魔法屋“ファーデン・アリアドネ”ー開店準備中ー
小さな町の一角にある魔法屋さん。
名前を“ファーデン・アリアドネ”と言う。
今まで祖父さんが切り盛りしていた店で常連もいたらしい。
その祖父さんももういない。
店は閉めたまま数年が経ってから、魔法学校卒業後に親族が厄介払いできたと思ったのだろう。
俺に相続された。
「ここが、そうか……」
誰も手入れしていなかったため店の塗装、金具などはさびれている。
ここまでひどくなるくらい放置していたということだ。
祖父さんはおかしな人ということで有名だったが、店自体の評判で悪いと聞いたことは無い。
「まぁ、やることもなかったし……いいか」
今日からここが俺の家。
ただ、具体的に店を継いで開くということはまだ決めていない。
中の様子を見るためにも、もらったカギで正面のドアを開ける。
錆びているためドアの開きはガタガタ。
開けた瞬間は埃だらけの空気が一気に体を包み込んでせき込む。
これはたまらんな……。
すぐに魔法ですべての窓を全開にする。
バタバタと開くたびに、埃が舞う。
おまけにここの立地は風が入りにくい。だから、湿気とカビ臭さがある。
風の魔法で一気に中の空気を追い出す。が、それは埃とカビを全身に浴びる原因になる。
「ゴッホッ! ゴホッ! こりゃあ、ダメだ。一からしなおしになるかも」
中の様子はというと商品はなく、棚ばかりが置かれている。部屋の真ん中にテーブルと椅子が二つ置かれて、奥がカウンターとなっている。
基本は正方形の部屋だ。
床は板張りだが……ところどころ割れている。
これも俺が修復しとかないといけないのかよ。
ため息をつきながらも気が付いたところは直していく。
「まぁ、こんなものかな?」
一通り片付いたころにはもう日は暮れていた。
朝について食事をした記憶がない。
集中していたということか……。
もう今日は夕食にして、続きは明日しよう。
残りは二階部分と台所、つまりはカウンターの奥側だ。
魔法でもできないのは手でするしかないのだ。
「とりあえず。今日は店側寝袋でも敷いて寝よう」
店が開店するのはまだまだ。
もうしばらくお待ちください。