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乙女ゲームの中で愛されたいと願う彼女と彼ら

キミだけの王子さまになるから愛して欲しい

作者: あひる


俺には大切な幼馴染がいる

我侭だけどかわいい俺のお姫さま

昔からお姫さまになりたがっている「ひな」


俺たちが幼稚園児の頃、ひなは言った

「れいくん、ひなね、おひめさまになれないんだって」

外遊びの時間だった

幼稚園でひなが唯一俺から離れている時間

珍しくその時間に俺の元にやってきた

「・・・」

当時の俺は他の園児を見下していた

いや、それは今も変わらないが、周りの同世代が別の生物に見え、交流をもつこと自体プライドが許さなかったのだろう

当初、保育士たちは俺を園児たちの輪に入れようとしていたが入園後半年も経てば、諦めたようだ

そんな俺に毎日つきまとってきたのがひなだった


「みきちゃんがね、ひなはかわいそうじゃないからおひめさまになれないっていうの」

「・・・シンデレラかよ」


話題はくだらないことばかり


けれども他の園児たちより意志の疎通ができていた


「うん、ひなのおうちはちゅーりゅーだからこれいじょうびんぼーにならないからおひめさまになれないって」

「・・・中流階級、親のまねごとか」


お受験して入ったとはいえ、たかが地方都市の幼稚園だ


「みきちゃんちはゆーふくだから、しんでれらにもしらゆきひめにもなれるんだって」


上流階級ぶる親の程度がわかるな


「だから、れいくんおうじさまにならないで」

「は?」

「ひな、れいくんとずっといっしょにいたいの。でも、おひめさまになれないとれいくんといっしょにいられないから」


ひなはお姫さまに執着していた

俺はひなが「おうじさま」の俺と釣り合うために、「おひめさま」に執着するのだと勘違いした


七澤玲に執着する人間なんていなかった

財閥の御曹司とはいえ、次男

両親は仕事で忙しく、それも大きな海外事業展開時に生まれた俺に愛情を抱くタイミングもなかったせいだろう

愛情を受けずに育った

お手伝いさんが住み込みで俺の世話をする

会う回数の少ない両親、仕事で俺と接するお手伝いさんと家庭教師、そんなせまい世界に生きていた俺にとってひなは特別だった


だから、俺のほうがひなに執着していた


でもそんなことに気付いていなかった俺は、ひなに適当な対応ばかりしていた

先のことなんて考えないでその場限りの慰めを

「・・・おうじさまはおおきくなったらおうさまになるんだ」

「うん?」

「おれはじなんだからおうさまにはなれないんだよ」

「じなん?」

「おれのあにがおうさまになるんだよ。だから、おれがおうじさまでもおおきくなったらしんかになるんだよ」

「?」

「はぁ、あー・・・つまりおれはひなだけのおうじさまなんだよ」

「じゃあずっとひなだけがれいくんといっしょにいられるんだね」

「まぁ、」

「ずっーと、ずっーといっしょにいようね、れいくん」

そういって笑ったひなの顔を今でも覚えている

俺にとってひなは絶対だった


勘違いに気付いたのは小学4年生

学芸会でシンデレラをやることになったときだ

ひなは、あいかわらず「おひめさま」に執着していた

だから、当然、シンデレラ役に立候補するものだと思っていた

4年にもなれば、俺の周りには俺の家や頭脳目的に同級生が群がるようになっていた

ちやほやされることになれていなかった俺は同級生を手下のように利用し、クラスの実権を握っていた

だから、ひながシンデレラになれるように口ぞえしてやろうと思っていた


しかし、ひなが立候補したのは「舞踏会で踊る令嬢A」だった


俺は「王子様」になった


「シンデレラ」はあの「みき」だった


すぐひなになぜシンデレラに立候補しなかったのか聞きに行った


「だって七澤くんはみんなのおうじさまになっちゃったから」


れいくんと舌足らずに俺を呼んでいたひなが、いつから「七澤くん」と呼ぶようになったのかはわからない

それだけひなとしゃべることが減っていたことにも気付かないでいつまでもひなの王子様気取りだった


「なんだよそれ」

「ひなはね、七澤くんにひなだけの王子さまになってほしかったんだよ」

「幼稚園の頃も似たようなこと言ってたよな、言っただろ、おうじさまは」

「うん、だからね、ひなは誰かのためだけのお姫さまになりたいんだよ」

「は?」

「私だけを見てくれる私のわがままだけを叶えてくれる私だけの王子様」


ちょっとした企業の令嬢「みき」より裕福じゃない「ひな」とずっと一緒にいるのだと伝えたつもりだった


好きなのは「ひな」だけなのだと伝えたつもりだった


お姫さまじゃなくても、俺はお前と一緒にいたい


「なんだよそれ、意味わかんねぇよ」

「うん、だからね、七澤くんはひなの王子様じゃないんだよ」



ひなの姫論がわかったのは、それからすぐのことだった

「舞踏会で踊る令嬢A」と一緒に踊る「舞踏会で踊る子息A」が誰かわかったからだ


そいつの名前は、東雲叡智

大病院の経営をしている東雲家の三男だ

学校はサボりがちで、来ても誰とも会話をしない


いや、ひなとだけ話す

授業中もひなをずっと見つめている

休み時間は本を読んでいる


・・・昔の俺にそっくりだった

