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ACT13:男子力向上ファッションショー2

 ドアを開けると、そこは桃源郷だった。



「あ、ミコさん良い所に!すみません手伝って下さい!」



 手前の少女の、ふわふわロングの金髪を凄まじい勢いで編み込みながらリネット嬢が叫び、その声につられるように三人の美少女達・・・・がパッと顔を上げる。


 彼女ら――いや、彼ら――は全員私を見るなり硬直したが、私はお構いなしにリビドーの赴くまま、一番手前の金髪少女に抱きついて思いっきり頬ずりした。



「きゃ――――!可愛い――っ!!何これ持ち帰りたい!持ち帰って眺めて抱き枕にしてそれから食べる!絶対食べる!!」


「み、み、ミコさんちょっと、あのそのやめ、当たってます、当たってっ」


「リネット良いよこれ!素晴らしい仕事だよ!ユーハもジルも凄く良いよっ!!」


「いや、あのミコ誉めてくれるのは有難いんだけど、全然嬉しくないから…」


「……」



 続けてユーハとジルにもハグをお見舞いすると、物凄く複雑そうな顔をされる。が、そんな事に構っている場合ではない。

 いずれアヤメかカキツバタ……そんな表現がここまで似合う光景もないだろう。



 まず、リネット嬢に髪を編みこんでもらっているフォックス。

 着せられているのはこれぞ姫ロリ!と言わんばかりの、パステルピンクでフリフリが山ほどついた膝丈のドレスである。この世界のファッション事情から言えばかなり子供っぽいデザインとも言えるが、そこがまた良い。金髪碧眼、華奢で小柄なフォックスとの相性はいわずもがな。フランス人形も真っ青な完成度の、実に素晴らしいセレクトだ。


 やや垂れ気味の柔らかな碧眼は、化粧によってよりぱっちりと強調され、夢見るようなあどけなさを演出している。白い靴下に包まれた足は細く、羞恥に頬を染めて俯く表情までが少女の儚さ、未成熟な美しさを感じさせて――誰がどう見てもこれは『アリ』どころか、こちらの世界でも類を見ないレベルの天使っぷりだと思う。



 次に、所在無げにドレスの裾を気にしているユーハ。

 こちらは対照的に、シフォン生地の白を基調としたドレスだ。裾に向かって広がる濃い青へのグラデーションがユーハの白い肌と黒い髪、黒い瞳を引き立たせていて、上品さと清楚さを感じさせる。黒髪ストレートのウィッグも全く違和感がなく馴染んでおり、あえて露出を抑えた白い袖がユーハの筋肉を上手く隠すと同時に、細身の身体のラインだけを実に美しく見せていた。


 フォックスは完全に美少女として完成しているが、ユーハのこれは――これは、男か女かではなく一人の“美人”だ。その昔、美の究極の形とは少年、あるいは青年にあると言ったのは、偉い哲学者だっただろうか。どんな絶世の美女であろうとも、女という性を持つ人間ではこの神聖さは表現し得ないのではないか――私のそんな美に対する考察は、最後の一人、ジルの姿を目にして完全に停止した。



 全てを諦観したかのような目で、足を組んで椅子に座っているジル。

 その身に纏う、青みがかった濃い緑のロングドレスはかなり大胆なデザインをしていた。太ももまで深く開いたスリット、大きく開いた肩と背中。胸はきわどい辺りまでシースルー素材でできており、身体にぴったりと張り付くようなデザインのそれを、ジルは胸に詰め物すらせずにそのまま纏っている。

 当然、女性のような豊満な胸があるわけでもなく、ヒップラインにも膨らみが足りない。いくらジルが細身とはいえ、露出している肩や鎖骨は紛れもなく男性のものであり、そこに女性の身体なら自然に備わっている柔らかさはない。


 だが――だが、なんという色気だろうか。

 ウィッグすらつけずにそこに佇むジルの銀髪、首筋にかかるそれを鬱陶しそうに払いのけた彼の指先、バストがないために余ってしまうドレスの胸元に見える平坦な白い肌。そう、ジルの“女性でない”という本来ならセクシーなドレスを着るにあたってマイナスにしかなりえない要素が、全てプラスに転換されてしまっているのだ。見えそうで見えない胸元、スリットから覗く長く白い脚からまき散らされる倒錯的なフェロモンは、相手を無差別に爆撃する。


 男でなければ出せない色気。それが女性用のセクシーなドレスによって、これ以上なく高められ、発揮されているという不条理。このドレスをジルに着せると決めたのが本人なのかリネット嬢なのかは分からないが――私はその英断に、ただただ脱帽した。



「そう、ジルさんの胸に詰め物した方が良いのかどうか迷ってたんですよねー。ウィッグも一応あるんですけど、このままの方が返って良いのかなーとか、誰かに聞いてからにしようと思って。ミコさんはどう思――」


「このままで!!」



 フォックスの髪を編みながら問いかけるリネット嬢に、私は断固として宣言した。多少の化粧はいいとしても、それ以上この芸術品に手を入れるなどとんでもない。そんな私の魂の叫びを感じ取ってくれたのか、リネット嬢はにっこりと頷く。



「分かりました。――じゃあ、先にフォッ君仕上げちゃいましょうか。メイクも大体できてるんですけど、口紅だけ決められなくて……見てもらえます?」


「はい喜んで!!」



 私は最速で手近なメイク道具の山からありったけの口紅をつかみ出し、フォックスの前に陣取った。胸は歓喜に打ち震え、今にも鼻血が出そうなほど興奮している。


 ――生きてて良かった。


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