表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

春、一日目、??? もう一つのこの町と、もう一つの運命との出会い

帰り道、姫華は小さな橋を渡る必要がある。


幼いころから何度も通った、文具店と機械の店の間から夕焼けが見える道。


その日もいつも通り、いや、そんなことすら思わず、何の気無しにそこに足を踏み入れた。


だが。


新しい生活か、新しい環境か、新しい人間関係か。


それとも、もっと昔。


初めから決められていた運命か。


踏み出した、一歩、その一歩を境にして。


世界が、良く見知った筈の町が、【色】を変えた。


【沖牟中】の町が、違う顔を、知らない顔を見せた。



ーーーーーーーーーーおいでませ、もう一つの【沖牟中】へーーーーーーーーーーーーーーー


「……っ!?な、何……!?」


急激に、空気が冷たくなるのを感じた。

以前、天気における寒気という物は固まった大きな空気だ、という話を聞いた事がある。

だが、今感じた冷たい空気は、そんな物では無い。

まるで世界そのものが凍るような、空気感そのものが一気に変わった感覚なのだ。

別に急に雪が降ってきたというわけでも、文字通り世界が凍ったわけでも無いのに、嫌な予感という名の寒気が、全身の鳥肌や悪寒という形で現れる。


「な、何……いったい、何があったの……?」


こういう時にホラーだったら既に危険なのだが、それでもこの悪寒の正体を探らないわけにはいかない。

なので姫華は辺りを見渡してみる。

景色には一見すると、何も変化が無いように見える。

少々この時期にしては夕焼けの日差しが強く、だがオレンジの色はあまり強くない程度だ。

だが、よくよく周りを見てみると、その違和感の正体に気が付いた。

人が、見当たらないのだ。

部活の見学をしていたため、普通の生徒達より遅く学校を出たとはいえ、学校から帰る学生の姿も、退勤する人や通行人はもちろんの事、車は通らないし止まっている車の中には人は見当たらない、近くの食堂にも人の気配は無く、コンビニにも客はおろか店員も見当たらない。

まるで人だけを消した合成写真のような景色に姫華の混乱は増す。


「人は……町の人達は、どこ……?誰か、誰か居ませんか!?」


普段はあまり出さないような大声を姫華は出しながら返事を待つ。

だが、その叫びはアスファルトや草木の中に響くだけで、返ってくる人の返事どころか鳥などの動物の鳴き声や虫の鳴き声すら聞こえない。

何も音が聞こえない、というわけではない。

橋の近くの車の工場の機械は動いている。

耳を澄ませば、路面電車の物らしい汽笛の音も聞こえてくる。

だが、それだけだ。

機械の音以外に音が無い、人々の営む生活の音が聞こえない。


「皆、何処へ行ったの……?」


あまりにも謎の出来事に、つい脚から力が抜けてその場にへたり込みそうになってしまう身体を姫華は橋に凭れ掛からせる。

だが、その時。

姫華は、ある物を「見て」、しまった。


「違う……私が、何処かに、来ちゃったの……?」


見下ろして見てしまった景色。

見上げて広がる空。

そして、その[異変]は、確かに、見えてしまった。


橋の下。

川面に映るのは夕焼け空と夕日だ。

その景色は、まるで川面に映る景色が空の姿かのように。


だが。


見上げた空には、夕日などとっくに沈んでいた。


星の光一つすら無い、真っ黒な夜空が[在った]のであった。


これが、神隠しという物なのだろうか。

そう思わざるを得ない、夕方と真夜中が混ざったかのような光景が見えていた。

(私、帰れるのかな……)

姫華の心を、黒い感情が、恐怖や不安という物が満たしていく。

(いっそ、これが絵の中の風景だったら、綺麗なんて想ったりするのかな……)

そう力無く笑ってしまうくらいに。


更に。


「……ん?」


ころころと、何かが転がってくるような音が聞こえた。

その音が鳴る方に顔を向ける姫華。

……どうやら、悪い事という物は重なるものらしい。

その音の正体は……。


「へ、蛇……!?」



そこまで大きくはない、だが、大量の黒い影のような蛇が転がってきたのだ。

奇妙、だが同時に本能的に恐ろしい光景に恐怖を覚えた姫華は、蛇達が転がってきた方向と反対方向に、脚に力を入れて走って逃げた。

蛇達が転がってくる速度は速い。

姫華は運動が得意な方ではないとはいえ、必死で走っている筈なのにその距離は少しずつ縮まっていく。

(逃げなきゃ、逃げなきゃ!なんだか分からないけど、あれに捕まったら絶対に助からないのは分かる、絶対やばい!)

確信とも言える予感が脳内を駆け巡り、全力で逃げる。

髪の乱れも、制服の乱れも、今は気にする事は出来ない。

後ろを軽く振り向く。

蛇達は明らかに獲物を狙うかのように姫華を追いながら、赤く輝く瞳と白い牙を輝かせて「シャーッ!!」と威嚇するような鳴き声を出していた。


「やばい、やばい、やばいやばいやばい……!!!」


逃げ続ける姫華。

(さっき路面電車の汽笛の方向的にこっち、こっちに逃げればバスか路面電車がある筈……!お願い、どっちでもいいから有って……!)

心の中でそう縋るように祈りながら逃げる。

やがて……見えてきた。

路面電車の姿が。

(あった……!助かるはず……!)

そう安心してしまったせいか。

好事魔多し。


「痛ッ……!」


足が縺れて転んでしまった。

(あ……駄目、だ……もう、間に合わない)

もう蛇達の姿はすぐ近く。

姫華の心を諦めと絶望と、死への恐怖が満たしていく。

追いついてきた蛇達は、姫華を囲むように近づくと、赤い目を輝かせて飛び掛かってきた。


「い、いや……来ないで…っ!!」


目を瞑り、恐怖で涙を流しながら身を屈める。


今日から新しい学校で、新しい友達も出来て、新しい生活が始まる所だったのに。

何故、こんな理不尽な理由で死ななければならないのかと、想いながら。


その時だった。


ダアアアアアアアァァァァァァァンンンッッ!!!


「シャーッ!?」


「……へ?」


大きな音と、痛みが襲ってこない事に疑問に思って姫華は瞑っていた目を開ける。


すると、そこには……


「全く。何でここに一般人のはずの君が居るんだか。これも姉さんが言っていた予感の理由かもしれないのかな……まあ、僕が間に合って良かったけどね。」

「何で……?」


今日、何度も目にした、美しい人が、そこに居た。


先程別れた時には無かった刀を持ち、黒い振袖を翻して。


そしてこちらを見る表情は、妖しくて、でも優しくて、ぞっとする程に美しくて。


「大丈夫かい?僕の大事な、可愛いお嬢さん。」


「み、御木千代くん!?」


それは、この町を巡る物語。

この町の物語を動かす歯車に、新たな、大きな歯車が追加された瞬間だった。

今年二回目の風邪を引きました。熱で二日間寝込んだりして今も咳や鼻水が酷いです。今年の風邪は本当に厄介ですね…。皆様もお身体にはお気をつけください。自分も身体に気をつけながら執筆を進めていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