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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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13/26

春、離界。美しい僕の、格好良い所。

話をして姫華が情報を集めていると、段々と窓の景色に見えてくる物があった。

それは大きな大きな木だ。

だがそれはただの木ではない。

大きいという言葉で比喩するのが足りないくらいである。

この離界の沖牟中にも山やそこに生える木から作られた森等が存在するのは見えてはいたのだが、これはたった一つの巨木が下手な森より巨大な樹海を生み出している。

神話等に出てくる世界樹、と呼ばれるような樹が存在するとしたら恐らくこんな存在なのではないのか、と思ってしまう程だ。

それを姫華は見ていて、思った事がある。

恐らくという推測つきだが、きっとこの樹は本当のかつて現実のこの沖牟中に存在した巨木……御木では無いのだろう。

別に姫華は物理学に詳しいわけでも無いのだが、それでもファンタジーなドラゴンがもし存在したら、自重に耐えきれず飛ぶ事は出来ない、なんて話くらいは聞いた事がある。

こんな、この樹一つで樹海を形成するような巨木が存在するのであれば、きっと『無かったこと』になんて出来ないのだろう。

必ず切り株なり根の一部なり、何かしらの痕跡が今の時代に残っている筈なのだ。

それがまるでこの世界から消しゴムで消し去って、無かったことにしたようにこの巨木の痕跡が無くなる、という可能性は、何か理由があって徹底的にその存在を消し去ろうとしない限りは不可能であろうという推測は、姫華でも何となく立てる事が出来た。

では、今視界に入るこの巨木は、一体何なのか。

もし先程の説明から推測を立てるのであれば、恐らくこれは「信仰の結果」なのであろう。

沖牟中の神様の加護、魔石炭の魔力、そしてかつての御木による巨木信仰。

そういった実際の概念的な力と、人々の信仰といった空想的な思念。

それがこの離界においてこの樹をここまで育てた、という事ではないだろうか。

この離界の下地であるこの巨木、御木の根はこの裏の沖牟中の土地の全てに張り巡らされているのであろう。

そう感じさせるくらいに、その存在は雄大だったのだ。

まあ、姫華には神様の加護も魔石炭の魔力もかつての巨木信仰も、明確な実感をしたわけでは無いので相変わらず推測でしかないのだが。


「ガアアアアアアアアアアアッ!!」

「!?な、何!?」

「おっと、今回やるべきはあれか。」


機関車の窓を割るのではないかとばかりの窓の振動と大きな音に姫華は驚いた。

対照的に御木千代は冷静だ。

そしてその音が聞こえてきたのを合図としてか、それとも御木に近づいたからか、窓の外は急激な変化が起きた。

ざあああああっ、と、急に大雨が降ってきたのだ。

風もびゅうびゅうと音が鳴るくらいに強くなる。

台風の暴風域にでも入ったかのような様子に、慌てて姫華は窓の外を見た。

その視界は不思議な物だった。

狐の嫁入り、というものでも恐らくは無いであろう、空は雲一つない暗い空なのに雨は土砂降りで降ってくる、不思議な天気雨のような空だった。

そして、それは居た。

いや、むしろ「在った」、とでも言うべきかもしれない。

その存在はそれくらい禍々しくも神々しさもあった。


それはやはり、蛇であった。

だが、蛇というよりも最早「龍」と言った方が正しい気がするくらいに、姫華の知る蛇の姿とはまるで違う姿であった。

鋭く巨大な牙が口から出ている。

息をする度に火が口から噴き出ている。

鱗の一つ一つが雨に濡れて、不思議な夕日色の光に照らされて、緑とオレンジが混じり玉虫のように、美しく感じる程に輝いていた。

そして、普通は蛇に存在する筈が無い部位が存在した。

この蛇にとって蛇足という言葉は正しい表現になってしまうだろう。

前にも後ろにも足らしき部位があるのだ。

更には大きな耳まで存在そるのだ。

そしてそんな巨体に見合う巨大な目は、真っすぐに御木を見つめている。

その光彩は燃える炎のように赤く輝いている。

そんな存在が、くねくねとまるで空を泳ぐように飛んでいたのだ。

あまりにも、それはあまりにも非現実的、非日常的。


「あれを……あれが、大蛇の邪気なの?あれを倒すのが里守なの……!?」

「ああ、そうだよ。」

「む、無理だよ……!!あんな化け物みたいな、大きさだけじゃなくて、飛んでて火まで噴いて……!どう見ても、人間に対応出来るような物じゃ……!」

「大丈夫だよ、あれくらい、僕達は何度も斬って祓ってきた。」

「あれを、何度も……?それって、本当なの……?」

「ああ、それに……。」


会話をしている内に、姫華はある事に気づいた。

段々機関車の速度が落ちているのだ。

この大雨で機関車の火が消えてきているのか?と考えたが、御木千代の反応を見る辺りそれは違うと何となく思った。

刀を納刀したまま柄に触れて集中するように目を瞑っている。

その姿を見て、御木千代の言葉は本気だという事が分かったのだ。

姫華は、大蛇の姿と御木千代の姿を交互に見る。


もし、あの大蛇が御木に突っ込めば。御木は間違いなく大きな損害を受けるだろう。

噛みつけばいくら巨木と言えどあの牙なら一発で嚙み千切るであろう。

あの口から出る火が、いや炎が御木に当たればこの大雨であろうと御木にその炎は纏わりつき、そして焼き尽くすであろう。

もしそうなればどうなるか。

御木千代の話が本当ならば御木はこの離界という世界を形成する下地そのものだ。

それが無くなれば、表の、現実の沖牟中に被害が出るのは間違いないであろう。

魔石炭といった沖牟中の土地や物が無くなってしまうかもしれない。

いや、もしかしたらこの離界という世界を形成しているのだから、離界そのものが消失してしまうかもしれない。

そうすれば、もし今この離界に居る自分たちはどうなってしまうのだろうか?

もしかしたら、離界の消滅と共に、自分たちの命も、存在も。

離界と共に消えてしまうのではないか。

そんな嫌な想像が姫華の中で駆け巡る。

だが、それに対して御木千代の様子は冷静だ。

いや、冷静、というのは少々語弊があるのかもしれない。

脚がそわそわと動いている。

それは恐怖で落ち着かないという風には見えない、むしろ逆だ。

口元には小さく笑みが浮かび、何処かこの状況を楽しんでいるようにも見える。

もし、御木千代が里守とやらの恰好で、刀を持っていなければ、頭がおかしくなってしまったのか、と思ってしまうだろう。

だが、もし本当なら。

そう思わせる雰囲気が、何故か御木千代には有って。

段々と姫華の心は、少しずつ嵐のような混乱からさざ波のように落ち着いてきたのであった。


やがて、終点に着いたのか、機関車は止まって、客車の扉が開く。


御木千代は扉の方に姫華よりも先に歩いて行った。


まるで、姫華を護るとばかりに。


扉を出る前に、姫華の方を振り向きながら御木千代は言った。


「まあ、だって僕は当代最強の里守だから。だから……。」


「だから、観ていて。僕の、格好良い所。」

プロットで作ったものとだいぶ内容が変わってきたので、段々プロットが役に立たなくなってきていますが、私が敢えてそういう風に作ってきたので仕方ないですね。さて、この「沖牟中奇譚」も一つのクライマックスが近づいてきて、「転生悪役令嬢はヒロインの影になりたい」もクライマックスなのでこの高いテンションのまま維持して書ききって行きたいな、と思います。頑張りますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。

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