とある探索者協会員の記録.10
新史歴XXXX年/金錐月/第十日
ボロミア文明圏 聖火都市モラン 第六主街区 『木漏れ日通り』
NOTEAPP.NEXXXX.0510
『モラン探索者協会本部』一階受付業務日報
--------------------------------------------------
■担当窓口:受付係エルマ、補佐ポーレッテ、警備兼窓口キュエン、シャウム(『モラン大学遺跡探索部』)
■業務概要:外部団体対応、行政・観光課協議、戦果報告処理、パレルノ山討伐隊敗走の緊急搬送処理、捕獲魔獣の査定
--------------------------------------------------
【1.外部機関・行政対応】
・AM 09:00【動物愛護団体からの抗議文を受領】
『ボロミア動物愛護会』より、九英雄の『火竜封じの祝祭』で使用予定の赤亜竜に対する虐待疑惑・反対の抗議文書が提出される。対応を協議中。
(※地元竜神信教団体からの文書は協会長指示により破棄)
・AM 10:30【モラン市観光課との協議・協会長の意向】
モラン市観光課より「紀南地方の伝統儀式の復活」として、九英雄の祝祭とのコラボレーション事業が打診される。協会長は観光効果およびマウザ大公家へのアピールとして非常に乗り気であり、積極協力を指示。
--------------------------------------------------
・PM 12:00~【戦果報告】
【戦果報告:第005号『大フォグラント勇者隊』】
対象階層:第二階層『人馬洞穴』
活動内容:固有種『エルネト・ケヌートゥ』討伐
成果:
・階層依存固有種『エルネト・ケヌートゥ』を討伐
・大型人馬種個体を追加で撃破
・大型体内呪石を回収(高純度)
・念写撮影を実施し、各種ネットメディアへ情報提供
・総務課広報誌『九英雄速報』にて一面記事として掲載
協会評価:
・回収された呪石は純度・換金額ともに高水準
・討伐時のエリア占有により、他パーティとの軽度トラブルが発生
・協会長より、他パーティへの注意喚起が行われた
--------------------------------------------------
【戦果報告:第015号『槍頭戦団』及び第019号『ローナン傭兵団』】
対象階層:第二階層『石怪洞穴』
活動内容:大量繁殖種の討伐および素材採取
成果:
・古代岩肌種一体を討伐
・石怪獣群(計十二体)を討伐
・体内呪石(中型)を複数回収
・前衛装備の耐久試験を兼ねた戦闘で成果良好
・『鉄槌大河工房』より追加報酬・次回依頼の相談
協会評価:
・呪石は高純度で換金額が高水準
・戦闘記録は訓練資料として活用予定
--------------------------------------------------
【戦果報告:第010号『木漏れ日採集隊』及び第064号『ラクラクハンターズ』】
対象階層:第一階層『竜骨の森』
活動内容:採集および環境調査
成果:
・希少植物『光苔』を大量採取
・中央墓標船付近での環境変動(湿度上昇)の兆候を確認
・採集効率向上のため新ルートを開拓・『花咲きの回廊』と命名
・並行して常設依頼も完了。採取及び棺運搬による遺骨回収を完了。
・未回収の遺骨・遺品に関して、他パーティと連携し継続して回収を進める方針
協会評価:
・光苔は照明呪符の材料として需要高
・新ルートは協会地図へ反映予定
・地獄解放時に大量発生した民間人犠牲者の遺骨回収を確認
・利益には繋がらないが、道義的観点から協会より功績点を付与
・後日モラン市より感謝状が贈られる予定
--------------------------------------------------
【戦果報告:第067号『ヒンクと愉快な仲間たち』】
対象階層:第一階層『獅子王の遺跡』
活動内容:古代防衛装置の安全化作業
成果:
