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月落とし  作者: 矮鶏ぽろ
現代編
28/51

通じない心


 裸で二人は仰向けに横になっていた。

 ぎこちなく荒々しい行為が終わった後の僕は、申し訳ない気持ちで一杯だった。それなのに、

「ごめんね。初めてじゃなくて……」

 天井に向かって呟くように言う瑠奈……。どんな表情をしているのか、見たくても見る勇気がなかった。


 いったい誰と……、何人の男とここで……考えたくなかったが、噂を聞いてからずっとそればかり考えていた。――瑠奈には瑠奈の人生があったのに、それに嫉妬するなんて子供過ぎるのに……。


「……いや、僕の方こそ……ごめん」

「……」


 ゆっくりと瑠奈は、自分のことを語り始めた。


「私の祖母と母は謎の死を遂げたの。……たぶん、殺されたんだと思う」

「――え、殺されただって?」

 この平和に満たされた現代日本で?

「いったい誰に」

「分からないわ。私が小学生になる前のことだもの。でも、父は必死にいつも言っていた。「お前は普通だから大丈夫だ。俺の子供だから大丈夫だ」って……」

「普通って……。瑠奈は普通じゃないか。他の女の子と少しも変わらないよ――」

 クスクス笑う。

「文昭は嘘が下手ね。私に「帰れ」って言われたときだって、直ぐに鍵を開けて入ってこればよかったのに……」

 ――じゃあ、やっぱり部屋に入って来て欲しかったのか――。隣を向くと、そっとまたキスされた。


「父は自殺しちゃった。私のことで悩まされ続けていたのよ……」

「……」

「私の先祖から流れている特別な血は優性遺伝する「呪いの血」で、その血は世界中から根絶やしにしないといけないの」

「そんな馬鹿な――」

 呪いの血だなんて……バカバカしい。

「そんなものが実在するのなら、歴史調査員の俺の両親が両手両足を上げて大喜びするだろうさ――」

「大昔から、災いを呼ぶ呪いの血族なんだって……」

 黙って天井を向く。


「私にとっては、私が死ぬのもこの地が滅ぶのも――同じことなのよね……」


 ……どういう意味だ?

 ひょっとして、

「宇宙の中心は自分説……か? 瑠奈はまだ……」

 厨二病と言いかけて……止めた。

「あ、厨二病って言いかけたんでしょ!」

「――ううん。ぜんぜん。思ってもいないよお」

 口をプウっと膨らませて怒る表情を見せるのが可愛い。


 夏の夜、二人で寝るのには狭いベッド。窓から入ってくる風と扇風機だけでは、肌に浮き出る汗は止まらない。

 とても幸せな時間だと感じた。瑠奈もきっと同じだと……思っていた。


 ――だが、そうではなかった――。


「何もかもが急に嫌になる時ってあるよね」

 裸のまま瑠奈は起き上がると、窓際に座った。外から誰か見ていれば、見られてしまうのだが、丸い月をバックに座る瑠奈の姿は、美しくて見とれてしまう。


 そして口ずさむのは……またあの歌。

 ……懐かしいような悲しいメロディー。


「ホワニタマニタ〜マーレータ~。ファ~レーターミイナ・レ~ター。ミ・ンナオエーロ・ジーカアーラ~。オニ―イタン・ハ・エーテル~。キャアーキヤアーミインタニイ・テ~。ミンナ・デ・カーマリータラ~。イエイ!」


 ……最後の「イエイ!」が、少し聞いていて気恥ずかしい……。掛け声のようにも聞こえる。今日は月が妙に明るかった。数日後には満月を迎えるのだろう。


「……今日は追い掛けてきてくれて、ありがとう。でも……もう会わないようにしましょう。月が見えなくなる前に……。


 ――帰って」


 別れを告げた瑠奈の目からはもう、優しさは消えていた。

 瑠奈は下着も付けずに服を着ると、部屋を出て行ってしまったのだ。

 ――仕事の時間になったのだろうか……。



 (あるじ)が出て行き、居心地が悪くなった部屋。一人でいても仕方ながく、僕は服を着て窓を閉めた。

合鍵を机の上に一度置いたのだが……。またすぐに拾い上げ部屋を出ると、外から鍵を掛け……郵便受けに入れておこうかと考えたが……黙って財布の小銭入れに仕舞った……。


 瑠奈には「もう会わないようにしましょう」と言われたが、ここにはまた来ると……確信していたから……。


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