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5ジェットコースターって2番人気なんですよー☆

 



「あ゛あ゛ー、無駄に疲れた」

「お客さんまだあと3つは廻るんですから、そんなこと言ってちゃダメですよー☆」

「さっきまで芋虫だったウサギが言うんじゃねぇ」


 隣で回復したのか無駄にピョンピョン跳ねているウサギ

 見ているだけで元気が吸われていくようだ

 こんな深夜ハイのやつとこんな時間に一緒に居るだけで肩の疲れが増す

 不思議でも何でもないな


「で、次はどこに行くんだよ」

「およ☆ お客さんもやっと手伝ってくれる気満々になったんすねー☆」

「主にお前と早く別れたい一心でな」

「そんなツンデレなお客さんも素敵っ、キャッ☆」

「頭捥ぐぞ」

「きゃ、きゃー」


 わざとらしく自分の身体を抱きしめてぷるぷるしているウサギを無視する

 毟りてぇ、その頭

 笑顔腹立つわー


「まぁまぁお客さん、お次のお仕事は簡単なんでそんな鼻息荒く荒ぶらず☆」

「誰のせいだ誰の。つうか勝手に手伝うこと前提にしてんじゃねぇ」

「はいはい、どんどんいきますよー☆」

「その耳は飾りか! 飾りだったな! だったらいらねぇな!」

「きゃー、お客さんラビットくんの耳は繊細なんですからやめてくださいよぅ」

「硬った!? 無駄に硬った!?」

「そりゃマスコット☆ラビットくんですし☆」

「説明になってねぇ!」


 はぁはぁと硬すぎる耳を握った跡が残る手を見ていると、横でウサギが両手の人差し指で自分のほっぺをつついていた。

 ウサギがやってもただの恐怖映像だろ

 つか喧嘩売ってんだな

 

「よし、ちょっとその耳を折るハンマー探してくるから其処で待ってろ」

「いやーん、お客さんを癒そうと思ってのこのポーズなのにー。ちゃんと見てくださいよー、ちびっ子達に大人気でこれをショーでやるとみんなマネしてたんすよー? こんな近くで見れるなんてお客さんったら超役得ー☆」

「流石にねぇか、もうこの石でいけるよな」

「や、やーん」

 

 めそめそとわざとらしい演技をするウサギに呆れた目を向けつつその後を付いていく。

 このパリおっさんに毒される前に早く帰りたい次第である。

 そういや次の場所はどこだろうかと昔の道順を思い出そうとすると、ウサギがくるりと振り向いた。

 何処からともなく微かに音楽が聞こえる

 暗くて道がよく分からないが、メリーゴーランドの近くにでも戻って来ているのだろうか


「お客さん急に黙ってどうしたんすかー?死んだんすかー?」

「死んでるのはてめぇの常識と遊園地だ! 何でいきなり死ぬんだよ! 普通に昔来たことあったから次のやつは何か考えてただけだっつの」

「くすん、これをやるとめっちゃウケる鉄板ジョークなのに…!これだから鈍いお客さんはもうー、ぷんぷんっすよー☆ ああ、そうだお客さん」


 ウサギ、気付けそれは生温い笑みだったと思うぞ

 というか急に素の雰囲気で喋られるとびびるわ

 落差がこええ


「急に何だよ」

「昔のことってどれぐらい思い出せますー?」

「どれぐらい? そりゃ小さい頃だったしなぁ」


 思い返す

 遊んだ、遊んでた

 遊園地、メリーゴーランド、ジェットコースター、観覧車

 小さい頃この遊園地に親と来て、そんではぐれて迷子になって…

 見上げた大人は見知らぬ他人ばかりで、そんで泣いてたら親が迎えに来て――…

 

 あ?


 黒、穴あき、モザイク

 よく思い出そうと片手で顔を押さえる。

 

「どうしたんすかー?」

「え?…あ、ああ、いや、流石に覚えてねーわ」

「へぇ? そうっすかー☆ それは残念無念!この裏野ドリームランドもまだまだ精進が足りませんねー☆もっとこう幼心に残るハートフルな場所にしなければ☆ まぁお客さんの記憶力が残念なだけかもっすけどー☆」

