忘れられない言葉……
地下二階まで上がると、俺達にも余裕が出てきた。
どうせ誰もいない。ガッポはライフルを構えずに肩から掛けて歩いている。ジョナはあくびをしている。他愛もない話をしながらブラブラと研究所の通路を歩いていた。どこまで歩いても白い壁と白い扉ばかりの研究所。次にここで働く時には、もっとデザインセンスのある人間を採用したいものだ。
次の研究なんて……ないんだろうがな……。
「そういえばガッポ。お前は味が分かると言ったな」
「ああ。ラリーより味覚は上だと思うぜ」
フン。鼻で笑ってしまう。
「だが所詮、お前はロボット。まさか、煮干しと昆布出汁の味の違いなんて分からないだろ?」
車で50マイル走った食料品売り場で売っている即席ミソスープに最近はまっていた。
「ふん、分かるさ。ラリーこそ、アゴ出汁の味は分からないだろ?」
「……あ、アゴ?」
なんのアゴだ? 出汁が出るような動物のアゴなのだろうか?
豚って、アゴなんかあったか?
それとも、ニワトリのアゴ?
小さそうで……出汁を取るのが大変そうだぞ。
「私は知っているわよ。人のアゴでしょ?」
「「――!」」
――なんと、人のアゴで出汁って取れるのか! でも、熱湯だと火傷しそうだぞ!
「ヘイ、ジョナ……。まさか、それって真面目に言っているのか?」
ガッポにクスクス笑われている。
「バ、バカね! 冗談に決まっているでしょ」
「ハハハ、やれやれ、ラリー、やられたな」
「あ? ああ……」
……人でもなかったのか――。
「あなた達って、本当に仲がいいのね。……羨ましいわ」
こんなポンコツロボットと仲がいいだと――?
「羨ましいだって?」
「ええ。とっても。……わたしにはそんな友達いなかったから……」
友達? ――誰のことだよと言いたい。
「私の家系は、古くから呪いの家系と言われ続け、敬遠されてきたの……」
ジョナはコツコツと音を立てて歩きながら、自分の過去のことを語り始めた。
ジョナは小さい頃から周りから敬遠されていた。誰がどうというわけでなく、昔から不幸を招く家系とされて、村八分にされ続けていたそうだ。……酷い話だ。
「どんなイケメンと付き合おうとしても拒まれ続けることに疑問を抱き、ある日おばあちゃんに聞いたの。そしたら、私達は呪いの血族の末裔だと教えてくれたわ。そして、祖母が教えてくれた秘密の歌……ホワニタマニタ……。本当は全部知っていたの」
ピタリと立ち止まって振り向くジョナの顔は……怒りに満ち溢れてワナワナしていた?
「――ってえ! そんな歌を先祖代々子孫に教え続けているから、私達はいつまでたっても、『呪いの血族だ!』なんて差別を受け続けてきたのよ――! お婆ちゃんに怒鳴り散らしてやったわ! 「余計なことを教えないでっ」て――!」
顔を真っ赤にして肩で息をしながら怒りを露わにするジョナに、俺もガッポも思わず驚いてしまった。
「でも――駄目なの。忘れられないの。どんなに忘れようとしても、一度聞いただけなのに、忘れることができなかった……。まるで、私の体の芯に染み渡っているかのように……」
急に顔を覆って泣き出すジョナの喜怒哀楽の激しさに……ゴメン、ちょっとついていけないかも。
「……ホワニタマニタ~」
「「歌うんじゃねー!」」
ガッポも俺も耳に指を突っ込んだ。そんな呪いの歌なら……覚えたくはないだろう。
月を落とすことのできる呪いの歌なんて……。知らない方がいいのだろう。




