座に座っているのは、エーロ王国の王――だと思う。

 装飾品や頭に乗せている冠から眩い金色の光を発している。


「予はドドメ・エーロ。この地の最高にして絶対の王だ。ハマンよ、お前が予に進言したいこととやらを言ってみるがよい……」

「……はい」


 呪いの部族の女が企てていた「月落とし」のこと、その歌の内容を一部始終告げると、王は怒りを露わにし、おもむろに立ち上がった。


「東に流れる大河の上流に住む呪いの部族か……。王都を滅ぼす呪いの歌とは放置してはおけぬ! ――一刻も早く精鋭兵を向かわせ、一人残らず抹殺せよ!」

「「はっ!」」


 部族を皆殺しにするだと――?


「王都にもまだ紛れ込んでいる奴がいるやもしれぬ。見つけ次第処刑せよ――。先手必勝だ」

「「ははっ――」」


 衛兵騎士団長が敬礼をして足早に謁見の間を立ち去る。数名の法衣をまとった王族も数人が足音を立てずに歩き出す。


「そんな! それはあんまりだ」

 王に近づこうとするが、衛兵に槍を突き付けられて阻止された。

 金属製の刃が先端に付けられた最先端の槍だ……。王都の金属加工技術は優れており、部族で主流の黒曜石ではまったく太刀打ちできなかった。

 触れるだけで切れる刃物が首から数ミリのところで止まっている。

「――王様、どうかお考え直し下さい。呪いの歌と舞いを踊る者だけを処罰すればよいではありませんか。部族皆殺しとは、あまりにも御無体――」

 王の目がこちらを見つめた。眼光が……ハンパない。ちびってしまいそうなくらい怖い。

「ハマンと申したな。お前には褒美をくれてやろう……。王都を救った救世主なのだからな」

「……」

 そんなものは要らない――と……声に出せなかった。

「う、ううう……」

 苦しかった奴隷の日々、死んでいった仲間、部族の友……。ここで王に歯向かっても、また奴隷の死骸が一体増えるだけなのだ……。昨日の女、メテオ・ロゼットは最後にこう告げた……。「……お前が生きたいと望むのならば、我の血をすすってでも生きるがいい」と。

 俺は生き続けたい――。他の部族を滅ぼしてでも……安楽に過ごしたい……。痛いのや苦しいのはもう……駄目なんだ。心が折れてしまいそうで、耐えられないんだ――。


 それに……、ここの王族も、きっとそうして生き続けてきたのに違いない……。

 今は生きるために手段を選んでいられないのだ――。チクショウ……。


 二人の衛兵に腕を掴まれて無理やり立たされると、謁見の間から追い出された。



 謁見の間から放り出された俺は、誰かに監視されるわけでもなく、ただ一人、高い天井の大きな通路を歩いていた。

 俺の姿は腰巻きのみ。王族の綺麗な服装に比べればひと際目立つのだが、他の衛兵に捕まったり、変な目で見られたりしなかった。

 王都の中は、治安が良いのだろう……。略奪や殺戮が繰り広げられる外の世界とは大違いだ。皆が笑っていたり、歌っていたり。

 騎士はイケメンばかりで、他は女ばかり。まさに王族のハーレムだ……。


 他の部族の犠牲で成り立っている王都……。こんなものが長く繁栄するはずがない――。王は褒美をやるといったが、何も受け取っていない。

 

 褒美とは、奴隷の俺を、殺さずに生かしておいてやるという……形の無く、それでいて一番嬉しいご褒美だったのか……。


「騙された――! いい歳こいて、悪徳商法に騙されたあああああ!」

 嘆きの声が宮殿の通路に響き渡ると、多くの王族がこちらを不審な目で見つめる。衛兵も数人が近づいて来る。



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