イヤリング
清華の意向を受けてアクセサリーを売ってるお店に来た。
「あのさ、こういうのって耳に穴開けなきゃなの?」
恐る恐るの態で清華が尋ねる。怖いんだ、ピアス。言って私も怖いんだけど、清華がピアスを怖がってるのがなんかチグハグな印象。というより清華が何かを怖がってるの初めて見たかも。
「ピアスはね。でもクリップとか磁石とかで挟むやつもあるよ」
私も持ってるのは挟むタイプのイヤリングだけ。体に穴開けるの怖いし、そういうのは私の価値観に合わない。
「ふぅん」
安心した、と胸を撫で下ろした清華。一々可愛いなぁ。一つ一つ真剣に見て回る清華。こうして見ているとすごい年相応の女の子らしい。
今日は清華の新しい一面を見てばかりいる。ラーメン屋にワンピースを買った時に今。もう初めて喫茶店で会った時のようなぶっきらぼうというか、無表情な少女ではない。
それが嬉しくてたまらない。
「ねぇこれは?」
ちょっとふざけて拳銃のイヤリングを提案してみた。清華ってたまにすごい怖いし案外こういうの合うんじゃない?
ほうと頷いた清華。お?案外好反応。
「45口径は好きじゃないんだよ」
「……は?」
45口径?何?その拳銃の名前なり愛称?
「弾がデカいから必然的にグリップもデカくなって握りづらいし装弾数も減るからね」
「は、はあ……。何?清華ってオタク?」
「違うよ」
いやでも詳しそうじゃん……。ていうか否定してるくせにやけにつぶさに観察してるじゃん……。
「何か……、気になることでも?」
「うん、これね以外と細かいよ!」
「はあ……」
心底からどうでも良いんだけど清華にはどうも通じてないっぽい。どうでもいいし、わけのわからないことを延々語る。ごめん、そういうこと聞いたんじゃないんだ。
いわく、マガジンの差し込み口にマグウェルが取り付けられていてリロードしやすくなっている。フロント、リアサイト(照準器)が明らかに高い。これはサプレッサーの取り付けを前提としたものだが、銃口の先端が突き出ていない。よって銃身にサプレッサーを装着するためのネジを切ってあるのだろう。
……私は閉口した。聞かれてもいないことを滔々と語る。これはもう立派なオタク、ギークの特徴である。んで初めて清華に呆れた。マジで迂闊に勧めなきゃよかった。
「やっぱりオタクじゃん……」
「違うよ」
「じゃあなんなのよ」
清華は少し考えた。
「経験者、かな?」
経験者?
「銃の?」
うんて頷く清華。……マジ?いやなんで?日本て民間人銃持てるの?
「中学の時ね、アメリカにいたんだよ。だから銃の扱いは一通りできるよ」
「ああ……」
まあ、理由はわかった。アメリカなら銃持てるもんね。なんかアメリカ物騒そうだし。
「んじゃあイヤリング、それにしたら?」
そんなに銃に慣れ親しんだならそれでいいんじゃない?
清華はそっとそのイヤリングを戻した。あんなに熱心に見てたのにお気に召さなかったんだ。
清華はもう別のデザインのやつに心を移してた。あ、これかわいい、なんて相好を崩す。
私は1つのイヤリングに目を留めた。
「じゃあ、これは?」
差し出したのは宝石をかたどったイヤリング。
「へぇ、綺麗だね」
「うん、似合うと思うよ」
試しに着けてみなよ、って促した。
促されるまま、清華はおっかなびっくり、慣れない手つきで着けた。それで売り場の小さい手鏡で姿を確認する。ほぅ、と小さく満足のため息を吐いた。
私は感嘆のため息をそっと、清華に悟られないように漏らした。
私の心はいつになく昂っていた。私の名前にあるサプフィールは宝石の意味。だから宝石をかたどったイヤリングを勧めた。
今、清華は私の名前と同じ意味を持つイヤリングを身につけている。それが、たまらなく嬉しい。心が躍る。
側からみたら完全に愛が重いヤバイ奴だけど、別にいいよね?どうせ気付かないだろうし。
だから私はもう一押し。
「良く似合ってるよ」
だから、それにしなよ、って。
「ん、ありがと」
清華はそっと、大切そうに持つとレジへ行った。
百貨店を出ると空はすっかり暗くなっていた。
「いやー、暗いねー」
あっという間の時間だった。まだこういう時間が続いてほしいなーって密かに願ってる。願うだけじゃなくて、行動に移した。
「夕飯、どうしよっか?」
どこか食べに行こうと私は尋ねる。清華は嫋やかな微笑みを浮かべている。
「そうだね、どうせだからどこかに……」
言いかけて、清華はふと自分の買い物袋に視線を落とした。食べに行くのに邪魔だと思ってるらしい。確かにワンピースに小物にと多い。
「あ、じゃあさ。私の家、この近くなんだけど寄ってかない?それで荷物置いたら良いよ」
「それじゃあお言葉に甘えて」
偶然を装って、ホントは元から清華を誘うつもりでいた。今日のデートコースもなんだかんだ最後には私の家に近付くようにしていた。
乙女ってそういうものでしょ?恋の成就のためには色々画策するの。
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