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ch.1―特に簡単なこと。―STAGE3


もんのすごく遅くなりましてすみません…


ユズキが走ります。


気が向いたら見てやってください…



「なんっで!」


私はばんっとドアを開け放った。


「いないのよ!」


そこにルシフェラの姿はない。これが一階で最後の部屋だというのに…


レノンと手分けして探したものの結局彼女が見つかることはなかった。


「ここ以外だったら…残されてるのは隠し部屋くらいだよ。」


大きいとは言えど、この建物には一階と二階しかない。つまり今の部屋で最後だ。


隠し部屋でもないかぎり、ルシフェラはここにいないことになる。


だがそれはない。アルジェリアだかアルジャジーラだかアルカリネだかなんだか忘れたけど、あの蝶がここに来た以上ルシフェラはここにいる。


やはりレノンのいう通り隠し部屋があるのだろうか?


仮にそうだとして、隠し部屋なんてそう簡単に見つけられるものじゃない。きっと見つける前にクロイスが死ぬ。


発砲音がまだ聞こえていることに安堵し、私はあまりいいとは言えない頭で精一杯に考える。


なにかないか…なにか…


「…!」


私、名案思いついたかも。さっと辺りを見回して目的のものを探す。目に飛び込む姿。


「いた!」


クロイスの遥か上ではばたく青い蝶に私は叫んだ。


「ちょっと手伝って!」


無視。


まさか自分に言われているとは思っていないのだろう。完全なるスルーだ。私は蝶の名前を覚えておけばよかったと後悔する。


「ユズキ、なにしてんの?」


突如叫び始めたら誰でもそう思うよね。変質者を見る目でこちらを眺めるレノンに、私はびっと蝶を指差して訴えた。


「あの蝶、協力してくれないかしら!」


指先につられて蝶を見つけたレノンはぱちんっと指をならす。


「…あぁ、なるほど!それはいい案だと思うよ。でもさ…」


彼はアメリカ人みたいに両手を軽くうえにあげるジェスチャーをして見せた。


いわゆるお手上げのポーズ。


「どうやって協力してもらうの?」


そこが問題なのだ。名前すら覚えていない蝶に、どうやってルシフェラを探すよう頼めるのか。


私は名案が没になるのを感じた。つい嘆息…


「名前、ちゃんと覚えといたら良かった…」


「あぁ、名前呼べばいいのか!」


ん?


「アルシオネ、ルシフェラさんはどこにいるかわかる?」


んん?


「何で名前覚えてんのよ!」


「え?だってクロイスが連呼してたじゃん。」


…じゃあさっきまでのレノンは名前知ってたくせに、頼むっていう発想がなかったのね…


いや、その前にさ…


「まさか…私の天然を心ではバカにしてたの…?」


「うん、そうだけど?」


神様、あなたのことは信じてないけど、今は願います。


わたしでも撃ちやすそうなマシンガンをください。無性に撃ちたくなってきました。


頭の中でそんな物騒なお願いをしてみる。当然だと明るく頷くレノンにひきつった笑みしか向けられなかった。


もうこの際マシンガンは諦めよう。


「今すぐそのリボルバー拳銃を貸しなさい。」


「やだよ!殺される!」


パンッ!


私の背後から迫っていた男が肩を撃ち抜かれて倒れる。


彼自身の拳銃を借りようと思ったんだけど…この腕前なら私が先に殺されそうだ。


というかこんなコントをしている場合じゃない!


