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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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春、新たな姫と当代最強の里守

カァン!

木刀と木の鎌型の棒がぶつかりあう音が守神の武道場に響く。


「……よし、そろそろ終わりにしましょう、旭さん、日出さん。」

「えーもうおしまい!?もっとやりたいよー、光お姉さんの方が勝ってるから勝ち逃げだしぃ!」

「旭……もう、結構稽古してるから、そろそろ帰らないと、怒られる……。」

「ぶぅ~!日出はどっちの味方なの~!」


構えを解いて言う光に、旭は不満げにジタバタするも日出はよしよし、とたしなめる。

確か一応旭の方がお姉さんらしいが、日出の方がまるでお姉さんに感じる様子だ。

旭の言う通り、光の攻撃の方が宮部従姉妹に当たっていた。

流石に当代最強と言われる御木千代程ではないが、それでも鎌使いとしては最強の光の実力は確かだ。

姫華は見ていて目を輝かせていた。


「光ちゃん、凄いんだね……光ちゃん、学園の雰囲気と全然違って……なんというか、凄かった。」

「そう、ですか……?まあ、これでもこの恰好している時は気合が入ると言いますか、頑張らなきゃ……という感じというか……。」

「なんというか……凄く綺麗だったよ。くるくる回して斬ったり光ちゃん自体がくるくる回って、それで衣装がひらひら舞って。それが凄く綺麗だなあって思った。」

「あ……あ、ありがとう、ございます……。そう正面から褒められると、照れますね……。」

「姫華お姉さん!私たち!私たちは!?」


光をそう褒めていると、旭の方が姫華に飛びついてきた。

宮部従姉妹は従姉妹だが性格は似ていない。

旭は元気で活発な、見た目も相まって可愛らしい子どもっぽい感じだ。

それに対して、日出は物静かで話し方も雰囲気も落ち着いており、可愛らしさの中にもクールな大人びた所がある。


「旭ちゃんたち?旭ちゃんは、可愛いなあって感じかなぁ。日出ちゃんは、可愛いと綺麗が合わさってる感じかな。」

「むぅ~、私だって綺麗だもん!可愛いだけじゃなくって強くて御木千代お兄さんに負けないくらい綺麗だもん!」

「旭、怒らない……姫華さん、ありがとうございます。……姫華さんも、可愛いと思います……。」

「え、そう、かな……?私は目立たない普通の人だと思うけど……お世辞でも、そう言ってもらえたら嬉しいな。」

「お世辞じゃ、ないんですけど……。」

「……僕はかっこいいで、光は綺麗、日出は可愛くて綺麗で、旭は可愛い、か……。」

「……御木千代くん?」

「ああいや、気にしないでくれ。」


姫華達のやり取りを見ながら、なにやら興味深げに御木千代は呟いた。

姫華には、その呟きの意味は分からなかった。

だが、どこか御木千代が嬉しそう、とは感じたのであった。


「さて、光の言う通り、そろそろ帰るとしようか。多分色々あったから、姫華は特に疲れているだろうからね。」

「そう、だね……皆と話して楽しかったし、姫としてのやる気はちゃんとあるけど……痛い思いもしたし、流石に色々頭も身体も疲れたかも。」

「むぅ~、まあ姫華お姉さんが疲れたなら仕方ないか~……御木千代お兄さん!光お姉さん!また手合わせしようねっ!」

「もちろん!僕達が沢山稽古をつけるからどんどん強くなるんだよ!」

「私も、もっと強くなりたいから……お互い頑張ろうね、旭ちゃん、日出ちゃんっ。」

「お姉さんもたまには身体動かしたいなあ……御木千代くん、光ちゃん、旭ちゃん、日出ちゃん、お姉さんともたまに手合わせしてくれるかな?」

「玉姉さんが?珍しいね。」

「玉姉様のお力になれるなら……是非。」

「私もいいよ~、でも玉姫お姉さんじゃ私に一本取れるかな~?なんてね~っ!」

「玉姫お姉さまの稽古も、旭の手伝いも……私が、頑張ります……。」


話しながら守神の武道場での片付けと掃除をして、全員で武道場を後にした。


「じゃ、またね~!」

「では、また……。」

「私も、失礼します……っ。」

「皆気をつけて帰りましょ~。」


次々と、三ツ池の池の中に入って帰っていく。

姫華も入ろうとした時であった。


「姫華、ちょっといいかな?」

「……?どうかした?」


御木千代に姫華は呼び止められる。

御木千代は、どこか言いにくそうに、でも意を決すると、頭を下げた。」


「君が巻き込まれた事は偶然だと分かってはいる。それでも、事実として君に痛い思いを、怖い思いをさせた事、里守の一人として、そして友達として、本当にすまないと思っている、本当にごめん。……そして、それでも姫としての大任を背負うと決めてくれたこと、そして僕達と共に戦ってくれると決意してくれた事、本当に感謝している。」

「わ……その、なんていうか……私も多分里守だとか姫の事まだちゃんとよくわかっていないと思うし、これから多分沢山迷惑かけたり教えてもらうこともあると思うけど……。……でも。」


姫華は少し考えながら……言葉を、大切に、考えるようにしながら。

そうしながら、手をすっ、と差し出した。


「でも、私が……この町で何となく過ごしていて、それなりに過ごしていた、平凡で普通の私が、私の住んでいるこの町の為に、そして、こうやって出会って、不思議な縁で繋がった私の友達の為に出来る事があるんだったら……頑張りたいな、って思ったんだ。」


姫華は微笑む。

自分の事を普通で平凡という、確かに美少女ではあるが目立たない少女。

でも、今はその表情は、優しく、穏やかな笑みを浮かべていて……。

差し出された手と、その顔を見た御木千代は、自分自身にも負けないくらいに、美しい。

そう、思った。

差し出された手を取り、御木千代はつい笑ってしまう。


「まったく……僕達はまだ出会ったばかりなのに、その覚悟はどこから出てくるのさ。……なら、君の力、有難く借りる事にするよ。」

「うんっ。」

「……それと……一つ、お願いしてもいいかな?」

「うん……?何かな?」


御木千代は珍しく……普段の自信満々の態度からは想像もつかない、少し恥ずかしいような照れたような、頬を赤く染めて言う。


「さっきも言った通り、僕達はまだ出会ったばかりだ。だから……これから、もっとお互いの事を知っていきたいんだ。……いいかな?」

「……?うん、喜んで。むしろ、私もみんなの事知りたいしっ。」

「……!はは、楽しみだねっ。」


二人はぎゅ、と握手した。

離界の夕日に照らされる二人の姿。

その輝きの中で、二人は笑って向き合っていた。

この離界の夕日の中で一日の終わりを迎えようとしている中で。

当代の新たな姫と、最強の里守二人で、新たな物語が始まる。

久しぶりの更新になってしまって申し訳ないです……。なんか綺麗に今回で話が締まってしまったので、この回で春編を終わりにするか、それとも当初の予定通りに春編をもう少し書くか悩みます。

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