3アクアツアーってアがいっぱいだよね☆
「ここは――」
「そう、アクアツアーさ! 夏には涼しいってんで大人気なんだよね☆」
「過去形にしような」
「お客さん失礼過ぎる!!」
確かに夏の熱帯夜には涼し気な感じでガキも来やすいとは思うが、残念ながら今は真夜中、しかも閉園中である。生温かい目になるのは仕方ない
ぷんすか怒っているウサギだが、ドッシドシとアクアツアーの入り口の中へと入っていく
え、ここに入るのかよ…
思わず嫌な顔になっているとウサギが振り向いた
やめろ、恐いわ
つかどうやって気付いてんだよ、後ろにも穴開けてんのか?
「ほらお客さん行きますよ! まだまだ仕事は残ってるんですから! きりきりいきますよー!」
「何でいつの間に手伝う感じになってんだ!?」
理不尽だがずるずると引き摺られては敵わない
このウサギプロレスラーにでも転身しやがればいいのに
アクアツアーと書かれたアーチを潜ると、そこから一気に両脇に熱帯風のヤシの木が姿を現した。
桟橋が現れ、そこにはボートが繋がれている。
ジグザグに待機用の列がロープで張られているが、邪魔だし撤去すりゃいいのによ
ウサギもわざわざ通るのが面倒なのかロープを避けて桟橋まで行っていると、ジジ…ッという音がした。
こわッ
「な、何だ?」
慌てて周囲を見回せば、音は途切れることなく続いている
段々鮮明になる音は、女の話し声のようにも聞こえた
思わず頭は変だが堂々としたウサギの方へと近寄っていると、ウサギが立ち止まった
俺もぶつかりそうになって慌てて立ち止まる
正直ウサギとガキを置いて帰りたい
「ああ、これはですね――」
「これは?」
ウサギが振り向いて俺をじっと見つめる
その顔が照らされたり影に沈んだりするのを固唾を飲んで見つめ…
ん?
よく見るとウサギの上に設置されたモニターの電源が入っている
「ハハハ☆お客さん恐がりですねー。勿論アクアツアーの説明アナウンスに決まってるじゃないですかー☆ お客様にノー説明なんて不親切じゃ潰れちゃいますよー☆」
ウサギが片手を口元に当てながらモニターを指差した
笑顔固定の顔面を見るにつけ、完全に苛立ちしか湧かない
このウサギ頭もぎ取って晒してやろうか
「潰れてるけどな」
「ははっ……」
「お、おい冗談だからそんな落ち込むなよ」
ついぼそっと呟くと明らかにウサギが落ち込んだ
メンタルよっわ
その上では相変わらずモニターから女性らしき話声が聞こえる
女性と言うには正直綺麗な声じゃないので、ここにも経営難の状況が現れてたんだな…と大人目線でつい眺めていると、ウサギが何故か自慢げに胸を張った
なんだ、憑りつかれたか?
こっち来んなよ?
「お客さん何で逃げるんすか」
「いや、憑りつかれたのかと」
「なわけないじゃないですか!」
「冗談、つい反射でな」
「それも酷い。というかお客さんこのアナウンスどうでした?」
「どう? いや、正直説明とか全然聞いてなかったわ」
「あ、設定は正直パク…流し聞いてて大丈夫なんで」
「おいさっき聞き流せないフレーズなかったか?」
ウサギはふるふると首を振っている
かわいくないどころじゃない
体は動かず器用に頭の被り物部分だけスライドしているので普通に恐怖映像だ
「お客さんそんなどうでもいいことは水に流しましょう☆ なんせアクアツアーですし☆」
「ダメじゃね? だから閉園したんじゃね? つか上手くもなんともねえし」
「さっきからお客さんが辛辣!!」
主にウサギのせいでだとは思うがな
仕方ないので話を聞いてやると態度で示すと、ウサギは途端に元気になった
既にアナウンスは2周目突入である
内容を聞いても確かに何処かで聞いた気がする感満載の設定だ
まぁパクリ側潰れてるが
「実はですねー」
「…実は?」
合いの手の催促をしてくるので嫌々ながら入れてやる
「この声自分が入れたんすよー☆ 見事に女っぽいでしょう☆」
「はあ?」
「ほら☆」
ようこそ裏野ドリームランド アクアツアーへ☆
丁度3周目のスタートアナウンスが聞こえた
続きの言葉とウサギの声が被る
確かに機械を通してるからか若干違うが、よく聞けば同じである
つかキモっ、声きもっ
「やめろぞわぞするわ!!」
「裏声ですよ☆ お客さん変人ですね~、今まで歓声あげる人はいても鳥肌立つ人なんていなかったすよ?」
「お前に言われたくないわ! あとそれ気付いた人があげてた悲鳴だからな!」
「もう! 裏野ドリームランドのオープンシークレットの一つを教えてあげたのに何たる言いよう!」
「オープンしてたらシークレットとは言わねえ」
絶対潰したのコイツだと納得する
それに声すら人件費削減する辺りに色々察する
ドリームランドの夢部分外すことを検討すべきだろ
ん? そこでふと思う
「何でモニター点けてんだ?」
「センサーっすよー、偶に動物とかでも反応するのは困りものなんですけどねー」
「なる」
とか言ってる間にウサギがふんふんとまたボートの機械をいじり出した
ボートと言っているが、15人くらいは乗れそうな屋根付きベンチ付きのボートである
風に煽られてちゃぷちゃぽと波音がするが、真夜中で水面自体は真っ黒にしか見えない
使われてないからてっきりヘドロやら藻やら繁殖してんのかと思ってたが、臭いも少しくさいくらいで意外に思った。
「何してんだ?」
「お客さんそればっかりだと先生に怒られますよー! 自分で考えねば生き残れません☆」
「お前のそれはボケなのか? メンタル弱いと見せかけて図太いのか? つか考えろと言われてもな…」
遊園地閉園してんだろというツッコミ待ちかしらんがスルーするとして、
ウサギはいそいそとボートのエンジンを入れた
ブルルンッ…とエンジンが掛かったボートのランプが点灯する。
「え、今からこれに乗るのか?」
「えー、お客さん見かけによらず乗りたがりですねー、今日は急いでるんで我慢してくださいねー☆」
「こいつうぜえ!!」
じゃあ何で点けてんだよ!?
