春、運命の予感と夕暮れの一日目
「そういえば玉姫……お姉ちゃんっ。」
「まあっ。はいはい、何かしら?」
「あ、えっと……沖務中研究同好会って、何をする所なんですか?」
姫華の言葉に嬉しそうに反応する玉姫。
そんな玉姫の反応に少し照れながらも先程から気になっていた事を質問する姫華。
その時、姫華は気づいていなかった。
御木千代と光、特に光が反応していた事を。
それとは逆に玉姫は特に反応することは無く、微笑みを崩さないままに答える。
「ああ、ちょっと分かりにくい名前よね~。でも、名前の通りよ。ここ、沖務中研究同好会は、この沖務中市の文化や歴史、暮らしを研究している同好会よ~。この沖務中市って町は独自の文化が色々あるんだから~。」
「な……なるほど……。」
「まあ、最近は私の趣味と実益を兼ねて、民間伝承やオカルトばかり研究しているのだけどね~。」
「そ、そうなんですか……?」
玉姫のようなおっとりふわふわした綺麗な女性がオカルト。
姫華の中ではあまり結びつかない二つの要素に姫華は首を傾げる。
「……あまり、興味が無かったかしらぁ?」
「ああ、いえっ。なんか、意外だったのと、私ってあまりそういう話ってわからないですから、何て言えばいいのか分からなくって……。」
「ふふ、まあそれは確かにそうね~、私の周りはちょっと環境が特殊だから話をする機会も多いのだけれど、普通はそういう物に興味がある人は少ない物よねぇ。」
「環境が特殊……?そういえば、さっき実益も兼ねて、って言ってましたけど、それって一体……。」
「あら、ごめんなさいね~、そこはちょっとひ・み・つ、なのよ~。」
「秘密……秘密ですか……。」
女性は秘密が多いミステリアスな女性な方が魅力的、などとという言葉があるが、玉姫の場合も当てはまるような気がした姫華であった。
「気になりますけど、秘密なら仕方ないですね。」
「姫華ちゃんは素直な良い子ね~、お姉さんはそういう所、良いと思うわよ~。」
「ありがとうございますっ。でも、機会があったら教えてくださいね、玉姫お姉ちゃん。」
「……ええ、そうね、機会があれば、ね。」
「玉姉さん。」
ふと声がした方を姫華が見ると、御木千代がどこか真剣な顔をしていた。
何故そのような顔をするのかわからない姫華。
ちらりと光の方も見てみると光もどこか緊張しているような顔をしていた。
それに対して玉姫の方は相変わらず微笑んだままだ。
でも……何故だろうか。
姫華は今、この空間で不思議な緊張感と空気感、そして距離感を感じた気がした。
その空気がどこか居心地が悪い気がして、少しの間の後、姫華は慌てて頭を下げる。
「すいません、玉姫お姉ちゃんっ、別の部活も見に行きたいので、そろそろ行きますねっ。」
「あらあら、そうなの?長く時間を取ってごめんなさいね~、ならまた会った時は、今度からは敬語は無しでいいからね~。」
「わ、わかりました、ありがとうございます……じゃなくて、あ、ありがとうっ。」
「ふふ、やっぱり良い子ね~。御木千代くんと光ちゃんも行くのかしら~?」
「ああ、僕達はここに入るって決めてるし、今回は姫華に付き合ってもらって挨拶にきただけだからね。」
「私達は話そうと思えばすぐに話せますからね……では、玉姉様、また。」
「ええ、またいらっしゃい、姫華ちゃんも来てくれたら、お茶やお菓子くらいは用意するわ~。」
「はいっ、ではまた。」
深くお辞儀する姫華、そしてその後去っていく三人に手を振って見送る玉姫。
小さくなっていくその背中を見ながら……玉姫は小さく呟いた。
誰にもその呟きは聞こえない声で。
その表情は先程は見せなかった、どこか困ったような表情で。
「櫻井姫華ちゃん……う~ん、気のせいかしら……なんだか、今後私達と深い縁を結ぶかもしれない、ここに戻ってくるかもしれない……そんな気がするけれど、私の考えすぎかしらね~。」
その後、三人は校内の様々な文化系、運動系部活動の見学をし、気づけばもう時間は日もだいぶ傾いた時間であった。
見学ついでに体験させてくれる部活もあったりと、色々な事があった。
運動系の部活動ではその見た目に反して御木千代はかなり運動のセンスがあるらしく、部活によってはスカウトされる事もあった。
また御木千代は茶道や華道、書道や手芸や演劇などに興味を示していたが、どうやら本人曰く、「その部活自体も面白そうだけど、その部活の衣装とかを着て活動をする僕はきっと美しいだろうなぁ。」と言っていたのでどうやら衣装や自分の魅せ方に興味があったらしい。
光あh運動系にはあまり興味は示していなかったが、漫画研究会やゲーム研究会、文芸部には目を輝かせており、「は、入りたい、入って色々語り合いたい……!ああ、でも私は玉姉様の所に入らなければー……っ!」と小さく独りごとを言いながら悶えていた。
そして……肝心の姫華だが、いまいちどの部活に入るか、決め手に欠けていた。
運動が特別好きというわけではないので運動系をしたいわけではない。
マネージャー……という手も考えたが、特別好きなスポーツがあるわけでもない。
文化系は楽そうだなとも考えたが、もちろん姫華も漫画なども読むがそれを語り合える程好きかと言うとそうでもないし、じゃあ他の部活はやりたい物があるかと聞かれれば「うーん……。」という感じであった。
結局、御木千代と光は「玉姉さん(玉姉様)の所に入る」らしい。
深く考えたわけでも無いが、せっかく高校で出来た友達だ。
「自分も同じ所に入って過ごせば、楽しく過ごせるのかな……。」と、ぼんやりと頭の中で考える姫華。
まだまだ将来だとか自分の好きなものだとかを決めきれない、思春期らしい悩みをぼんやりと抱えるのであった。
「それじゃあ、また明日ね、二人とも。」
「またね、姫華、光。」
「ま、また明日ですっ、お気をつけてっ。」
乗る路面電車も同じだった三人は、路面電車の中で他愛もない会話をした後路面電車から降りると、また明日、の挨拶を交わしてそれぞれの帰路に着いた。
(二人とも同じ電車で良かったなぁ……明日からの登下校の楽しみも増えるね。)
と、すこしウキウキしながら朝は電車に遅刻ギリギリで走った通学路を歩いて帰り、明日はゆっくり登校するようにしないと、と気持ちを入れる姫華であった。
体調がある程度落ち着いて、仕事もある程度落ち着いたのでようやく執筆活動のペースも元の活動ペースに戻せる兆しが見えてきました。予定よりかなりペースが遅れているのでどっちの作品もガンガン投稿していけたらいいなと思います。