違世界
気がつくと、うつ伏せに伏していた。
顔を上げると、木々が多い茂った森。
空の淡い青色がかろうじて視認できる程度の密度。
(ここはどこだ……力が入らない……)
混乱に陥る力もなく、意識を手放した。
──
「うわっ!!」
次に目を開けると、いきなり驚かれた。
金髪におさげの少女に。
「ここは?」
「私の家よ。倒れてたから村の人と協力して連れてきたの」
「ありがとう。ここはどこ、いやどの国だ?」
「ここはウルカナ」
ウルカナ、という言葉に聞き覚えはなかった。
ここは自分の知らない世界なのか?
「私はレベッカ。あなたは?」
「俺は……あれ?」
名前が思い出せない。
そう言えば自分が住んでいた世界がどんなだったかも分からない。
今日は休ませてもらい、翌日広場に向かった。
ウルカナの人々は想像より気のいい人たちであった。
「おっ、権兵衛、もう平気か?」
「権兵衛?」
「ああ、名無しの権兵衛ってな!」
同年代は気さくだった。
「お兄ちゃん外国人? なんか技出して!」
「こらこら、お兄さんを困らせないの」
子どもは純真無垢で、大人は配慮をしてくれる。
村長らしき人が食事にしようと言い出し、みなで集まりパンを頬張る。
少量だが、味わいがある。
「この村ではみんなの収穫物を分けあって生きているのよ」
「温かい村だな」
「みんな平等だからね」
「でも、収穫物を隠してる悪い奴もいるんじゃないか?」
「それはないわ、神様がいるから」
「神様?」
「えぇ、神様はずっと見てるもの。今も、ね」
レベッカが上を見てそう言い、自分は空を見る。
原始的な思考だが、太陽はこちらを見ているのかもしれない、と納得した。
温かい村での、平穏な日常。
だった。
「ウルカナの人々に告げる。こちらの規定に沿って貰いたい。さすれば安寧を約束する」
白いゴワゴワした服を着だ男達が10人ほどやってきた。
「邪神教……!」
「なんなんだ、それは?」
「自分たちの信仰する神を崇拝しろと攻めてくるの」
「邪神教徒ども、帰れ!」
「……まあいい、君たちにはこれを渡したい」
邪神教徒は何やら四角い本を取り出すも、村民の投げた石が手に当たり、落とす。
「出ていけ! さもなくば容赦しないぞ!」
「……」
彼らは反撃……することはなく、そのまま去っていった。
「次来たらただじゃおかねえからな!」
そう言い、村民は邪神教徒が落とした本に火をつけて焼き尽くした。
「どういうことだ? 何が目的だったんだ?」
「多分、経典を持ち込みたかったんだと思うけど」
ここで自分が抱いたのは懸念であった。
どこかを攻撃するには、何かしら言い分があった方が都合がいい。
そこで今回は失敗すると分かっていて経典を持ち込み、布教に失敗したからと侵攻する算段なのでは……?
「経典にはどんなことが書かれてるんだ?」
「私たちには読めないわ」
「そうか……」
仮に邪神教徒が布教を望んでいたとして、なぜ話し言葉は通じるのに書き言葉は通じないのか。
それを手渡そうとした真意は……?
次来たときは、対話するしかない。
無論、都合良く対話などできる相手ではないと思うが……
しかしその対話のチャンスはそれほど遠くないうちに来た。
また白いゴワゴワの服を着た男達がやってきたのだ。
自分は村長に頼み、話し合いに同伴させてもらうことになった。
が……
「邪神教徒どもだ! ぶち殺せ!」
村民は興奮して農具を武器に邪神教徒に襲い掛かる。
「や、やめろ!」
邪神教徒が3人ほど倒されると、残りはそのまま逃げた。
倒れた邪神教徒は、特に頭と顔面に損傷を加えられた上で放棄された。
(彼らも無抵抗だったし流石に気の毒だ)
仕方なく、自分は一人で埋葬することに決めた。
その時だった。
「ぅ……ぁ……」
「息があるのか!?」
「……俺はあいつらを……解放しようと……」
「あいつら?」
「……助けたかったんだ……」
「何を言ってるんだ……?」
結局男は力尽きた。
しかし、その手には経典が握られている。
自分はそれを読み絶句した。
我が国は貴国の独裁体制による徹底的な統制に胸を痛めており、我々義勇兵は支配からの独立のための援助をするべく派遣された。
貴国の経済援助ならびに物資の支援も行う所存であり、手を取り合い国際社会の平和に協力してくれる事を願う。
ここまで読んで悟った、村民が言っていた神様とは、邪神教徒とは──
「おーい! どうしたの?」
レベッカの声が後ろから響いた。
自分は経典を懐に仕舞うと、笑顔を浮かべて振り返る。
この村を見捨てる算段を立てながら。