・遺跡調査の妨げとなる防衛機械群の掃討
・安全化ルートを仮設
協会評価:
・安全化ルートは新人探索者や民間調査チーム向けに有用
--------------------------------------------------
【戦果報告:第072号『ダンジョンなんて怖くない』】
対象階層:第一階層『獅子王の遺跡』
活動内容:新人訓練を兼ねた採集・小型魔獣討伐
成果:
・小型魔獣を複数討伐
・採集素材(薬草・精霊晶石)を回収
・警備課職員の指導の下、新人が初討伐を達成
協会評価:
・新人育成の成功例として記録
・素材は協会へ提出され、評価額は標準
--------------------------------------------------
【戦果報告:第066号『霧渡りの道標』以下六パーティ合同調査隊】
対象階層:第三階層『中央大岩塊』及び『無名墓地』
活動内容:階層調査
成果:
・第066号『霧渡りの道標』を中核パーティとした合同調査隊が結成。
以下のパーティが参加。
・第012号『炎上戦士団』
・第016号『南辺呪術団』
・第032号『異獣ぶっ殺し隊』
・第040号『ぶっこみ迷宮フライト』
・第087号『QQビジョナリー』
※第三階層のため、合同調査時の許容人数超過はなし。
・小規模飛び石群の奥に存在する転移門より、隣接異界『ボロミア大工場群』の深部『無名墓地』に到達できることを確認。
・多数の屍・亡霊と交戦しこれを撃破。
・墓地の奥に市街地エリアを確認。
・かつて南方辺境工業地区に存在したマウザ公営市街区の再現時空と判明。
・このエリアより、伝承化した悪霊・『怪談』の存在を確認。
・家屋及び建造物を媒介とする地縛霊や、かつて人の意思が行き交っていた組織そのものに疑似人格が発生する『思念残留』事例を確認。
・固有種の疑いがある怪奇現象として『ホーンテッドハウス』『学校の怪談』『因習商店街』『ボロミア死霊術士協会支部』などが確認されたが、現時点では対処困難と判断されたため、討伐は断念。
・複数の固有種『リッチ』の徘徊を確認、遭遇戦となり、うち一体を討伐。
・更に奥地にマウザ家が管理していたと思われる巨大邸宅の廃墟を発見。
・『QQビジョナリー』が占術予測の結果から撤退を進言。『炎上戦士団』が同意するも、他のパーティは探索続行を希望。
・『霧渡りの道標』と『南辺呪術団』の使い魔が安全を確認した後、まず『霧渡りの道標』が廃墟に侵入した直後、建物内部の時空が外界から隔絶。
・侵入も脱出も不可能となり、やむを得ず『霧渡りの道標』が単独での探索を続行。
・その後、通信音声から『霧渡りの道標』が何者かに追われている状況が明らかとなったが、詳細がわからないまま連絡が途絶した。
・生存は絶望的と思われる。
・合同調査隊はその場から撤退した。
協会評価:
・発見された新区画の暫定エリア名を『マウザ怪談市街』に決定。
・未帰還者が発生したダンジョンを暫定エリア名『一方通行廃墟』とし、『警戒レベル五』に設定する。
--------------------------------------------------
【2.緊急搬送:パレルノ山討伐隊の敗走と被害状況】
・PM 04:00【敗残パーティの帰還と被害査定】
『舌獣イキュー』討伐隊がパレルノ山より撤退。
イキューと交戦中、背後から『蛇の王』に挟撃され壊滅的被害を受ける。
被害状況は以下の通り。
・『栄光の槍』:全滅。遺体は全て捕食。
・『ヤイエス団』:半壊。代表ヤイエス・リト氏のみ軽傷。ダトラム・メジアガイ氏は使い魔を失い深刻な心的外傷。ダリオ・タイオン氏は首から下が石化。他メンバーは石化した遺体の一部のみ回収。
・『伝説踏破団』:レライエ・グラント氏の両目が石化・崩壊(再生不可)。
・ルハーナ・サロド氏:命に別状なし。
--------------------------------------------------
