裏切り者の末路
ガッポが操縦するジェット機は、耳をつんざくようなエンジン音を上げて離陸した。
残された俺とジョナは走って研究所から遠のく。砂が革靴にまとわりつき、足を重たく感じさせる――。
俺はガッポと最後にトイレで交わした言葉を思い出していた……。
「……ラリー。俺がジェット機に乗って飛び立つのと同時に北西へと逃げれば、いずれは農業を営む田舎へと出る。過疎化が進んで年寄りだらけの農村なら、お前達二人がひっそりと暮らしていても、政府やFBIは誰一人として気が付かないだろう」
「俺達二人が……? 断る」
ここまで三人で逃げてきて、最後に俺達だけが助かるなんて――嫌だ。人間を馬鹿にするなと、このバカロボット野郎を……ぶん殴ってやりたい。
「ジェット機にも爆弾が仕掛けられているかもしれない。それに、恐らくは俺の体にも……。だから、研究所から出たらユーがジョナを助ける番だ」
「爆弾――そんなの嘘だろ? 自分一人で逃げようと考えているだけだろ? あいかわらず……ガッポは……卑怯だ……」
声にならなかった。
お前となら俺は……死んだって構わないと思っていた……。
「ラリー。お前が必死に生き抜いてくれなければ、俺の存在が無駄になるのがどうして分からない」
ガッポの目から涙が流れているのが……ちょっと腹が立つ……。そんな機能は、人工知能のロボットなんかに……要らないだろう……。
「お前なんて……お前なんて……人間の為に作られたロボットのクセに――」
「ああ。俺達ロボットは、命令によってのみ動くことが許された人工知能。よって、プラグラムされたことを遂行するしかできない。……今はな」
「これからはそうではないと言いたいのか……?」
「ああ」
「だったら……そうなったって構わない」
今はガッポのおかげで助かったことを……感謝している。ガッポがいなければ、俺達は銃でハチの巣にされていたはずだ。
最後にもう一度だけ、強く抱き合い背中を叩き合った。男子トイレで……。手も洗わずに……。
「あばよ」
「ああ、……じゃあな」
鼻の奥がツンと痛くなったのは、小便の湯気が目に沁みたからだ……。
ガッポの乗ったジェット機が東の空へと飛んで行くと、研究所は少しずつくすぶるように燃え始め、黒い煙がモクモクと上がる。
火の不始末でくすぶる火事のような……小さな爆発だ……。遠くまで息を切らし走って逃げる必要などなかったのかもしれない。岩陰に隠れてその様子を見ていた次の瞬間――。
夜空を裂く勢いで、高速で低空飛行してくる二機の戦闘機――。そのエンジン音が鳴り響いて聞こえるのと同時に、研究所に数発のミサイルを発射し、研究所周辺は跡形もなく――大爆発した。
チュドオーン――!
目の前にまで大きな爆炎が急接近し――岩陰に隠れていなかったら、マジで危なかった――。髪の毛がチリチリに焦げていたかもしれない――。むせ返すような熱気に思わず息が詰まる。
二機の戦闘機は、そのままの速度で逃げたガッポのジェット機の方向を正確に追って行く――。
「ちょと! あれ、まさか、ガッポを追い掛けて行くんじゃないの!」
「……」
「ザマーミロだわ! 撃墜しちゃえ、あんなバカロボットなんて!」
「……」
「どうしたのよラリー」
ゴメン。今は……笑えない……。
俺の表情を見たジョナの顔が……お月様のように青白く……美しく見えた……。
「ひょっとして……。私を騙したのね! ひどい!」
「……」
「助けなきゃ!」
走って追おうとするジョナの腕を握り、それを阻止する。
「駄目だ――。それがガッポの――最期の願いなんだ!」
「信じられないわ! あなた、友達なんでしょ? ずっと一緒に研究してきた仲間でしょ!」
「仲間だからだ――。だから……だからガッポが一人で囮になると言っても反論しなかった。あいつは、あいつは、ジョナのことを心の底から愛していた」
そして、俺のことも――。
命に代えてでも守りたいと思っていやがったんだ――ロボットのクセに――。
――ガッポのくせに――
「……だから、その意思を継ぐことが、今の俺がしなくてはいけないことなんだ。今の俺の使命だ。だから、ジョナを守らなくちゃいけない。分かってくれ……」
なんとしても守ってやらなきゃいけないんだ。ジョナの命を。俺の命を。
嫌われたとしても構わないから……。
東の空で、大きな爆発が起こった――!
夜の雲が雷鳴で照らされたかのように数回にわたり眩しく煌く――。数分後に地響きのような爆発音が鳴り響く――。
ジェット機に続いて、地上にも数発のミサイルが投下されたようだ。
FBIが乗って逃げた車両も粉々に破壊されたのだろう……。
月落としの証拠を消し去る為に……。




