法則が悪いんです
刑事さん、もしかして、ひょっとして、あっしを下着泥棒だと思ってらっしゃるんですか。失礼なお方だ。そんな変態野郎と一緒にしないでもらいましょうか。
下着フェチだとか、ハイヒールフェチだとか、いろいろ変なのがいますがね、あっしにはフェティシズムの気は爪の先ほどもありませんよ。
むしろ、そんなのは大嫌いなんです。あっしが好きなのは、へへっ、はだかの女でございましてですね。
……また怒鳴る。そんなに怒っちゃ、しまいに血管が切れちまいますよ。
えっ……。部屋中に女性用下着が山のように集まってるのは何故かって?
うーん、どう言ったら分かっていただけるんでしょうねぇ。
だんな、理科はお得意ですか。【作用・反作用の法則】なんてのを習いましたよね。覚えてらっしゃいますか。
たとえば、あっしが壁を押したとしましょうか。するとですな、壁のやつが生意気にも同じ力で、あっしを押し返すわけですよ。仏教でいう因果応報と似てますね。えっ、ぜんぜん似てないって?
まあ、怒鳴らないで、あっしの話を聞いてくださいな。
つまりですね。くどいようですが、あっしは女物の下着なんてのは大嫌いなんですよ。女性用下着売り場なんて、もう身の毛がよだつほど恐ろしいと思ってるんです。
そこで、できるだけその手のものを遠ざけよう、突き放そうとするわけです。
すると、あーら不思議。こちらが突き放そう、遠くへ押しやろうとすればするほど、向こうから押し寄せてくる。【作用・反作用の法則】ってやつですかね。
女物の下着が、あっしの部屋にどういうわけだか押し寄せてくるんです。脚もないのに、どうやって来るんだかあっしにもわかりませんや。ニュートンにでも訊いてみたらいかがですか。
……また怒鳴る。刑事さん、そんな取り調べの仕方じゃ自白するやつなんていませんぜ。高圧的にこられたら、あっしも反発したくなるってもんです。まあ【作用・反作用の法則】をせいぜい肝に銘じることですな。
こうして、いつの間にか、あっしの部屋は女物の下着だらけになったってわけです。あっしが悪いんじゃない。物理法則が悪いんですってば。
《終》