春、始業式。運命の出会いは朝陽に輝く黒髪
そんなことをしていると、そろそろ先生が入ってきてもおかしくないであろう時間になり、生徒たちも少しずつ席に着いて視線が、注意が教室の扉の方に向いてきた、その頃合いだった。
ガラっ、とまた一人、教室に人が入ってきた。
その時、教室に居る生徒たち、男女問わずに小さく「おお……。」「わぁ……。」と小さく声が上がった。
姫華と光もそちらの方向を見ると、
「あ、あの人……。」
「あれは……。」
と、思わず声が出た。
そう。
姫華が朝、電車に乗る時に見つけた。
あの長い黒髪の、明治時代から出てきた女学生のような美人、まさしくあの人であった。
黒髪の麗人は、周りからの小さな歓声も気にせず、むしろそれが当たり前とばかりに、電車で見かけた軽く眠たげな、伏し目がちな表情のまま口元には少し笑みを浮かべながら歩いて、真っすぐに姫華の左斜め前、窓際の席に座った。
座るときも、スーッとほとんど椅子の音も立てずに、ゆっくりと静かに座るその所作に姫華は、(日本舞踊とかってこんな感じなのかな)と思うのであった。
黒い艶やかな長髪は、朝陽に照らされて輝き、春風が戯れるように吹けばさらさらとその髪を靡かせる。
そこに居るだけで絵になる、所作の一つ一つだけで映える。
そんな美しさがそこには在った。
そう思わず姫華が見惚れていると、また扉がガラリと開き、
「皆さんお待たせしました、今から入学式に向かいます。」
と、恐らくこれから担任になるのであろう女性の先生が入ってきた。
「あ、行こう、光ちゃん。」
姫華は光の方を向いて光を呼ぶ。
が……
「……光ちゃん?」
「…………はっ、す、すいませんさく……姫華さん、ど、どうかしましたか?」
姫華の声にようやく気が付いたらしい光はすっかり先程と同じように、少し慌てながら返事をする。
「もうすぐ入学式が始まるみたいだから、体育館、一緒に行こ?」
「あ、も、もうそんな時間だったんですね……はいっ、行きましょう、さ……姫華さんっ。」
そう言いながら二人は椅子から立ち上がって、体育館に向かうのであった。
姫華は気づいていなかった。
光の視線はずっと黒髪の麗人の方に向けられていた事を。
そして、その黒髪の麗人もまた、光と姫華の方を見ていた事を。
そして知らなかった。
それが何を意味するかを。
これから巻き込まれる、この沖牟中市の町に潜む影との関わりの始まりであった事を。
「おや……なるほどね。でも、これはもしかして……まあ、いいかな。」
そう、誰にも聞かれる事の無い声で、黒髪の麗人は呟いて、自分も体育館に向かうのであった。
私の小説は、全ての小説に繋がりがあるとか世界観的な繋がりがあるとは言いませんが、共通している要素や共通している単語、システムだったりは存在はします。これからそこらへんの説明などをする機会もあるあるかもしれませんが、少なくとも今連載している2作品も共通のシステムが存在します。そこらへんが何なのか、といったところも含めて楽しんでいただけたらとても嬉しいです。ちなみに作品やキャラクターによって自分的なイメージカラーやイメージソングが有りますが、自分的にこの作品のイメージソングは某深夜24時の先の時間で戦うゲームの曲ですね、あそこまで重い作品ではありませんが。