鳴かないワンコ ④
「ほらチロさん、歩いてごらんなさい。動いて」
めいとさん、チロさんと何かしているようです。
「なにいじめてるんだ?」
「五月様、いじめてなんかおりませんです」
「なに? そのびらびら」
「びらびらではございません。シュシュでございます」
チロさん、予防接種と狂犬病の注射も終えて、いよいよお散歩デビューが近いです。
どうやらめいとさん、チロさんの首にシュシュをつけて、お散歩の練習をしようとしたようです。
「いきなり首輪は重くてかわいそうですから……」
「で、びらびら着けてみた、と」
「ですが、まったく動かなくないのでございます」
チロさん、尻尾をおなかに巻き込んで、プルプル震えています。
「うーん、鳴かないの次は動かないか……」
「ヨシミ先生が、お注射のときも鳴かなかったとおっしゃっていました」
「注射は一瞬だからな。鳴くひまもなかったのかもな」
「動かなかったらお散歩できsません」
「ストレスになるから、もう外してやれ」
「そうでございますね」
テッテッテッテ……。
チロさん、シュシュを外したとたんに鈴のおもちゃへ一直線に駆け出しました。
チリチリチリーン、チリチリチリーン……。
「ほら、ストレス発散」
「ふ〜ん、こんなんでお散歩できるのでしょうか……」
「気長に慣らさせるんだな。じゃ、私は散歩行ってくる」
「ふぇ? どちらへでございますか?」
「ちょっとその辺」
「まさか……また隠れて美味しいものですか?」
「またって、そんなこと一度もないだろ」
「ございました。フレンチトーストモーニング」
「あれは、お前が寝坊したからだろ」
「ぶ〜」
「ただの、人間観察」
「いってらっしゃいませ」
チリチリチリーン、チリチリチリーン……。
鳴かなくても、シュシュで動かなくなっても、チロさん今日も元気です。




