表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2マスコットくんとメリーゴーランド

 

 ざっ…と踏み入った遊園地

 遅れて入ったせいか、少年の姿は見当たらない

 住宅街からも離れた山に立地しているためか、吹き抜ける風に少し鳥肌が立った


 おーいと声をあげるには少し憚られる

 というかこんな時間に出歩くクソガキな時点で、絶対逃げ回るだろうし

 諦めておっかなびっくり歩を進めた時点で茂みがガサゴソと音を立てた


「うおっ…、誰だ? ガキか…?」


 スマホのライト機能を慌てて付ける

 ピッとマックスモードでライトを茂み向けた瞬間


「目がァ、目がァーー!!」

「うおおッッ、なッ、何だ!?」


 途端に阿鼻叫喚になった

 いや、誰だってビビるわッ

 ライトに照らされたのは、目?を抑えてうずくまる何だ、ピンクの……着ぐるみ?

 どっかで見た――


「お客さん横暴なッ! このキュートなマスコット☆ラビットくんに向けてなんと酷いことを」

「いや誰だよ」


 目の部分を両手で抑えながらピンクのきも…太ったウサギがこちらを仰ぎ見た

 着ぐるみの時点で目にダメージなんか食うかよ

 というかこんな時間に何で着ぐるみ来て閉園した遊園地に居るんだよ

 ……変質者か


「いや、やっぱいいわ、近寄んな、すぐ帰るからじゃあな」

「ちょちょちょ、お客さんなんすかその目は! 失敬な!! れっきとした仕事中なんですから!」

「はぁ?」

 

 太ったウサギが立ち上がった

 俺よりでかいのが余計怖い

 ちなみに大きな目に☆が一つ散って、看板通り笑顔固定である。

 耳はピンと立っており、ピンクと青の縦じまズボンだけ履いている

 確かに子供の時見たのもこんな感じだった気がするが、外見よりも仕事中と言い張る中身がこえーわ


「ここに忍び込んだ子供見つけたらすぐ帰るんで、大丈夫間に合ってます。このことは拡散とかもしないんで」

「誰が拡散の心配してるんすか!! もう! こんな失礼なお客さんは初めてだよ!!」


 俺もこんな意味不明な着ぐるみ野郎初めてだよ


 存分に心と身体の距離をあけていると、ハッと言いたげに腕を見たウサギが「もうこんな時間じゃないすか! お客さんのせいですよ!」と言ってきた。

 いや、お前こそ横暴だわ

 というか地味に高価そうな旧い腕時計なのがむかつくわ

 でも閉園した園長とかが現実を受け止められずに着ぐるみ着て…と思えば若干哀れみと共に優しくできるかもしれないなと思った


「お客さんさっきからなんて目で見てるんすか」

「いや、何でもねえよ。それより急ぐんだろ?」

「この距離とその目が気になるんすけど、まぁ時間もないんでお客さん付いて来てください」

「はぁ? 嫌だよ」


 思わず心の声全開で拒否ると、がっしりと腕を掴まれた

 ひぃッ、怖えッ

 そんで力強ぇッ


「さすがにお客さん一人放置はダメなんですって。その入って来た子も探すんで、ひとまず付いて来てくだせぇ! 人手足りないんすよ」

「こんな閉園した遊園地に人手もクソもねーだろッ、警察呼ぶぞっ」

「そしたらお互い不法侵入で臭い飯食べましょーねー、マスコットが癒しますよー」

「こいつむかつくわー!!」


 やむなく諦めて引っ張られていると、ウサギが一つのアトラクションの前で止まった

 ここは…――


「メリーゴーランド…か?」

「その通り☆」

「何してんだ?」

「お客さんここまで来たら分かるでしょー、見ての通りっすよー」

「いや、見ての通りと言われてもな」


 このウサギ野郎マジむかつくわー

 がさごそと態とらしくお尻の尻尾をふりふりしながら準備している。

 いや、コードとか引っ張り出してる時点で何となく察しは付くけどよ…


 『ウワサ2:誰も乗っていないのに廻るメリーゴーランド』


「客なんていねーのに何で廻すんだよ。俺は乗らねーぞ」

「え、お客さん自分が乗ると思ったんですかぷーくすくす」

「この野郎」

 

 殺意が湧いていると、ぴんとウサギが人差し指を立てた

 教師の様にこちらを向いている


「それはですねぇ――」

「それは?」

「今では唯一の明かりスポットだからですよ☆」

「はぁ? 明かりスポット?」

「ええ、ええ」


 どいたどいたと言わんばかりにコードが張られる。

 もうちょっと分かる説明をしろよと文句を言おうとした瞬間バツンッと一斉に明かりが灯った。

 次いでゴウン…ゴウ…ンとゆっくりと白馬の馬やカボチャの馬車が廻り出す

 どこか懐かしいメロディーがゆったりと流れ始めた

 

「こりゃ…」

「綺麗なものでしょう、見てるだけで心が洗われると大評判なのですよ。点けるだけなのでコスパもいいですし☆」

「は?」

 

 よくわからんが、確かに綺麗なのは事実だ

 真夜中、何の歓声も無くゆったりと幻想の生物たちが上下する様は、見惚れてしまいそうな不思議な世界である

 ふともしかしたらガキも近くにいるかもと周囲を見渡すと、離れた所で少年がぼんやりとメリーゴーランドを見ていた。

 思わず「あッ」と声をあげてしまうと、少年はその声に弾かれた様に駆け出してしまう

 慌てて後を追おうとすると、ぐいっと首襟を掴まれた

 何だ、やめろよ!


「お客さん急に大声あげて走り出そうとするなんて…、大丈夫ですか?」

「お前に言われたくねーよ! つか離せ! さっきの餓鬼見失っちまうだろうが」

「えっ、居たんですか、それは申し訳ないことを。まぁここから先は大体予想付くんで一緒に行きましょーや」

「はぁ? 判んのかよ」

「マスコットですし☆」


 可哀そうに…

 マスコットという夢見菌でリアルからにげてんだな…

 

 思わず憐れんでいると、メリーゴーランドが静かに止まり、そしてまた動き出した

 どうやら自動でまた始まるようだ


「これ電気代かかるだろ? いいのか?」

「その分は稼いでるんで☆ 明かりは大事なんですよ☆」

「つまりこのくっらい遊園地を照らす用に点けてると?」

「ザッツライト☆ ライトだけに☆なんつって!」

「…さっむ」


 取り敢えずウサギの頭がおかしいこととダジャレセンス的に閉園した園長の線が濃くなったことが分かった。

 それにしてもウワサ2がしょぼすぎる理由だな…

 若干その点にも変ながっかり感を抱きつつ、ウサギに連れられクソガキ探しを継続するのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