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ある日の昼下がり、いつものカフェで

作者:

 月曜日、優しい春の日差しを受けて新しい一週間の始まりを感じながら店内の観葉植物を眺めていた。ひっそりと構えるこのカフェで働きはじめてもう数年が経ったが、この店の柔らかな雰囲気が自分には合っていると思っていた。だが、まろやかなミルクティーに加わるほのかなスパイスが私たちを魅了するように、緩やかな日々に立つほんの少しの波紋は、この繰り返す毎日にちょっとした楽しみを与えてくれるのだ。

 店の扉が開いて控え目な鈴の音が鳴った。平日の昼下がり、この時間に来るのはあの男性だろう。

 いらっしゃいませ、と笑顔で振り向くと、扉の鈴のように控え目な笑顔でいつもの彼が立っていた。


 奥から二番目の4人掛けテーブルが彼の定位置だ。いつも隅の椅子に座って彼はノートパソコンと何かの本や資料のようなものを広げている。平日の昼に私服でこの店にやってくるところを見ると、物書きさんなのかもしれない。南向きの大きな窓から差し込む日差しが反射するのか時々眼鏡の奥で目が眩しそうに細まるが、ブラインドを返さないのを見ると今日の穏やかな日差しは心地よいのだろう。

 ただの店員に行動を把握されているような彼だが、そんな彼が私たち店員に常連だと認識されるようになる頃にはすでに彼の目的も知られるようになっていたのだった。

 店員は注文の合図に気づけるように目を配ったり近くに寄ってみたりするものだが、複数の店員がいるにも関わらず彼が注文をするタイミングはいつも同じなのだ。少し強ばった声で、だけど嬉しそうな顔をしていつも同じ店員に声をかける。お目当ての子のためにこの店に通っているのだと暗黙の了解となるまでそう時間はかからなかった。それ以来店員たちにとって彼の存在が日常のちょっとしたスパイスになってしまったのだが、余計な計らいをするような下世話な人間はいなかったのが彼にとって救いだったろう。全く以て彼の与り知らぬところではあるが、勝手に安堵したものだ。

 そして、彼はいつも店に来ては注文してしばらく座って帰っていく以上のことは何もしない。とことん控え目で隠し事の下手な彼は、次第に店員から温かな目で見られるようになった。小奇麗な住宅街の中にぽつりと構えるこのカフェにはあまり若いお客さんは来ないこともあり、店員たちにとって彼はちょっとした癒しでありちょっとしたミーハー心をくすぐられる存在になったのだった。


 穏やかな彼の笑顔には不思議な雰囲気がある。控え目な表情が逆にこちらを惹きつけるのだろうか。

 彼の笑顔が今日の暖かな春の日差しと重なり、注文を待っているだろう彼の事を思い出して目を向けたが、彼は今日はタイミングが掴めなかったようで、近くにいた店員を呼び注文を伝えているようだった。少し残念そうな顔をしているのが見えて、さすがに注文を受けた彼女に失礼だろうと思いつつ、隠し事の下手な彼にこっそり苦笑した。

 注文を書いた伝票を持って彼女がカウンターにいる私のところまでやってきた。アメリカンでしょ、と私が言うと、さすがですね、と笑われた。そのままオーダーの担当を変わることを告げると彼女は承諾し裏へと入って行った。


 私がこのコーヒーを持っていった時の事を想像しながら、準備をする。

 きっと今日も、あの嬉しそうな笑顔をくれるのだろう。

 何も知らない彼の事だから、いつも私が彼の注文を受けられるように彼の近くをまわっている事も、気づいていないに違いない。

初投稿です。稚拙ながら思い切って書いてみました。

大昔に考えた話をもう一度きちんと考えながら書いてみようと思って書き始めましたが、なかなか思い通りにいかないものですね。

小説を書くってこんなに難しいものなんだな、と痛感しました。

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