はるちゃんとおばけのもり
はるちゃんはいつも元気なおんなのこ。だけど元気がよすぎて、
ドンドン バタバタ ガラガラ ドン!
と、うるさいから今日もかあちゃんに「うるさーい!」って怒られちゃった。
さてはるちゃん、かあちゃんにおこられたときは“たんけん”に行くときめていたので、カバンをもって外にでた。今日はどこをたんけんしようかな。はるちゃん、カバンの中をごそごそごそ。たんけんななつどうぐの
『ちず』をだしてかんがえる。
ちずはとうちゃんが作ってくれた。たんけんした場所にはしるしがつけてあるよ。“さんかくこうえん”も“かみなりひろば”もしるしがついている。よし、きょうは“おばけのもり”へいってみよう!
でもはるちゃん、思いだして。“おばけのもり”はあぶないから行っちゃダメッてかあちゃんが言ってたよ。
はるちゃんちょっとかんがえる。
「う〜ん、でもかあちゃんいつもおこってばっかりだからもうキライ! だからおばけのもりたんけんする!」
おばけのもりはかみなりひろばの向こうだ。近づいて見ると昼間でもほんとに真っ暗で、全然先が見えない。
そんなときはたんけんななつどうぐの、
『かいちゅでんと!』
カバンからごそごそ取り出して森を照らしてみる。
すると何かうごくものはっけん!
「あっうさぎだ!」
はるちゃんの大声にうさぎがびっくりして森の奥へにげてった。はるちゃん、うさぎが大すきだ。つかまえようと追っかける。枝をよけては葉っぱをふみこえ、うさぎめざしていっちょくせん。はるちゃん、むちゅうでおっかけて、どんどん森の奥へ入っていくよ。
きがつくとここはどこ? はるちゃんまいごになっちゃった。
するとさっきまで静かだった森がきゅうにざわざわ・・・と思ったら、
“あっ”
というまにはるちゃんのまわりをおばけたちが囲んでいた。
はるちゃん、びっくりして目をぱちくり。ぐるりとおばけたちをみわたす。さっきのうさぎもいたよ。うさぎもおばけだったんだ。
でもはるちゃん、びっくりしたけどこわくはないよ。だっておばけなんかより、かあちゃんのほうがこわいんだもん!
さてさておばけたち。びっくりしてるはるちゃんを見てひそひそばなし。
「ほれほれ、ちんまいこどもがおばけに囲まれておどろいているぞ。うっしっし」
「ちんまいこどものくせにこんなところにくるからだ。ぐへぐへへ」
「お、まだ泣いとらんぞ。みんなでもっと怖がらせてやろかいな。ぼろぼろろ」
はるちゃん、おばけがニタニタ笑ってこっち見てるのがだんだん腹が立ってきた。
「なーにじろじろみてんのよ!しつれいしちゃう。フーンだ!」
こんどはおばけたちがおどろいた。ちんまいこどもが怒るだなんて思ってもみなかったからだ。だけどだんだん腹が立ってきた。こどものくせにおばけを見ても泣かなかったからだ。
さてはるちゃん、におう立ちでうでぐみしておばけたちをにらんでる。
「おい、ちんまいこども。おまえはおれたちが怖くないのか?」
とおばけが言うと、
「ちんまいこどもじゃない! はるちゃんだよ!」
と大きな声で言い返す。
怒ったおばけたち。はるちゃんをおどろかせようとおどろおどろしはじめた。
「ひゅうどろどろ、おれの体しらないか〜」
顔だけおばけがはるちゃんに近づく。
「しらなーい。でもつくってあげる!」
はるちゃんはそう言うとカバンをごそごそ。たんけんななつどうぐの『わごむ』を出したよ。
落ちてる枝をひろって、わごむでつなぎ合わせたらおばけの体の出来上がり。
「はいどうぞ」
とおばけにくっつけてあげた。顔だけおばけはちょっとびっくり。体を少し動かして、嬉しそうにそのまま走っていっちゃった。
次のおばけは顔をかくして近づいてきた。
「ばあ、のっぺらぼうだぞ〜!」
はるちゃん、じっとかおをを見つめるとまたまたカバンをごそごそごそ。たんけんななつどうぐの『クレヨン』と『かがみ』をとりだした。
クレヨンを使ってのっぺらぼうのかおをかきかきかき。
「はい。これでかわいくなったよ」
とのっぺらぼうにかがみをわたす。のっぺらぼうはびっくりしたけどちょっと嬉しそう。「見て見て私の顔!」とみんなに見せびらかしている。
「どけどけ!つぎはオレのばんだ!」
とおおかみのような口の大きなおばけがきたよ。
「おいこども!おまえをたべてやるガオ!」
と大口をあけてすごんでる。
はるちゃんカバンをごそごそごそ。たんけんななつどうぐの『むしめがね』を出して口の中をじーと見てる。
「まあ、むしばがいっぱい。ちりょうします」