そこへ舞い降りてきたアルシオネ。人間の言葉など理解できそうもないが、ルシフェラを探してほしいことはわかったらしかった。


青いきらめきをこぼすようにひらひらと舞う蝶は確実に進んでいく。


レノンの援護射撃に助けられながら私は光を追って走り出した。


アルシオネが案内したのは一階の左から三番目の部屋。


背後で繰り広げられる乱闘に身を投じているであろうクロイスを思い、気がせる。


早く、しないと。


部屋にすべりこんだ私はアルシオネが舞う絵画の前で立ち止まった。


どうやらこの絵が隠し部屋の鍵らしい。


だがどうすればいいか、全くもってわからない。


眉をひそめて頭を高速回転させる。


読んだことのある携帯小説なら絵の後ろに鍵があったりするんだけど、私はこの絵自体がヒントな気がした。


完璧にカンだけど…。


描かれているのは屋敷には似つかわしくない壮大な森だった。


たくさんの木々を静かな湖面に映した湖は、反射で輝いている。


端から見たらただの絵だ。


だけど私は…


「この絵、なんか変なのよね…」


違和感を覚えていた。


銃声を背後に聞きながら首をかしげる。


うまくは言い表せないが何かが変なのだ。


顔を近づけて違和感の正体を見つけ出そうと懸命に絵にかじりつく。


木々、透き通った青空、輝く湖面…


「…?」


私は視界の端にないはずの色を見つけて視線を止めた。


「黄色?」


見落としてしまいそうな片隅に小さく破れたあとがあって、警告を表すようにビビッドイエローがのぞいている。


破れているところから見えるなら普通、壁の色…つまり白がのぞくはず…


私は破れ口に指をかけてゆっくりその絵を破った。


「…!」


絵画を破りとった果てに見えたのは壁ではなく鮮やかな黄色の画用紙。


絵が二枚重ねになっていたのか…!


