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薙斗が天眼神社へと車を停めると、四人は車を降り、地下に続く道がある家へと向かいました。
「懐かしいな。相変わらず手入れはしてねえみたいだが」
乾は拝殿へと続く階段をゆっくり上りながらこう言います。琴音はそう言う乾を、支えながら意外そうに見つめました。
「パパ、ここに来たことあるの?」
「なに言ってんだ、ここはお前と初めて会った場所だろうがよ」
「そ、そうだっけ!?」
琴音は改めて周りを確認します。と、確かに拝殿や本殿、そしてあの神主の家のようなものもどことなく見覚えがありました。しかし、拝殿も本殿も、当時の方がもっと大きかったように思えたのです。
「あの日は雨だったな。まだあの屋敷がただの資料庫で誰も住んでなかった頃だ。調べものの帰りに、この神社で小さい子どもの声が聞こえてな。不審に思って見てみたら、それは可愛い幼女が涙目ですり寄って来たんだよ。で、そのままお持ち帰りしたわけだ」
「誤解を生むような言い方やめてくれる?」
「まさか、こんなふてぶてしく育つとは誤算だったぜ。なあ、静よ」
乾は、ふーっと獣のように威嚇をしている琴音を憐れみながら眺めます。
「まったくね。それに引き換え、わたしは素直に育ったでしょ?」
「……育った? 痛って! 病み上がりを蹴るな!」
育ったという言葉は、静には哀れなくらい不適切でした。琴音はそう思うも、口に出すような愚かなことはしません。無言でパパが蹴られる様を見守るのでした。
地下道を通って、屋敷まで歩くこと十五分。ようやく屋敷の内部に繋がる梯子が見えてきます。ここまで歩くのは、健常者の琴音や静でも息が上がりました。
「パパ、辛くない?」
静が心臓に負担がかかりやすくなっている乾を気遣って、声を掛けます。
「ああ、大丈夫だ」
そうは言うものの、乾は随分と苦しそうに息を吸っていました。やはり、随分と体力の消耗が激しいようです。
「この梯子を上れば着きます。大丈夫ですか」
「こんなもんでばてちまってたら、この先やっていけねえからな。なにがなんでも上ってやる」
乾はぜえぜえと呼吸をしながら、梯子に手を掛けました。ゆっくりと上っていくその様子を、三人は不安げに見守ります。そこで、ふと琴音はこの梯子が時雨の部屋に続いている梯子だということに気づきました。
「ねえ、薙斗。この梯子って、時雨さんの部屋の押し入れに続いてるんだよね?」
「ああ」
「……押入れを開けたら時雨さんがいたとかあり得るんじゃない?」
「あり得るだろうな」
押入れを開けたら、元弟子と遭遇するという場面を想像して、琴音は別の意味で乾が心配になりました。ようやく頂上まで辿り着いた乾は、真上の蓋を押しやり自分の身体を持ち上げてなんとか押入れの中へと到達します。
それから三秒後、
「ぎゃあー!」
と、乾の悲鳴が上がったのは書くまでもないでしょう。地下に残された三人は、苦い顔をして地上を見上げていました。
琴音が地上に辿り着くと、乾はなぜだか着流し姿の時雨によって床に捻じ伏せられていました。
「ギブ! ギブ!」
乾は声を必死に絞り出し、空いている手で畳を叩いて降参の意を示しています。しかし、時雨はそれに目もくれず、靴を脱ぎながらこちらを見守っている琴音に爽やかな笑顔を浮かべました。
「おかえりなさい、琴ちゃん。デートの途中でとんだ邪魔が入って、すみませんでした。今度埋め合わせしますね」
「デートだあ? そんなもん十年はや……痛ってええ!」
「う、うん、ただいま。あの、パパ、放してあげてください。身体が変な方向に曲がってるから」
「ああ、すみません。十年ぶりの再会だというのにまるで化け物でも見たかのような悲鳴をあげたので、つい嬉しくなってしまって捻じ伏せてしまいました」
嬉しくなってしまって……? 琴音は時雨の感情表現がよくわからず恐怖しました。
解放された乾は、肩で息をしながら仰向けに寝転びます。後から来た薙斗と静は、それを見てなにかを察したらしく問い詰めませんでした。




