おさんぽ大好き ②
チロさん、窓辺でまどろんでいます。
すやすや眠っている様に見えますが、耳をピンと立て、ときどきピクンと動きます。
「私たちの会話を一言一句聞き逃さないって感じだな」
「ああしているときは、絶対にあの言葉を言ってはなりません」
「そうだな。だからな……」
「だから?」
「こんなもの作ってみた」
「何でございますか?」
「待ってろ」
ガサガサ……。
五月先生、たたんだA4版のコピー用紙を懐から出して、めいとさんの前で広げてみせました。
「これだ」
「え〜っと、五月家の禁句……」
「声に出して読むなよ」
「はっ、そうでございますね」
コピー用紙には、幾つかの単語がプリントアウトされています。
ポーチ・ポッケ・ポイント
ポロシャツ・ポンカン・ポン酢
進歩・尻尾・そっぽ・ぽっぽ・湯たんぽ
日進月歩・独立独歩・五十歩百歩
「まだあると思うからな、気がついたら書き足していけ」
「五月様?」
『なんだ?」
「肝心の、あの言葉がありません」
「あー、忘れてた。早速書き足しておけ」
「はい」
めいとさん、余白にマジックで大きく書きました。
【 散歩 】
「一先ずは、これでようございますね」
「くれぐれも声に出して読まないこと」
「はい」
もうおわかりですよね。
ぽのつく言葉が禁句なのです。
チロさんにとっては〈ぽ〉が、お散歩の合図なのです。
さっきまで耳を緊張させていたチロさんは、今は耳先をたらんと下げています。
穏やかな寝息もたてています。
起きたらお散歩、連れて行ってもらいなさいな。