私が愕然として見つめた画用紙の真ん中には、小さなボタンがついていた。


なんの躊躇いも迷いもなく、私はそのボタンを押しこんだ。


ガゴンッ…ギイィィ…


…なんだかものすごいおとをたてて床に穴が開いた。


埃っぽい中を覗いても、暗闇の中に下に降りる手段は見当たらない。


つまり…


「不思議の国のアリスよろしく、飛び下りようってことね…」


私はもう一度穴をのぞきこんだ。


やはり先は見えない。けれどアルシオネはその穴のなかにスルリと舞い込んだ。


いくしか、ないみたいだ。


覚悟を決めて、私は後ろで敵を相手に銃を撃ち続けているレノンに叫んだ。


「助けにいってくる!」


タキシード姿の彼は、振り向きもせずに左手から何かを放ってよこした。


ぱし…手に収まったのは迷彩柄のジャックナイフ。


背中を向けたままでレノンはひらりと手を振った。


「ありがと。」


私は小さく呟いて、穴に飛び込んだ。






「いぃやぁぁぁ!」


結構な浮遊感に悲鳴が迸る。


格好悪く手足をばたつかせて暗い穴のなかを落ちていく。


終着点はわりと早く訪れた。


「うぐぇっ!」


女子らしからぬ声を上げて、ふんわりした床に叩きつけられる。


今までの浮遊感と反動で頭がガンガンした。


うっすら目を開けて辺りを見渡す。


「ん…あかり…?」


地下?は一本道がまっすぐ続いていて、ぼんやりした灯りに照らされていた。


おそらくこの先にルシフェラさんがいる…


私はふらつく身体を奮い起たせ、ゆっくり加速を始めた。


右肩のやや上方でアルシオネが青いりんぷんを落とす。


石が敷き詰められた床を靴が蹴るたびに音が響くところを見ると、相当広い造りのようだ。


私は決して速いとは言えない足で懸命に奥を目指した。


走ることなんて滅多に無かったから、息がちょっと苦しい。


終わりは思ったよりも早かった。


「ルシフェラさん…!」


奥にあった檻に閉じ込められていた人影に呼びかけると、頭が上がり、写真で見たよりも少し疲れたような顔がのぞく。


「…あなた…誰…?」


すんだ柔らかな声が私に問いかけた。


「…解決屋のアルバイトしてる、ユズキです!クロイスさんの依頼で…」


クロイスの名前に少女がぴくりと反応を示す。


「クロイスが…?」


私は喋りながら檻の鍵を探しているが、一向に見つからない。


「はい、今一人で敵を食い止めてます…あ、あった…!」


カチリッ。やっとのことで見つけた小さな鍵で檻のロックを解除してなかに入った。


ルシフェラの元にかけより、レノンからもらったナイフで腕の縄をほどくのだが…


これがなにげに固い。


頑丈そうなロープで結ばれた結び目に慎重に刃を突き立てる。


「クロイスが一人で戦ってるの…?」


切りやすいようにと、名一杯腕を広げてくれているルシフェラさんが心配そうに眉尻を下げた。


きっと心からクロイスが好きなのだろう。


私は持てるかぎりの力で縄と格闘しているため、少し力んだ答えを返す。


「そう、ですね…レノンは私の、援護だし…」


「そう…あのばか…」


ルシフェラが唇をかみ、少しうつむいた。


影になって見えない顔が気になる…。


「…よし、切れた!」


刃の押し引きを繰り返し続けた後、弾けるような感触と共に縄がちぎれた。


ルシフェラさんは血を流すように手をぶんぶんふって、足の縄に取りかかろうとした私を止める。


「えっと、ユズキちゃんだったっけ…?」


「はい…」


戸惑ったように返事をすると、白い腕が差し出された。


花が咲くような笑顔。


「あとは私がするよ、ありがとう。」


腕の縄で大分疲れていた私にはありがたい言葉だったから、大人しくナイフを彼女に手渡した。


受けとるやいなや、ルシフェラさんの腕が動きあっさり縄をたちきる。


「すご…」


なんだか自分が情けないんだけど…


思わず簡単の声を漏らす私にルシフェラさんは照れ臭そうに笑った。


「縄くらいなら切れるよ、私でも」


準備運動のように軽く足を動かして立ち上がった彼女の目が輝く。


「アルシオネ!」


檻の外で待機していたアルシオネに気づいたようだ。


つい残念にも思えてしまうが、旧友にあったような無邪気で安心しきった顔はすぐに引き締まる。


「さて、二人を助けにいきましょ」


しっかりした足取りでルシフェラは檻を出た。


二人と一匹は出口に向かって駆け出す。


少し前に見たはずなのにもう懐かしく感じられる一本道を走り抜け、穴の下についた。


え、これどうやって帰るのかしら?


穴の入り口まで上がる手段は辺りを見回してもないように思われる。


だがルシフェラさんは、すたすたと10時の方向に歩き出した。


おいていかれないように着いていく。


可愛いながらもたくましい雰囲気を感じる背中を追いかけると、扉が現れた。


「これが地上につながってるの。」


扉を開き、中にあったはしごに手をかけながルシフェラさんは振り向く。


「登れる?」


「…多分…」


自信なさげに呟く私に彼女は気さくに笑いかけた。


「大丈夫だって」


根拠の全くない自信に後押しされ、私はルシフェラさんと地上に向かってはしごを登りはじめた。






「よし、ついたよ!」


はしごを登り、たどり着いたのは一階の一番右端の部屋だった。


ばんっ


扉を開け放ち、ルシフェラはクロイスの姿を見つけた。


「クロイスっ!」


びくっ…からだ全体が反応を示して彼がこちらを見る。


「ルシフェラ…!」


愛する人を見つけたクロイスが嬉しそうに安堵したように微笑んだ。


「ありがとう、ユズキ、レノン…」


そしてそんな風に微笑んだ彼は数人の敵を前に


崩れ落ちた。


ルシフェラの目がまん丸に見開かれる。


私も一瞬言葉を忘れたように、喉を空気が通るだけだった。


隣でルシフェラの悲鳴が上がる。


「クロイスーッ!」


倒れた彼にあっけにとられた彼らが動きだし武器を構えるのと、レノンが部屋から飛び出すのは同時だった。


レノンがなにか恐ろしいものを見たかのような顔をした。


「あ」


彼は助けられない。


彼は間に合わない。


いや、誰一人として間に合わない。


彼を救えない。


動かないクロイスに、輝く刃の銀弧が迫った。






駄文を読んでくださりありがとうございました


それでは…


また会えると嬉しいです。

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