とえだを手にとりむしばだらけの歯をつっつきだした。
「いてて、いてて」
と大口おばけはびっくりして、あわてて逃げてった。
「こらっ、もうゆるさんぞ!」
こんどは体の大きな入道おばけ。うでぐみしてはるちゃんをにらみつける。はるちゃんまけじと手をこしにあて「フン」とはないきをならす。
「おまえのようななまいきは育てたおやのせきにんだ。だからおまえのかあちゃんを取っ捕まえて食ってやる!」
と地面がゆれるほどの大声でさけんだから、さすがのはるちゃんもびっくり。さらに入道おばけはふところから大きな水晶玉を取り出して「これを見ろ!」と大声を出した。はるちゃんがその水晶玉をじっと見ると、その中にはかあちゃんの姿が映し出されていた。その中のかあちゃんは不安げな顔でなにかをさがしているようだった。
「おどろいたか。今からおばけのなかまがおまえのかあちゃんをつかまえにいくぞ!」
はるちゃん、びっくりして声も出ない。
(かあちゃん、あんな顔してどうしたんだろう。ひょっとしておばけがこわいのかな? おばけにつかまったらどうしよう。たべられちゃったらどうしよう!)
はるちゃん、いろんなこと考えると、だんだんむねが苦しくなって、かなしいきもちになってきた。
「かあちゃんが食われたらもう会えなくなるぞ!ぐへぐへへ」
そんなこと言われると、はるちゃんどんどんかなしくなってとうとう涙がぽろり。
「えーん」
それを見たおばけたち
「やったやった! なまいきこどもがついに泣いたぞ!」
とバンザイをはじめた。
「うえええん」
「バンザーイ、バンザーイ」
「うええええええええん」
「バンザーイ、バンザーイ」
「うええええええええええええええん」
「バンザーイ、バンザーイ」
「ゔううえええええええええええええええええええええええええええええええんん」
はじめは喜んでいたおばけたち。はるちゃんの泣き声はどんどん大きくなり、みんな耳をふさいでる。
「なんて泣き声だ。うるさくてかなわん」
「ゔゔうえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんん」
泣き声はさらに大きくなり森中にひびきわたる。
「もうかんべんしてくれ。泣き止ませろ」
とおばけたち。
「おおいこども、もう泣き止まんか」
と言ってももうおそい。
「ゔゔうううええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええううううううううううううううくえええええんん」
はるちゃんの泣き声はとまらない。
「わかった。もうかあちゃんを食べるなんていわないから泣き止んでくれ!」
と入道おばけが言うと
「ほんとに?」
とはるちゃんちょっと顔をあげた。
「ほんとだとも。だからもう泣き止んでおくれ。わしがわるかった。えへへ」
入道おばけが、せいいいっぱいのやさしい顔で言ったけど
「うわああん、おばけの顔こわいよう」
と逆効果だったみたい。こまったおばけたち。なんとかはるちゃんをなだめておうちまで送って行くことにきめた。
はるちゃん、ぜんぜん泣き止まないけど、おばけたちと一緒に歩きはじめた。
おばけたちは、はるちゃんが転んだりあたまを打ったりしないように草をかきわけ、枝を持ち上げてくれた。やがて森の入り口に近づいてくるとひとかげが見えた。それははるちゃんのかあちゃんだった。かあちゃんがさがしていたのは、はるちゃんだったんだね。
「かあちゃんだ!」
はるちゃん、ぱっと泣きやむと大きな声で
「かあちゃーん!」
とさけび、いっちょくせんに走って行った。
おばけたちはひとあんしん。やっと森が静かになった。さあ帰ろうと思ったら、はるちゃんがきゅうに振り返りこっちに戻って来た。
びっくりしたおばけたち。おそるおそる、
「ど、どうしたの?」
はるちゃんカバンをごそごそごそ。たんけんななつどうぐの『ラムネ』をだして、
「これあげる。またあそぼうね!」
と言って走っていった。
その後ろ姿を見送りながらおばけたちは、
「……またこいよ。なまいきはるちゃん!」
と言って帰っていった。
はるちゃん、いっちょくせんに突っ走る。もうかあちゃんの顔もはっきりみえた。
「かあちゃん、かあちゃん、かあちゃーん!」
とものすごい勢いで、かあちゃんのむねにとびこんだ。
「はるちゃん!」
かあちゃんはびっくりして、そして
「おかえり」
とやさしくギュッとだきしめてくれた。
おしまい