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今日が龍壬の葬儀当日と知った琴音は、布団を被ったまま約二日間眠っていたことに驚きを隠せませんでした。どうやら、時間の間隔もわからなくなるほど憔悴していたようです。
ただ、起き上がった途端、眩暈がしたのと同時に、喉の渇きと空腹感が同時に押し寄せてきたので、身体は正常なようでした。琴音は涼香が置いて行ったおむすびをたいらげ、水分補給をしてから身支度を済ませました。
居間には乾と静、左腕を首から吊るし、頬に絆創膏を付けた薙斗の三人が、机を囲ってソファに腰掛けていました。薙斗は琴音を見るなり、突然立ち上がります。
「大丈夫か」
「……うん。その怪我、どうしたの」
「いや、これは――気にしなくていい」
「本部護衛二人相手に、本気の乱闘をした結果だ」
言い淀んでいた薙斗の代わりに、乾は誇らしげにこう言いました。琴音はこんな怪我まで負わせておいて龍壬を助けられず、今更ながら、どんな顔をして薙斗を見たらいいかわからなくなってしまいます。
「ごめんなさい、あたし――」
「だから、気にするな。前から本部護衛の連中の態度は気に食わなかった。それだけだ」
そう言われても、顔を上げて薙斗を直視することができません。しばらく沈黙が続き、気まずくなったのか薙斗が口火を切りました。
「そんなことより、さっさと行って来い。もうそろそろ行ってもいい頃合いだろう」
「そうだな。行くか」
薙斗の台詞に同感して、乾と静は立ち上がりました。そういえば、時雨と涼香の姿が見えません。
「時雨と涼香さんなら、先に行って待ってるって言ってたわよ」
辺りを見回していた琴音に、静が答えます。同時に、琴音の手を掴んで居間の外へと連れ出そうとしました。琴音は、慌てて薙斗の方を向きます。
「あ、あの」
居間に一人残される薙斗に対し、罪悪感が拭いきれず、琴音は重い口を開きました。
「行って来ます」
「ああ、行って来い」
居間の扉は、薙斗一人を残して、そっと閉められました。
葬儀に向かう心持ちは、敵地に攻め込む時や本部に乗り込む時に比べて遥かに暗いものでした。車は、そんな琴音の気持ちなど無視してどんどん進んで行きます。車内は静まり返っていました。
窓から見えるのは、一般人一人ひとりの日常。公園では子どもたちが集い走り回っています。あの子たちは、一体これからどれだけの経験を得て死んでいくんだろう。そんなことを考えながら、琴音は呆然と流れゆく景色を眺めました。
都会に着くと、迫るような都会の高層ビルや、車の排気ガスの臭いに吐き気を催しました。ふいに、あの時のことを思い出します。倒れた龍壬を囲い、無感情に龍壬を見下ろす黒い人間たちと、噎せ返るような血の臭い。
青空を覆い隠し冷然と立ち並ぶビルと排気ガスの臭いは、あの死刑場と酷似しているように思えました。
「顔色が悪いわね」
「……平気」
「ほら、膝貸してあげるから」
琴音はその言葉に甘えて、静の小さな膝に頭を預けました。乾は運転をしながら時々ミラーで琴音の様子を窺っています。
「……静」
「ん?」
声を掛けると、ぱっちりとした大きな目がこちらを向きます。まつ毛が長くて、可愛らしい顔立ちの静。静はいつだって気丈で、常に冷静な判断ができる頼れる姉です。しかし、今はその気丈さが不気味にさえ思えました。
車中、静の様子は普段と全く変わらなかったのです。特に憂い気な表情も見せず、これから用事を済ませるために少し遠出するだけというような様子で、窓の外をつまらなそうに眺めているのでした。琴音はそんな静を不気味に思うと共に、軽蔑していました。
「静は、強いね」
この言葉に静は一瞬、大きな目を更に大きくしましたが、すぐに仕方なさそうに微笑みました。