思わずウサギのケツを蹴って池に落としてやろうかと思っていると、ボートが一度大きく震えた後ゴウンゴウンと発進してしまった。
マジか、無人で行っちまったぞ
「ウサギあれいいのか?」
「実は底にレールが敷かれてるんで、自動でまた戻ってくるんですよー☆ 地味に高性能なんです☆ 底のレールがよく錆びるので維持費が嵩む子でしたけど…」
お、おう、若干闇が見えたが、そうでなくて無駄に発進させてどうしたという話である
「じゃなくて何で発進させてんだ?」
「それは勿論、何回か走らせとけば藻とか水草とかを蹴散らしてくれるんで清掃が楽なんすよー☆ レールも使わないと余計消耗早いですしねー☆ ちなみに後は自動で何周かしてくれますよー☆」
「別に腐らせときゃいいじゃねーか? 周り森ばっかなんだし客もいねーだろ?」
「お客さん…、もしや彼女が出来るまでは落とすために映画やらお食事やらいろいろ頑張ってあげて、いざ彼女になったらプレゼントや記念日すら全然祝ってあげず釣った魚に餌をあげない、つまり大切にしてあげないなんていう悪い子だったんじゃないでしょうね?」
「やめろやけに具体的に言うんじゃねえ!」
図星気味なのが余計にあれだった
彼女にフラれた言葉が思い出される
そうなのか…俺ウサギにすら引かれる野郎だったのか…
無駄だし頭変だとは思うが、遊園地愛が強いと言うことはできるかもしれない
無駄だし頭変だとは思うが
地味に落ち込んでいると、ボートを見送ったウサギがやれやれと言いたげに腰を叩いた
いやお前エンジン掛けただけだけどな
「ふぅ、いやぁもう潜ってレール掃除しなくていいってのは嬉しいんすけどねー」
「は? ウサギ、お前レール掃除の仕事まで兼任してたのか?」
「ええ、そりゃマスコットのラビットくんですし☆ 特注で潜水スーツも作ったんですよー☆ ほら、この耳部分が普通のやつだと突き破っちゃって入んないじゃないですかー」
「いや脱げよ」
「いやんエッチ☆」
「うっぜぇ」
この若作りおっさん(推定)まじうぜぇが、ふと裏野ドリームランドのウワサの一つを思い出した
まさか…
『アクアツアーで謎の生き物の姿が見えた』
「お前か!!」
「え、お客さんだから急に声あげてどうしたんすか。病院は園内にあるっすけど、まだ先なんで我慢しましょうねー」
「もう晒してやる」
「ちょっ、冗談ですすんません!」
ウサギを置いてさっさと桟橋に背を向けたらウサギが慌てて追いかけてくる
ふと横を見ると、よく見たら確かに銀色っぽい変なスーツがだらんと置かれてあった
腹立たしかったので一回蹴ってからアクアツアーの看板をくぐってクソガキ探しを続行するのだった。
「足りないよね☆ 僕の情報が足りなさ過ぎてみんな欲しいに決まってるよね☆」
「いや夢見てんじゃねーぞ」
「じゃあ質問です☆ この僕が一番好きなものはなんでしょーか?☆」
「どっかのパクってるうえに情報出したい側が質問してんじゃねーよ!」
「もうお客さんさっきから目立ちたがりですよー? はい、答え答え! どぞ!」
「えー…興味ねー…、じゃあ金とか?」
「はいブー、お客さんの心キタナーい。ここはドリームランドで僕はマスコットのラビットくんですよー?☆ よい子のみんなはこんな大人になっちゃダメだからねー☆」
「こいつうっぜー!! 一番頭夢見中の奴が言うんじゃねぇわ! じゃあ答えなんだよ!?」
「はい、正解は来てくれるみんなでしたー☆ (お金落としてくれますし)」
「おいさっき何かぼそっと言っただろ?」
「みんなありがとー☆ またきてねー☆」
「おい言ったよな!?」
「ばいばーい☆」
「おい!?」
没にしたけど使いたかったオヤジギャグ「ぎょえーい☆魚影だけに、なんつって☆」
「なかなかハイセンスでいいっすよねー! 使いたかったなー☆」
「うわぁ、使ってたら…うわぁ…」
トネコメ「次話もよろしくね☆」