ワンコの新生活 ③
落ち着いて寝れるように、子犬の近くに時計を置くと良いようです。
カチコチと鳴る音が、母犬の心音に聞こえるのだそうです。
五月先生、使い古しの目覚まし時計を置いてあげました。
カチコチ、カチコチ……。
「あ、動いた」
「起きたのですか?」
「いや、寝返りみたいだ」
「そうですか……」
カチコチ、カチコチ……。
「……」
「……」
今夜は静かな夕飯です。
おふたりとも、目線はワンコのハウスです。
手元をろくに見ないので、五月先生はお芋の煮っころがしを落としました。
めいとさんは、さっきからおしんこばかり食べています。
「……」
「……」
カチコチ、カチコチ……。
夜の十時になりました。
「五月様、お風呂どうぞ」
「ん……」
五月先生、新聞を読んでるふりをして、ワンコをチラチラと気にしています。
「お前、先に入れ」
「いえ、わたくしはまだやることが……」
「そうなのか?」
「五月様こそ、早くお風呂済ませて、書き書きしてくださいませ」
めいとさん、言いながらテーブルの同じ所を何度も拭いています。
おそらく今夜は、このまま時間が過ぎていくことでしょう。
カチコチ、カチコチ……。
カチコチ、カチコチ……。