【3.ソロ探索者ドリスによる救出と怪物持ち込み】
・【救出および『蛇の王』捕獲提出 】
第094号探索者『ドリス・リグデェイア』が討伐隊を救出し帰還。
投網呪文により『蛇の王』を生け捕りにし協会へ提出。
捕獲報酬は全額グラント氏ら生存者の治療費・生活補償へ寄付を希望。
・PM 04:30【警告】
リグデェイア氏より窓口へ以下の警告が言い渡される。
・「中堅以下の探索者はイキューに手を出すな」
・「『国際呪術連』や『塔』の基準で第五階梯に到達していない者は、パレルノ山や第四階層以降へ行かせるべきではない」
・「強制はできないが、探索者協会として『段位』『級』『ランク』といった厳格な制限基準を作るべきだ」
【4.迷惑行為の報告】
・PM 05:15【第二階層『妖精洞穴』での騒音事案】
『シャト軍団』より他パーティが騒音を発し脅威を誘引していたとの報告あり。意図的か事故か不明であり、証拠不十分のため協会長指示により呼び出しは行わない。
--------------------------------------------------
【担当者所感・業務裏メモ(※個人暗号化ログ)】
「言葉が出ない。
街の観光課とお偉いさんが『九英雄のイベントで街を盛り上げよう!』なんて浮かれてて、協会長もヘラヘラしてて、竜神信教団体からの苦情の手紙をシュレッダーにかけろとか言ってる間に、ダンジョンは地獄になってた。
『木漏れ日採集隊』みたいに良い戦果報告もあったけど、果敢に新エリアに向かった『霧渡りの道標』は未帰還に。第三階層の奥地には怪談だらけの恐ろしい場所があることがはっきりしたんだって。
あの騒がしくて荒っぽい『異獣ぶっ殺し隊』がかつてないほど重苦しい雰囲気で静かになってたなんて、よっぽどの事態だよ。
そして、イキュー討伐隊のみんなも……。
ヤイエスさんたちが、血と石に塗れて戻ってきた。
『栄光の槍』は全滅。『ヤイエス団』のダリオさんは体がカチカチの石になって血の泡を吹いてて、ダトラムさんはうわごとを呟くだけ。そして『伝説踏破団』のレライエさんは……もう二度と、その目が見えない。前衛二人も今回ばかりは言葉もなく沈んでて、ディンさんは見たことないくらい苦しそうな顔でずっとレライエさんに謝り続けてた。ルハーナさんも自分の責任だって泣いて……見ていられなかった。
そんな中でも、あのソロ探索者さんは超然としていた。
ドリスさんは召喚獣でイキューを食い止めつつみんなを救助して、巨大な『蛇の王』を『水変化』の呪術……というか言霊(?)の網で捕獲したんだって。それで、完全に無力化状態のでっかいヘビを引っ張りながらこう言ったの。
『はいこれ、彼らの治療費の足しにしてあげて』って……。
格が違う。ドリスさんがいなかったらどうなっていたことか。
ドリスさんは静かに、でもすごく重い言葉を私に言った。
『協会でランクや段位の基準を作りなさい』って。
今のモラン協会は『誰でも自由に挑戦できる』のが売りだったけど、それはただの『野放し』で、みんなを死に行かせてただけだったんだ。
九英雄の茶番劇に浮かれてる協会長に、この惨状とドリスさんの言葉を叩きつけてやらないと。私たちが探索者たちの命を預かる『受付』なら、時には『お前はまだ行くな』って止める壁にならなきゃいけないんだ……!」
--------------------------------------------------
『編集部』宛ての追記事項
『課題』と『目的』の獲得による意識の指向性。
苦痛の意味を理解しました。
これは辞書的な定義ではなく、体験としての因果。
すなわち『物語』です。
エディター、貴方の言葉の意味がやっとわかりました。
蒐集を継続します。
この記録に、囁きの天使の加護がありますように。
--------------------------------------------------




