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二話 地下での遭遇

 クラッシックは良いものだ。

 どうやら俺は記憶を失う前クラッシックが好きだったようだ。何しろ少し目を閉じて思いを馳せれば名指揮者による名楽団の名演奏が蘇ってくる。

 指揮ジョン・バルビロール、ハレ管弦楽団によるシベリウス作曲、交響詩フィンランディア。ムラビンスキーの指揮によるチャイコフスキー交響曲。ザンデルリング指揮、ベルリン交響楽団によるブラームス交響曲。ピエール・フルニエのドヴォルザークチェロ協奏曲。

 語りだせばキリが無く、思い出すだけでも背筋に震えが走るような名演の数々。


 ───さて、何故に俺がそんな名曲アルバムのような記憶を脳内で再生しているのかと言えば、現在進行形で不毛な時間を過ごしているからだったりする。


 結果、俺は地下に降りてみた。

 好奇心もあった、あったがそれ以上に「よ………よ………」と呼ぶ声が止む気配が無くそれに負けたと言った方が正しいのかもしれない。

 恐怖心と好奇心半々ぐらいで降りてみたその先は地下とは思えない程に広く、そして明るい空間だった。足元は上と同じように細かな文様が刻まれた石畳が敷かれ、壁や天井が青白く発光している。ヒカリゴケの類だとしても異常なほどの光量だが、ファンタジーな世界で一々そんな所を突っ込むのは野暮だろう。

 そして石畳の向こう、何本もの燭台が燃え立つ祭壇のように設えられたそこに彼女はいた。

 

美事みごとなり、クライノートの血につらなる者………よ?」


 彼女はそう良いながら振り向き、俺を見て止まった。

 そのまま結構な時間が流れている。

 長い髪は燃え立つ様に赤く、少々釣り目の双眸は真紅。肌は打って変って真珠のように白い。掛け値無しの美貌だろう。額には目と同色をした真紅の宝石が嵌ったサークレット。全身をゆったりとした衣装で包み込み無言のまま此方をいかぶしげに、ハッキリ言ってしまえば警戒の表情を隠そうともせず睨んでくる。

 お好きな人には堪らない視線だろうが、俺の趣味じゃない。

 いい加減頭の中で名曲アルバムを再生するのも嫌になってきたので話しかけようとした矢先、彼女が先に口を開いた。


「───ぬし、何者だ?」


 記憶喪失の俺にそれを聞くか?


「何者と聞かれると俺も困るんだが………」


「………まぁ良い、主が何者であろうと試練を越えし事は確か、ついて参れ。」


 彼女が祭壇に手をかざす。すると燭台しょくだいの炎が大きく燃え上がり中から扉が現れる。扉の中には部屋があった。

 祭壇から降りた彼女の後について歩く。

 それ程広い部屋じゃない。石造りの四方、窓は無く装飾らしい装飾も無い。部屋の中央には小さな木製のテーブルが置かれ、その上で妙に明るいランプが燈っている。そして、座ると言うこと意外使い道がなさそうな椅子が二脚。実に殺風景。まだ最前の祭壇の方がマシだ。


「座ると良い。」


 そう進められ椅子に腰掛ける。

 俺が座ったのを見て彼女がぱちりと指を鳴らす。するとテーブルの上に金属製のゴブレットが現れる。中には済んだ赤い液体が満たされている。


「さて、先ずは名乗り位済ませておこう。我が名は「原初オリーゴー」の一人、試練与えし炎、ロベロ・フリーギドゥム。ロベロと呼ぶがいい。」


「俺は、クラミネレイヤ、クラミネが姓、レイヤが名だ。」


 名乗られたら名乗り返す、常識と言うか礼儀だ。

 しかし、何と言うか、俺も人の事を彼是アレコレ言えないが中々に物々しく厨二なお名前です。


「レイヤか、余り聞きなれぬ響きだな。」


「出身が大分遠い所だからな。」


 嘘ではない。


「ほう、確かに黒目黒髪とは珍しい………少々地味だが。」

 

 小声で言ったが聞こえている。まあ色合いで考えてみれば地味なのは確かか。


「───まあ良い、我は我の役目を果たすとしよう。」


 ロベロが机上の杯を取り一口。

 釣られて俺も一口。アレだこの味は記憶にある。酸味が強いこの味、確かハイビスカスティーだったか。そうすると何だ、この世界に来て初めてお茶を飲んだがハイビスカスティーがデフォなのか?


「さて、主は何を望む?」


「望むって、何がだ?」


 うわ、凄く呆れた顔された。


「主よ、此処は何処だ?」


「部屋だな。」


「もっと広義に見ろッ」


 何かキレた。


「………得体の知れない洞窟内の部屋?」


「………主、此処が何処で、どういった目的を成す為の場所か知っておるよな?」


「言いにくいが、知らん。」


 盛大に溜息を吐かれた。 

 仕方が無いので目覚めから此処に至るまでの経緯を簡単に話す。医療器具フラスコの中にいた事は黙っていよう。


「フム、するとクラミネ、貴様は記憶を失った上で何処とも知れぬ土地で目覚めたと言うのか?」


「そう言う事だな。そこからは言った通り宛も無く彷徨った結果此処に辿り着いた訳だ。」


「成程………正直な所、主の言う事は胡散臭く余り信用が置けない。」


 容赦無いねオイ。


「しかし、それも些細な事だ。我の役目は試練を与える事、そして試練を越えし者に力を与える事。この二点に尽きる。よって深くは問うまい、特に聞きたいとも思わないしの。」


 ほっほっほと笑う、というか笑われた。

 このドライな考え方は結構好きだが。


「しかし、記憶が無いと自称する主に行き成り試練どうこう言った所で困るであろう、そもそも我も久しぶりに自力で試練を越えた者に逢えたというのにコレでは面白みが無い。そうだな、主に聞く気があるのなら少し我の説明をしてやろうかと思うが、どうする?」


「是非とも聞かせて欲しい。目覚めてから何も情報が無くて困っていたんだ、そもそもこうやって誰かと会話をするのも初めてだしな。」


「………そういえばぬし我と普通に話しているな?」


 ロベロが不可解そうに眉をひそめる。


「ああ、それがどうかしたか?」


「うむ、我の話す言語は既に忘れ去られた言葉、一部の者達が創造言語ゲネシス幻想言語パンタシアと呼ぶものだが、何故主がコレを話せる?」


 ………俺普通に日本語で話してるだけだよな?


「………何故と聞かれても記憶が無い俺には答えようが無いんだが………」


「───まあ良い、しかし中々主は規格外だな、梃子摺てこずる事無く試練は越えて見せた上に話す言語は失われた言語、まるで古代───」

 

「どうした?」


「嫌、何でもない、さて、我についての説明だったな。」


 何やらあからさまに話が変えられた。詳しく聞くと面倒な事になりそうな気がするのでスルーしておこう。


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