ch.1―特に簡単なこと。―STAGE4
こんなに遅くなるとは思ってなかった←←
テストは明後日からです(にっこり
おわた
死なないでほしい
まだ彼を死なせたくない
「やめなさいっっ!!」
鋭く空気を裂いた声に、降り下ろされた銀刃は狙いを外して床に突き刺さった。
一瞬にして世界が制止したかのような感覚。
私は隣でよく通る声を放ったルシフェラさんを見ることしかできなかった。
瞳の奥に強い意志の炎を点して、毅然と立っている彼女は動けない敵に向かって言い連ねる。
「いい加減になさいっ!あなたたちが用があるのはこの私でしょう!まず武器をはなしなさい!」
あまりの迫力に気圧されし、彼らは慌てて武器を手放した。
なんだか悪いことをした子供みたいだ、とか呑気なこといってる場合じゃないか。
「お父様がなにかいったのなら私は絶対に結婚しないとお伝えなさい!」
…あぁ、そうだった…ルシフェラさんは政略結婚から逃げてきたんだっけ…
ってことは…この人たちは…
私はさっきまで武器を構えていた、敵の生き残りを見つめた。
…ルシフェラさんのお父さんの部下…ってとこか。
おずおずとリーダーらしき男が口を開く。
「ですがお嬢様、ランダ様に命じられた我らとしては、あなた様を連れ帰らねばならないのです…」
ランダとはおそらくルシフェラさんの父親だろう。
「お父様には私からいっておきます。だからクロイスから離れて早く帰りなさい。」
「そうは言われましても…この男を殺し、お嬢様を連れ帰るのが我々の本来の目的。それに真っ向から背き…」
そこで男は一度言葉を切り、周りに転がった部下たちを見回した。
「これほどの損害を被ったとなれば、お嬢様が何を言われようと我々は厳しく罰せられます。」
いつのまにかレノンが私の隣に立っていた。
タキシードの彼を困惑顔で見つめてみる。
どうすればいいのか全くわからないこの状況。
僕たちはあくまで部外者だから黙っておこう、というように彼は首を横にふった。
少しの沈黙の後ルシフェラさんは口を開く。
「…ヴィスカル…」
「は、はい」
名を呼ばれたリーダーは、自分に向かって歩いてきたルシフェラに戸惑いの表情を浮かべた。
「PDは、持ってる?」
「はい、こちらに。」
ヴィスカルはズボンのポケットから小さな携帯のような端末を取り出して、ルシフェラが差し出した手に渡す。
PDと言うらしいそれを受け取り、ルシフェラは表面をクリックした。
ヴヴンッ
端末の画面から“CALLING”と表示されたホログラムスクリーンが展開される。
わりと近未来みたいなシステムね。
少し離れたところでルシフェラが睨み付けているスクリーンに変化があった。
50代くらいの白髪の男の顔がうつったみたい。
顔はよく見えないけれど、ルシフェラの反応からして、笑顔ではないだろうことはわかった。
「戻りません。」
開口一番、ルシフェラが放ったのは絶対零度の拒絶の言葉。
「戻れ。」
対する父親、ランダも、反論を許さない声音で返す。
「嫌です。」
「戻れ。」
二者同様に妥協する気配はない。
言い様のない緊迫感がはしる。
ルシフェラは怯むことなく、深く息を吸った。
凛とした声音で放たれる意志。
「お父様、私はお父様のことを心から尊敬しておりますし、愛してもおります。いままで、お父様の意見は正しいと思い、したがってきました。」
強い決意を秘めた瞳がホログラム越しにランダを見据える。
「ですが、今回は従う気はありません。」
ランダはなにも言わず、黙ってルシフェラの言葉に耳を傾けていた。
「私はクロイスをお父様を愛しているように愛しております。」
ルシフェラの目が少し和らぎ、気を失ったままのクロイスを少し見つめる。
「私は、クロイスのことが世界で一番好きです。」
優しさの中にある変わらない本心。
「クロイスを愛しております。本当に、愛しているのです。」
ランダの表情が微妙に変化した気がした。
「それは変わらない事実で、私は愛する人がありながら他の人と結婚するだなんて考えられません。」
ルシフェラはもう一度、しっかりとランダを見た。
「私は、クロイスと、共に生きたいのです。」
しばらく、誰も口を開かなかった。
永遠に思われるような沈黙。
「ん…あれ…」
破ったのは、クロイスだった。
ルシフェラを視界にとらえ、彼女のためだけに一人で敵を食い止めていた男は、子供みたいに笑った。
「おかえり、ルシフェラ。」
ルシフェラの瞳が潤み、大粒の涙がこぼれた。
PDを床におき、ルシフェラは起き上がったクロイスに抱きつく。
「ただいま…ただいま、クロイス…」
泣きじゃくる姫様の背中にてを回し、さすってやる。
「なくなって。」
「…会いたかったよ…」
ルシフェラの涙に、ヴィスカル達、部下は、もらい泣きをしていた。
私もレノンと顔を見合わせ笑いあう。
ほほえましい、再会だ。
「クロイス。」
そこに、ホログラムからランダの声がした。
ルシフェラはクロイスから離れ、彼はPDを緊張しながらとる。
「なんでしょう。」
「ルシフェラを、愛しているのか。」
クロイスは迷いなくうなずいた。
「はい、心から。」
ランダの目がほそまる。
ルシフェラはクロイスと一緒に画面を覗きこんだ。
ランダのあきれたようなため息。
「ルシフェラは、お前に任せよう。」
遠回しな結婚の許可が下った瞬間だった。
クロイスとルシフェラの顔が輝く。
「ありがとうございますっ!」
二人は同時に頭を下げた。
ヴィスカルらの歓喜の声が響く。
私は満足に笑みを浮かべた。
二人は、結ばれたのだ。
ほんと、ランダさんも、意地をはるタイプなのね。
ホログラムのランダは、確かに笑っていた。
「ありがとな、レノン、ユズキ。俺、めちゃくちゃ感謝してる。」
クロイスは今までで一番の笑顔で頭を下げた。
私はぶんぶん首を振る。
「クロイスが、一番頑張ってたと思うよ。」
レノンは笑ってネクタイをしめ直した。
「それに、これが仕事だしね。お代はいただきますから。」
「まけろよなぁっ!」
4人の笑いが響く。
幸せそうで、何よりだ。
ルシフェラは写真よりも輝いて見える。
「お嬢様、それでは我々はこれで。」
館内の片付けをしていたヴィスカルがひょこっと門から顔を出した。
ルシフェラがにっこりと笑って手をふった。
「ありがとう、ヴィスカル。」
「いえ。お幸せに。」
深々とお辞儀をして姿を消した彼も、とても喜んでいた。
そんなことを考えていたら、レノンに肩をつつかれた。
「ユズキ、仕事終わったし帰ろうか。」
いつの間にか笛を吹いたらしい。
虹色のオウムが空を旋回していた。
「また遊びにこいよな。いつでも歓迎するぜ?」
クロイスがニヤリと笑った。
舞い降りたジャックの背中に乗りながら私は笑い返す。
「お菓子、用意しといてよね。」
「おう!じゃあな。また、会おうぜ。」
苦笑まじりにクロイスは手をあげた。
ジャックが空に舞い上がる。
私は二人に手をふった。
その視界の端にきれいな青が写る。
「アルトリア…」
「だからアルシオネだってば、お嬢さん。」
青い蝶はひらりと輝きを残して去っていった。
一章完結
クロイス、ルシフェラ愛の逃避行(ぇ
は終了です
本格的にユズキがかつどうします