「精進もクソも潰れてるだろ、つかてめぇ絶対ツッコミ待ちだろ??それとも脳みそが残念仕様なのかああん? 言っとくが確実に幼心をハートブレイクしてたからな」


 主にその目がイってるマスコットキャラで


 えー?とウサギが言いながら前向く。

 わざとらしくケツと尻尾を振りながら歩くウサギの背を見ながら、もう一度思い返そうとして――

 気のせいだと頭を振ってその思考を追い払った

 そうだ、気のせいに違いない

 親の顔が思い出せないなんて、そんなことある筈な――


「ほらお客さん早く走ってくださいなー☆ お次の場所はなんとこちら☆」

「あ、ああ? って、ここは」

「そう、当遊園地人気ナンバー2! その名もスリリングジェットコースター」

「名前が安直だな。もっと他所を見習えよ、パクりなしで」

「チッチッチ、お客さんネーミングは分かりやすさが大事なんすよー☆」


 分かってないなぁという風に振られる指を逆向きに折りたくなるのは俺だけじゃないはずだ

 耳の次に折るリストに追加していると、ウサギがカンカンと正面の入り口を避けて階段を登り始めた。

 大人しく着いていく


「正面から登らないのか?」

「お客さんこっちのが従業員用なんで若干ショートカットで上がれるんすよー」

「へぇ、そうなってんだな」


 普段の生活で遊園地の設計なんて聞けないので感心する。

 まぁもうちょっと園長らしくしてほしいけどな

 心の中ではもう夢見菌に侵された愛園家の園長で確定している男である。


「なんか不本意な思考をキャッチした気がするっすよ?」

「気のせいだろ」

「そうっすかね?まぁこんなかわいいラビットくんですから不埒な思考の方がいても仕方ないっすもんねー☆きゃっ」


 無言で対応する。

 菩薩の笑みだ。

 まぁ現実は残酷なのだ。

 真実はいつも1つだしな。

 心優しく誤魔化してやりつつ、近頃運動不足気味な男は息を切らせながら上に辿り着いた。

 着ぐるみの癖に慣れてるのか、ウサギは息すら乱してない。 

 それならさっきのガキを捕まえる時に発揮して欲しいもんである

 若干恨みがましく見ていると、ポチポチとウサギがボタンを操作した。 

 どうやらこちらも動かすようだ。 

 つくづく電気代が勿体ないと思うのだが、動かした方が逆に寿命が延びて結果お得なんだろうな

 とはいえ遊園地として復活の見込みは薄そうであるが


「おいウサギ、なんかすげぇギシギシ言ってるけどこれ途中で空中分解とかしないのか?」

「もうラビットくんですってばー。そうなんすよねぇ、もう耐久年数を軽く10年は超えて…いや、何でもないっすー☆」

「おいさっきヤバい単語が聞こえたぞ」


 お巡りさんこいつです

 ぴゅぴゅ~っと調子っぱずれの口笛を吹きながらガタンごトンとジェットコースター発進の準備をするウサギ

 こいつやっぱやべぇ、絶対乗りたくねぇ


「おいなんかギぃぃとか言い出したぞ」

「またっすかねー、2番人気なんすけどもうこの子が一番手間が掛かるんすよねぇ。途中で止まったりブレーキが故障したりネジが下に落下したりバーが上がりっぱなしになったり」

「ひぃ死ぬ死ぬ死ぬ、閉園してよかった…!」

「お客さんひどいっ」

「ひでぇのはてめぇの頭だ…!」

「意外と名前通りのスリリングさで大人気なんすけどねー」

「ウサギ、よく捕まらなかったな」


 絶対コイツのせいで潰れたに違いない

 むしろ働き過ぎてやばくなったブラックウサギが潰したに違いない

 閉園してよかったと思う遊園地とかここだけだろう

 見れるのは死後の世界とか言う意味のドリームランドとか勘弁極まりない

 

 えー?とすっとぼけるヤバウサギを横目にようやっと金切り声を上げながら動き出したジェットコースターを見ながらウワサを思い出した。


『ジェットコースターの事故のこと知ってる? 事故があったとは聞くのに、誰に聞いても事故の内容が違うんだ…」


 そりゃそうだろ

 お前どんだけ多種多様な事故やらかしてんだよ

 

「お客さん次行くっすよー☆ほらほら早くー☆」

「やっぱウサギのせいじゃねぇか」

「この園内一のマスコット☆ラビットくんに対してなんたる言いよう!」

「園内一匹しかいねぇしな」

「ひどい!」



 

 後ろでギぃぃという悲鳴の様な歓声の様な音を背に、ウサギの背中を蹴っ飛ばしたくなる男であった。












 




 

 

 

 

「はーい☆よいこのみんなー!こんばんはー☆」

「こええ、こええ、誰に言ってんだ」

「え?お客さん見えないんすかー? そりゃこの向こうの……」

「ひぃ、ついにか……。ウサギ、お前よくやってたよ……」

「お客さん分かってないっすよ!?」


閑話休題


「そういや他のスタッフは皆、再就職できたのか?」

「そりゃ勿論っすよー☆偶に手伝いに顔出してくれたりもするんで、お客さんもまた紹介してあげるっすねー☆」

「いや、二度と来ねぇからいいわ」

「はやいっ、ひどいっ」

「じゃあな」

「ああっ、折角の遊園地紹介ページがっ。もうお客さん!人気取りには地道な努力がですねー!ファンサービスが」

「もう潰れてるがな」

「……さぁ、次のアトラクション行くっすよー!」

「こいつ最早スルーしやがって」



次回、お城の地下に拷問室があってそこでは……



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