春、守神の武道場。里守の剣術と僕のかっこよさ
櫻井姫華は、一般人だ。
里守の姫となった今となっては元一般人かもしれないが、それでも感覚としては一般人だろう。
化粧やオシャレは好きだけど、それでも学校のファッションリーダーだったり実はモデルをやっていたりはしないし、イケイケギャルの陽キャというわけでもない。
運動神経が悪いわけではないし、勉強もまあそこそこ平均点より少し良い、くらいで、例えば運動に青春を費やすスポーツ系女子という事も無ければ、文化部で情熱を燃やす文化系女子ということも無いし、芸術に人生を賭けるような芸術系女子でもない、ただの帰宅部の女の子だ。
漫画やアニメ、ゲームもするがグッズを買い漁るようなオタクというわけでもないし、アイドルや役者を見て可愛いとかかっこいいと思う事はあれど追っかけをしたりするようなドルオタでも無い、推し活みたいなのもあまりしていない筈だ。
休日はインドア気味で動画やテレビを見てゴロゴロしたりする事が主だが、友達と遊びに行ったりする事もあるし、友達と長電話したりする事もある。
習い事とかもやっていないし、好きな事はあるけど特別趣味、と言えるような事もあるか曖昧な生活を、人生をしていた少女だ。
だから、当然ながら、剣道だったり居合道のような剣術、ましてや剣術流派のような事も全く知らない。
だから、今目の前で起きてる事がどれくらい凄い事なのかは分からない。
でも……自分は今、凄い物を見ている、という事だけは、何となくだが理解出来た。
カン、カン……カァン!
カン!、カキッ……ギギ、カァン!
木刀同士のぶつかり合う音が、武道場内に響いている。
「はああっ!」
「っと!」
「そこです……!」
「っ、ぶな……!」
宮部従姉妹は二人で、二刀の構えで相対する御木千代と斬り結ぶ。
前後、左右、上下に分かれて、時に同時に、時に一拍片方がリズムを遅らせて、時に片方が剣で押さえつけてもう片方が斬りかかる。
剣道では基本的に足を狙わない、というのは姫華も知っていたが、この稽古は平気で足元を狙う。
宮部従姉妹の片方が斬りかかって押さえつけている間にもう片方が足元を狙って斬りかかるような、まさに数の利を活かした剣術をしてくる。
それを打ち払ったり、咄嗟に後ろに跳びながら避ける御木千代。
だが、それだけではない。
上下の三次元的な攻撃は、なにも地上からだけではない、
宮部従姉妹の片方が斬りかかると、それを身体強化で飛び越えて後ろから飛び越えて斬りかかったり、片方が斬って身体が傾いた姿勢になった所をまるでパルクールのようにもう片方がくるりと背中の上を転がってその勢いのまま攻撃に転じたり。
そもそも、攻撃は斬撃だけではない。
普通に足で蹴って、手元の軌道を変えたり、鍔迫り合いのまま押し込んだり。
地上だけでも更にそんなに激しいのに、更にここは離界の武道場だ。
普通に壁を蹴って飛び込んだり、壁を走ったり、三角跳びで天井から弾くように飛び掛かったりする。
アクション映画顔負けと言っても過言ではないであろう。
こんな剣戟は、姫華は映画でも見たことが無かった。
宮部従姉妹も旭は楽し気に、日出は冷静そうに、でも二人とも真剣な表情で打ち込む。
さっきまでの可愛らしい年下の可愛らしい少女の顔ではない。
まるで激しい舞のように美しく剣を振るう、里守の姿がそこにあった。
だが、御木千代も負けていない。
御木千代は先程の離界では一刀の剣術であったが、今回は二刀で戦っている。
宮部従姉妹が天才剣士と呼ばれるのは誰が見ても納得であろう。
だが、それでも当代最強と呼ばれる里守は御木千代なのだ。
身体強化のお陰か、打刀くらいの長さの木刀を軽々と振り回す。
こちらもまるで舞うように剣を振るう。
木刀のぶつかり合う反動を利用してくるりと手元で木刀を回しながら、もう片方から来る攻撃をいなしたりする。
くるりと身体ごと回転する事でその勢いを利用して威力も上げて振るって弾き飛ばしたり、片方の剣で攻撃をずらした後にもう片方の木刀で首元に刃先を向けたり。
これだけ宮部従姉妹が激しく攻めているにも関わらず、どちらかと言うと押しているのは御木千代の方だ。だが、一本、また一本と、長い斬り結びの後に少しずつ、そしてだが、着実に、真剣であったら命を奪うであろう寸止めをする。
才能だけではまだ超えられない、確かな実力と才能によって紡がれた剣術は、やがて宮部従姉妹を追い詰めた。
やがて、満足したのか、宮部従姉妹はパタン、と一本取られて、逆に御木千代は一本も取らせずに
稽古は終わった。
光が、
「そこまでですっ……!」
と言って、宮部従姉妹はようやく負けた事に関しても納得したらしく、二人とも首や胸に木刀の剣先を突きつけられた状態から座り込んだ。
「ふぅーっ。疲れたぁ。」
「結局一本も取れませんでしたね、旭……。」
「ふふ、僕は当代最強だからね、簡単に負けるわけにはいかないのさ!」
自慢げな御木千代。
そんな中姫華は、凄さの余りに軽く固まっていた。
まあ無理もない。
今までと全く違う世界で戦う里守の、その中でもトップクラスの強さの剣士同士の戦いを見たのだ。
魅了されるのも仕方がないであろう。
やがて、ようやく、まるで夢のような剣のぶつかり合いから覚めて現実に意識を戻すと、御木千代の元に姫華は向かう。
「お疲れ様、御木千代君。」
「ああ、ありがとう、姫華。……どうだったかな、僕の剣は。」
「うん、凄く、綺麗で、凄く、かっこよかったよ。」
「ふふ、だろう?かっこよくて美しい所を見せられて、良かったよ。」
「ふふっ。」
「あははっ。」
御木千代の姿は、確かに美しかった。
ひらひらと靡く美しい髪。
真剣な表情で剣撃を見る目。
衣服をひらひらとはためかせながら剣舞を舞う姿は、確かに美しいだろう。
事実、姫華も美しいとも思った。
だが同時に、女性的な細いしなやかな身体に、確かについている筋肉が動く姿。
真剣な、鋭い目、その表情。
だが何より、その強さ。
天才剣士を二刀流で斬って舞う姿をかっこいいと思ったのだ。
だから、姫華は改めて思った。
御木千代という青年は美しくて格好良いと。
そんな真剣な表情を近くで見れて、格好良い姿を見れて良かったなと思う姫華はであった。
もっと格好良い戦闘描写を書けるようになりたいなと思う内容になりました……悔しい。