他と交流を持たず、ひなが近寄ってきたときだけ人間らしく過ごした


ひなの姫論は、「女の子はみんなお姫さま」だ

ひな以外の「お姫さま」と過ごすようになった俺は当然、ひなだけの王子さまから落選

それでも俺の周りにはひな以外の「お姫さま」がたくさんいたから、「ひな」というお姫さまを俺の中から消した


・・・ひなに捨てられたことを認めたくなかった


6年になる頃、俺の周りには、相変わらず媚びを売る奴やガキぽっい恋愛感情をもつ奴がさらに多くなった

七澤家の業績が上がり、日本一の大財閥と言われるまでになったからだ


世間の七澤家の評判が上がる一方で、家庭内に不穏な空気が流れ始めた

いや、元々流れていたのかもしれない

両親と会うことが少ない俺にはわからなかった

母方の祖父母と一緒に暮らしている兄・亮が教えてくれた


・・・父が不倫をしている、と


そもそも、長男である亮は母と別の男との間にできた子だった

それが発覚したのは俺が生まれた頃

元々、家同士の結婚で愛のない結婚だったが、亮が生まれた後、順調に愛を育んでいたらしい


そんなときに発覚した不倫

父は次男の俺も自分の子ではないのかもしれないと疑心を持ち、一緒に住むことを放棄したらしい

母は、亮と俺を捨て、夫に尽くすだけになった


そんな事情を亮からすべて聞いた

聞いたとき、なんだそれはと思ったものだ

父と母に短いながらも愛され、その後は祖父母に同情されながらも愛されて育った亮と

実の両親の子にも関わらず、誰にも愛されずに育った俺


亮が事情を語ったのは叔父の元へ養子に行くと決めたからだ


「俺が生まれたせいでお前にはかわいそうなことをした」


とでも言うかと思えば


「俺は叔父さんの会社を継ぐ。叔父さんには子どもがいないし、血のつながらない子を七澤家の跡継ぎにはできないだろう?」


お前は七澤家を継げるんだ、羨ましいよ


結局、俺を見てくれていた奴なんて、俺を愛してくれる奴なんていないんだ



父は、母親への復讐のつもりで不倫をしているらしい

その愛人との間に子どももいるようだ


・・・俺と1つ違いの子どもが


母は、父に不倫がばれてからずっと父に尽くしてきたが、父はもう母を信用していなかったのだ



学校に行けば、相変わらず俺に群がってくる奴らがいる

親に言われて仲良くなったふりをしたい奴、俺に何かを恵んでほしい奴、俺と恋愛したい奴

俺の気持ちを読み取れる奴なんてこの中にはいない

そう思うと気分が悪くなって、その日はすべての授業をサボった

屋敷に帰れば、誰にも愛されていないことを突きつけられる気がして帰りたくなかった


誰もいない図書室で、机に顔を突っ伏して目を閉じた


「七澤くん、なにかあったの?」


そう、誰もいないはずだった


「・・・なんで」

「?私、図書委員で今日は当番なの。もうすぐホームルーム始まっちゃうよ?」

「・・・さぼるからいい」


久しぶりにひなと喋った

小5からクラスが離れまともに話すのは2年ぶりだ


「・・・なにかあったの?」

「・・・どうしてそう思うんだよ」

「だって、七澤くん、イライラしているときは顔隠しちゃうもん」

「隠すって・・・」

「それに、七澤くん真面目だからさぼるなんてよっぽどのことじゃないかなって」

「・・・真面目じゃねーよ、この前だってクラス全員で授業放棄した」

「それって、七澤くんが言い出したことじゃないでしょ?」

「どうして」


あれは、クラスの奴らに謀られてやったことだ

元々、学校で習うことは家庭教師に教えられているから俺はひまで、授業なんてまともに聞いてなかった

だから、クラスの奴らに次の授業は理科だと言われ教室移動し、過ごしていると、授業を俺の発案でサボったことになっていた

サボッた授業の教員は辞めさせられ、クラスメイトたちは喜んでいた

企んだ一部のクラスメイトたち以外は俺があの教員を嫌っていたからだと思い込んだのに


「七澤くんは、斜め横断も許してくれないほど真面目だもん」


たった一人でよかった

たった一人で

俺を信じてくれる、俺を愛してくれる、そんな人を望んでいたんだ


俺は幼稚園でそんな人に、ひなに出会っていたのに、ひなよりも周りの大勢に薄っぺらい愛情をもらうことを選んだ


ひなも父と同じで、裏切りを許さない


ひなはもう二度と俺を信用しない


だけど・・・


「ひな、」

「なぁーに?」

「もう、みんなの王子さまはやめるよ」

「・・・ひなの王子さまに空きはないよ」

「あぁ、だから王子さまから奪うよ」


ひなは綺麗だけの、かわいいだけのお姫さまじゃない

子どもの頃から知っていたんだ

裏切られることを

だから、はじめからたった一人を探していた

自分だけを見てくれる王子さまを



高等部に上がり、あの女が転校してくるまで、俺はひなだけの王子さまになろうと努力を続ける

叶わない可能性の高い、独りよがりの努力をあの女がぶち壊すあの日まで、俺は努力した


たった一人の特別な子に愛されたいから



初投稿です。

一応、シリーズなので完結したら訂正していきます。

乙女ゲーム要素も攻略キャラの立ち位置もうまく活かせてない笑


お読みいただき、ありがとうございました。

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