エピローグ
『火星に来ておいて良かっただろ』
「……」
先輩の声が宇宙服の中に無線で聞こえる。
『地球にいたら、今頃は火の海に飲まれて人類は絶滅した――てわけだからな』
「……別に先輩が凄いって訳じゃないでしょ。先輩の先祖が火星行きの抽選に当たったのと、僕の先祖がそれに騙されてノコノコついて来たのが凄いんです」
ニ十分しかもたない重い酸素ボンベを背負い、歩きにくい赤土の上を宇宙服で歩くのは、決して楽ではない。
地球という遠い星は、遠い昔、空気で包まれていた……なんて迷信、信じられるハズがない――。
酸素発生装置には限界があり、火星のベースキャンプ「平成基地」は人口を十人以上に増やせない。
たったの十人だ――。ぼっちじゃなけど、ほぼほぼぼっちだ!
二十一世紀末に打ち切られた火星探査。火星には地球に有用な資源がなく、移住不可能と決断されると、早々に地球との交信は途絶えた。それでも僕達は先祖代々受け継いできた「平成基地」とその設備を維持しつつ、細々と生き長らえている……。何年も、何百年……何千年も――。そろそろ限界だろう。隕石が近くに落ちたことも過去に数回あったらしい。
……これからもないとは限らない。
『なあーに、いつかは地球も冷えて固まり、そしたら帰れる日が来るさ。それか、火星も暖かくなり、氷が溶けてこんな宇宙服も必要なくなるさ』
そんな夢物語にイラっとする。
「何年後の話ですか」
『さあな。早くて十万年は掛かるんじゃないか?』
……はあ~先は長い。
ベースキャンプに隕石が当たって絶滅するのが先ではないだろうか。
『そんなことより、早く今日の分の氷を掘って帰ろうぜ。今日の晩御飯は「モヤシの味噌汁」って言ってたぞ』
モヤシは基地でたくさん収穫できる。僕の大好物だ。
「先輩の奥さん、料理上手ですからね」
『まあな。ただ……人一倍よく食べるがな』
先輩の奥さんはちょっとポッチャリ系で、二人分をペロリとたいらげる。
『お前の奥さんも清楚で可愛いじゃないか』
「へへ~、今日はいいことしてもらうんス。これ内緒ですよ」
『いいよなあー新婚夫婦は!』
赤土の割れ目に潜り込むと、僕と先輩はツルハシを使って硬い岩肌のような氷を掘り始めた。
火星から見える遠くの地球は限りなく小さく――、真っ赤に輝いていた。
「月落とし」はこれにて完結いたします!
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